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右田真闇の記事 (9)

whisp 2021/03/09 00:01

「真闇様からのプレゼント」 2021ハチロク誕生日祝賀ショートストーリー(進行豹

「真闇様からのプレゼント」
2021ハチロク誕生日祝賀ショートストーリー 進行豹


/////////

「はぁ」

仕方の無いこととわかっております。
双鉄さまにしか果たし得ないお仕事ですから。

「……はぁ」

日々姫と凪と乗務する。それもわたくしのお仕事です。
双鉄さまのお供をしたいと望むのは、分不相応な行為です。

「……はぁあ」

それでも今日のこの日には、双鉄さまの甘いお声で、
『おめでとう』と、ただ一言だけでもいただきたくて……

「はぁあああ」

「はーちゃん、そりゃあ寂しかとよねぇ。
夫婦になってはじめてのお誕生日だっていうのに」

「っ!」

よほどぼおっとしてたのでしょう。
真闇様に気づけませんでした。あわてて姿勢を直します。

「あの、ええと、真闇様」

「ん?」

「お誕生日とのお言葉は、双鉄さまの洒落っ気です。
レイルロオドは製造される――誕生しないものですから」

「製造された日がお誕生日じゃなかと?」

「その日でしたら、ロオルアウト日と呼称されます」

「ロールアウト日」

「旧帝鉄の社則では、レイルロオドが工機部から出荷され、正式に機体番号を与えられる。只それだけの日なのです」

「ふんふん。
ほんならやっぱり、お誕生日よね、レイルロオドの」

「はうぅ」

双鉄様のお言葉と、真闇様のご厚意を
否定することなぞできませぬ。

けれど、けれども……お誕生日という言葉の響きは、
その響きへの憧れは、わたくしをいっそう寂しくさせます。

「やけんね? おねえちゃんもはーちゃんに、
プレゼントばあげたいなぁって思うたばってん」

「ぁぅ」

恐縮すぎます。けれど否定もできませぬゆえ、
ただ縮こまって拝聴します。

「おねえちゃん、プレゼントばっかは上手じゃなくて……
ひーちゃんのことも、何度もがっかりさせちゃったし」

「左様なのですか? 真闇様に苦手があるなど、
わたくし、とてもびっくりしてしまいました」

「あるとよ。たくさん。プレゼントに、ほやに、
息の臭か人に、手袋の片っぽをなくさんでおくことに」

「まぁ!」

思いもかけぬ共通点に、うれしくなってしまいます。

「ナイショのお話にしていただければ助かるのですけれど、
真闇さま――わたくしも、手袋の片方をしばしば迷子に」

「あらまぁ。お仲間。うふふっ、うれしかとね」

「はい! 真闇様もうれしくお感じくださるのなら、
わたくしますますうれしくなってしまいます」

「ほんなら、ね?」

「きゃっ」

抱きしめられます。とてもふうわりしています。
双鉄さまのお胸にはない、まさしく至極のやわらかが――

「ではなくて! ええと、その……真闇様?」

「おねえちゃんプレゼント下手やけん。間違っとったら
そういってもらえると嬉しいんだけど……その」

言い淀みです。真闇様が。どきどきどきと、
レイルロオドの私にはない鼓動が伝わってまいります。

「はーちゃん、なんか我慢しとるでしょお。
我慢ゆーか、無理ゆーか、そんなん」

「っ!!!」

「んふふ、あたった」

否定――は、とても出来ませぬ。
間違いの無いことなうえ、真闇様のお言葉ですし。

「やけん、おねえちゃんからのプレゼントは、
あまやかしの時間でどうかなぁって思うて」

「あまやかしの時間……でございますか」

「はーちゃん。いっつもがんばっとるけん。たまには
甘えたほうがよかよって、おねえちゃんとしては」

「おねえちゃん……」

トップナンバアたるわたくしは、8620形レイルロオド、
全てのいもうとたちの長姉です。

なるほど確かにいもうとたちは、
わたくしに甘えようとしたかもしれません。

「ああ、いえ、けれど……レイルロオドが甘えるなぞと。
わたくしたちは、結局のところは物でございますので」

「はーちゃんがもし物だとして。
物は、あまえたらいけんの?」

「いけないいけなくないではなくて、甘えないかと。
例えば、冷蔵庫も洗濯機も醸造タンクも」

「甘える甘える。どれもめちゃめちゃ甘えてくるとよ」

「え!?」

「かまってあげんとぽぉんて壊れて、
『きちんと手ばかけてー』ゆーてもう」

「!」

かまってもらえず、甘えて壊れる。
回路にノイズが走ります。

「壊れて、しまう――」

でしたら……
わたくしのこの、異常な頻度の憂鬱な排気はもしかして。

「ことに、ね? はーちゃんのこころは、魂は。
部品交換で簡単になおるゆーなものじゃないでしょお」

この不愉快なノイズを人は、不安と称するのでしょうか。
同じか否かわたくしには、確かめようもありません。

「それは……左様でございます。左様であると、
少なくともわたくしたちは認識しております」

たましい。こころ。タブレットに宿るとされているもの。
その詳細は1レイルロオドのわたくしには知りえませぬが。

「こころは、恐らく……」

大廃線の末期。解体リストにあげられるのを恐れるあまり、
こころを壊して寿命を縮めた妹を、何体も見て参りました。

「……左様、ですね。こころは恐らく交換不能な消耗品。
一度破損をしたならば、決して元通りには戻せない」

「ん。おねーちゃんもそぎゃんふうに思う。でね?
はーちゃんが万一こころば壊しちゃったら、双ちゃんは」

「っ!!!!」

それは――断じて。絶対に避けねばなりませぬ。
わたくしが手入れを怠ることで双鉄さまを悲しませるなど。

「……甘えることは、
こころのメンテナンスとになるのでしょうか」

「たぶん、きっと。おねえちゃんは、少なくとも
今のはーちゃんには利くかなぁって」

「でしたら。でしたら――大変恐縮ではございますが。
その――わたくしを、あまやかしていただけましたら」

「もちろんよかよ」

「んっ……」

柔らかは、お胸だけではありません。
髪を撫ぜてくださいます手の、なんとふわりと暖かな。

「いいこ。いいこ。はーちゃん、いいこ。
とってもまじめながんばりやさん」

そうして、お声も。意味ではなくて響きがすうっと、
ここちよく溶け、わたくしのどこかに共鳴します。

「いいこ、いいこ。はーちゃん、いいこ。
がんばりすぎまで、がんばれちゃうこ」

「あっ」

「ん?」

やさしいなでなではそのままに、お声の響きがとまります。
それが本当に寂しくて、声が引きずり出されていきます。

「あの……
わたくし、がんばりすぎなのでございましょうか」

「がんばりすぎかもって、
はーちゃんはどぎゃんして思うたと?」

考えずとも答えられると――
思うと同時に、ことばは流れでています。

「口から『はぁ』と、不正規な排気が続くのです。
とても頻繁に。けれど、止めようとしても止まらなくて」

「どぎゃんして……」

なでなで、なでなで。
同じリズムがつづくからこそ、沈黙を怖く感じます。

「うん。はーちゃんはどぎゃんして、
口からため息、でちゃうと思うと?」

「恐らく、ですが――」

なでなで、なでなで。許されていると感じます。
いまこのときは、何を申しても平気なのだと。

「双鉄さまのご不在を、寂しく思う……
そのせいであるかと、わたくしは」

「どぎゃんして、双ちゃんがおらんと寂しいの?」

「それはもちろん、一分一秒ででも長く。
双鉄様と一緒の時間をすごしたいと――っ!!?」

そこまで話して、自覚します。
わたくしが本当は、何を恐れているのかを。

「……人間の男性の平均寿命は70年以上と学びました。
あと50年、少なくとも双鉄様は旅を続けられるでしょう」

「きっと、そぎゃんね」

「わたくしは所詮老朽機です。どれほどお手当を頂いても。
あと20年――10年もつとは思えませぬ」

「そぎゃんと?」

「はい。妹たちの末路を調べるに、恐らくは。
ですので――ですので、わたくしは」

なでなで、なでなで。
どんなに浅ましい望みでも、手指が優しく引き出します。

「わたくしは、双鉄さまと一緒にいたい。
片時もはなれたくないのです」

「どぎゃんして、片時もはなれたくなかと?」

「わたくしを覚えていてほしいから。
わたくしを思い出していただきたいから、それだけです」

それだけだからこそ強い――
なんと浅ましい欲でしょう。

「もちろんそれが双鉄さまのお時間を奪うともわかります。
わかってもなお、望むことを止められない……」

だから、苦しい。
思考が無限循環し、どこまでだって加熱して――

「……真闇、様」

真闇様なら。双鉄様が心底から頼り切ってる真闇様なら、
あるいは、もしかして正解を――

「もしも願うことが許されるなら――
ああ、お願いです真闇様」

許されているのだとしても、程があります。完全にそこを
踏み越えて――なおも問わずにはいられませぬ。

「わたくしはどのようにすればよいのかを――
その道筋を、どうかお示しください」

「はーちゃんの道筋だけじゃいけんでしょお」

「えっ!?」

「双ちゃんの道筋と寄り添える道じゃなくっちゃ、
意味のなかけん」

「あ」

なでなで、なでなで。
強張りきっていました何かが、ほぐされていくと感じます。

「やけん、おねえちゃんから話してあげよーか?
双ちゃんに、はーちゃんが何を悩んでいるか」

「お気持ち、まことにうれしうございます。
けれども、ですね。真闇様」

なでなで、なでなで。手がどこまでもあたたかだから、
思いをそのままことばにできます。

「わたくし、もう大丈夫です。自分のことばで伝えます。
なにが不安か、真闇様に教えていただきましたので」

「そっか。もう大丈夫なんね?」

「はい。いまはそのように感じます」

「うんうん。そいばよかとねぇ」

なでなで、なでなで。
手指はいまだとまりません。ただただ甘く暖かに――

「たっだいまー! おまたせー!!」

「っ!!!?」

日々姫の声に飛びのきます。
あれほどの甘さとあたたかが、一瞬に消えてしまいます。

「にぃにの分もお祝いするけん!
ハチロク、楽しみにしとってねー」

「は、はい! ありがとうございます、日々姫」

とととと足音。階段を声ごと駆け上がっていきます。
なんと元気なことでしょう。

「石炭ケーキ! れいなちゃんとこさえたけんねー。
プレゼントもね、きっと喜んでもらえるかなって」

「あらまぁ」

ふんわり、微笑。
真闇さまの唇が、わたくしの耳に近づきます。

「期待してよかよ?
ひーちゃん、プレゼント選びもセンスの塊やけん」

「はい。大いに楽しみにさせていただきます。
けれども――あの――大変恐縮なのですが、真闇様」

「ん?」

「ひとつだけ、どうかひとつだけ訂正をさせてください」

「もちろんよかよ。ばってん――訂正って?」

1レイルロオドが人間に訂正などとおこがましい。
けれどそれでも――どうしても伝えねばなりませぬ。

「真闇様のプレゼント選びは、下手どころか、上手です。
それも、極めつけにお上手かとわたくしは感じます」

「あらまぁ」

にっこり、とても嬉しげな笑み。

ああ、この方は――
どこまでだってやわらかくあたたかい。

「最高のお誕生日プレゼントを、
ありがとうございます! 真闇様!」


;おしまい」

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whisp 2021/01/15 20:45

【進捗報告】LR追加シナリオ真闇 『真闇と御一夜新婚旅行』プロット素案(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!
寒いですね!!!


「まいてつ全部入りプロジェクト」
https://www.lose.jp/official/mzen

今音声の台本を書いているので進捗ちょっとお休みしてますが、
シーンだけではなくストーリーも追加される3サブヒロイン、「れいな」「稀咲」「真闇」のプロットはもう素案整っておりますので、
本日はそのなかから「真闇」をご紹介させていただきます!

「れいな」については
https://ci-en.dlsite.com/creator/922/article/415991
でご紹介済みですので、未チェックの方はぜひぜひです!


と、いうことで、プロット素案、参ります!!!
なお、プロット素案は当然ながら「超どストレートなネタバレ」となってしまいます。

ので、どなたでも無料会員登録だけでお楽しみいただける「ファンクラブ会員向け記事」として、別枠とさせていただきます。
「物語は完成後に!」という方は、ここまででバックしていただけましたら幸いです!

フォロワー以上限定無料

『真闇と御一夜新婚旅行』プロット素案

無料

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whisp 2020/11/24 20:30

【R18台本公開】『まいてつLR 日々姫&真闇バイノーラル「エッチのあとの、姉妹お掃除」』(進行豹

『まいてつ Last Run!!』
https://lose.jp/maitetsu/

数多ある店舗様専売特典
https://lose.jp/maitetsu/maitetsu_shopgoods/

その全てを網羅いただくことはなかなかに困難!

ということで、現在『ASMRボイスドラマの台本だけでも、順次「会員登録だけでどなたにもご覧いただけるコンテンツ」として順次紹介していこう!』というキャンペーン(?)を開催しております。


と、いうわけで本日ご紹介いたしますのは、日々姫&真闇姉のバイノーラル/ASMRボイスドラマ!
『エッチのあとの、姉妹お掃除』


の収録台本でございます!

お掃除ということはお口を使うのですけれど、
お口を使ってもらうと、その場所は耳からかなり遠くなってしまうので、ASMR的にはおいしくございません。

その弱点を解消するため、どんな感じに工夫したのか!
どぞ、ご確認いただけますと幸いです。

なおこちらはゲーマーズ様で

< B2タペストリー_日々姫&真闇_マイクロビキニ(Wスエード) 単体>
https://www.gamers.co.jp/pn//pd/10485800/

<本編セット>
https://www.gamers.co.jp/pn//pd/10485818/

どちらも販売終了となってしまっております。

右田姉妹への篤いご支持に、こころより御礼申し上げます!!


と、いうことで、参りましょう!!!

フォロワー以上限定無料

「エッチのあとの、姉妹お掃除」(収録台本&レーベル:レーベルデザイン 佐藤ねこ丸

無料

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whisp 2020/05/31 22:02

【収録台本】まいてつ:真闇読み聞かせ『ネコ岳のネコ』(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!!!

あやかし郷愁譚の購入特典で
https://www.dlsite.com/maniax/promo/ayakashinostalgia

『まいてつ読み聞かせボイスドラマ』 全7話

が、18作品コンプリート特典としてついてくることになりました!!!

内訳は以下の通りです!

・日々姫 「長靴をはいたネコ」
・ポーレット 「犬が言葉をなくしたおはなし」
・れいな 「炭鉱の白犬」
・ふかみ 「うさぎのもちつき」
・凪 「清柾公(せいしょこ)さんの虎退治」
・真闇 「ネコ岳の猫」
・稀咲 「きつねのみそしる」



というわけで、本日も台本をご紹介させていただきます!

前回は凪さま! 『清柾公(せいしょこ)さんの虎退治』でございました!
本日はうってかわって大人の魅力! 真闇姉の『ネコ岳のネコ』をご紹介申し上げます!

こちらは実際 熊本県は阿蘇の「根子岳」につたわる民話をアレンジしたものでございます!

読み聞かせ中の真闇姉の思い出話とか、ひーちゃんへの思いとか聞き所結構たくさんかと思うので、ぜひぜひぜひぜひできればお耳で!

それが無理ならこの台本で! お楽しみいただけましたらうれしいです!!!


///////////////

;真闇、黒猫ランジェリー特典ボイスドラマ
;『真闇の読み聞かせ「ネコ岳の猫』
;進行豹 v100_2016/12/23


;以下、セリフは全て真闇
;タイトルコール

「右田真闇、黒猫ランジェリー抱きまくら特典ボイスドラマ
『真闇の読み聞かせ「ネコ[岳'だけ]の猫」』」


;本編

「ごめんねぇ、遅ぉなってしもうたねぇ」

「まだ起きとってくれて、よかったあ。
もう寝とったら、おこさんよーにって、
気ぃ付けてお布団入らねばいけんでしょお?」

「そいば、ちょこーっとさみしかけんね。
起きとってくれて、うれしかと」

「本も、ちゃあんともってきたとよ?
読み聞かせば、してあげるための本」

「ほんとはね? もー一冊、
読み聞かせてあげたい本もあったんよ」

「ばってん、その本ば、ひーちゃんにも大事な本やけん。
ひーちゃんが、読み聞かせばすることあったら、
きっとその本、選ぶだろうなって思うたけん」

「やけん、ウチは、
ウチひとりだけの思い出の本――選んできたと」

「この本はねぇ、ウチがこどもだったころ、
父さんからも母さんからも、じーさまにも読み聞かせてもらいよった本」

「そん中でもね? じーさまに読んでもらうんが、
ウチは、一番好きだったとよ」

「じーさまみたいには絶対には読めんけど。
でも、楽しさば、きっと伝わるって思うけん」

「そうしたかったら、目ば閉じて。
想像しながら、聞いてみて?」

「ほんなら、読むとね」

「『ネコ岳の猫』」



;以下の『』で始まる部分は、読み聞かせ
;「」ではじまる部分は、その間の会話です

『むかしむかし、クマ川のほとりの小屋に、
新三郎という若い漁師が、年老いた母と、クロという名の黒猫と、
つましく暮らしておりました。』

『母が病に倒れてしまい、薬がいるようになりました。
新三郎のつましい暮らしは、みるみる苦しくなりました』

『クロはネズミを毎晩のようにとってきますが、自分で食べるはのお魚ばかり。
もちろん新三郎の方でも、ネズミをごはんにはできません』

『おかずを減らして、漁に出る日を増やして、それでも。
もとから乏しい蓄えは、ついに無くなってしまいました』

『その晩、新三郎は決心しました。
「クロやクロ。お前をこれ以上飼っておけない。
船頭さんがもらってくださるとのことだから、
舟のネズミを退治して、そこで幸せになってくれ」』

『あくる朝、
耳の後ろの毛をていねいになでつけてやり、
新三郎は船頭さんに、クロを渡してしまいました』

『夜が更け、ひどくさみしい思いでおりますと、
「にゃあん」と甘えた声がします。
まさかと思って戸を開けたなら、クロがちょこんと座っております』

『クロやクロ、帰ってきてはいけないよ。
船頭さんのところで、新鮮なお魚をいただきなさい』

『けれどもクロはそのまま眠ってしまいます。
仕方がないので、一晩泊めて、
船頭さんのところに送りとどけますと、
船頭さんはかんかんに怒っていいました』

『「この猫ときたらネズミの一匹もとりゃしない。
無駄飯ぐらいをおいとく余裕はウチにもない」』

『「クロやクロ。
お前は家に帰ってきたくて、わざとネズミをとらなかったのか」』

『聞いてものんきに毛づくろい。
新三郎はクロをかわいく思いましたが、
やはり養ってはおけません』

『あくる朝、新三郎はクロをつかまえ、言いました。
「クロやクロ。焼酎蔵の杜氏さんが、お前のことをほしがっている。
焼酎蔵なら、猫がいるだけでネズミは逃げる。仕事もせずに、居るだけでいい」』

『今度こそはお別れだと、
耳の後ろの毛をていねいになでつけてやり、
新三郎は焼酎蔵の杜氏さんに、クロを渡してしまいました』

『夜が更け、ひどくさみしい思いでおりますと、
「にゃあん」と甘えた声がします。
まさかと思って戸を開けたなら、クロがちょこんと座っております』

『「クロやクロ、帰ってきてはいけないよ。
杜氏さんのところで、お米のおまんまいただきなさい」』

『けれどもクロはそのまま眠ってしまいます。
仕方がないので、一晩泊めて、
杜氏さんのところに送りとどけますと、
杜氏さんはかんかんに怒っていいました』

『居つかぬ猫ならおらぬも同じ。
おまんま喰わせる義理もなし』

『「クロやクロ。お前は家に帰ってきたくて、
ひとときもじっとしなかったのか?」』

『聞いてもにおいをかぐばかり。
新三郎はクロをけなげに思いましたが、
やはり養ってはおけません』

『あくる朝、新三郎はクロをつかまえ、言いました。
「クロやクロ。いよいよ遠くお別れだ。
山のお寺の住職さまがもらってくれるとおっしゃるから、そこでお世話になってくれ』

『山を越えては帰ってこれまいと、
耳の後ろの毛をていねいになでつけてやり、
新三郎は山のお寺の住職さまに、クロを渡してしまいました』

『その晩も、その次の晩も、さみしい気持ちでおりますと、
「にゃあん」と甘えた声がします。
まさかと思って戸を開けたなら、葉っぱだらけになったクロが、ちょこんと座っております』

『「クロやクロ、帰ってきてはいけないよ。
ご住職さまのところでたんと、ありがたいごはんをいただきなさい』

『けれどもクロはそのまま眠ってしまいます。
仕方がないので、一晩泊めて、
山のお寺に送りとどけますと、ご住職さまはクロにいいました』

『お前さんほど賢い猫ならわかっておろう。
今のままでは新三郎の暮らしは立たぬ。
お前さんは[安蘇'あそ]のネコ岳で修行して、
一人で暮らしを立てられるようになりなさい』

『するとクロは、ご住職様の話がわかったように、
新三郎の手を抜け出して、ちょこりと頭をさげました』

『そのまますたすた、安蘇の方へと歩きますので、
思わず新三郎は追いかけました』

『「クロやクロ。安蘇のネコ岳はずいぶん遠い」
新三郎は、売り物の魚が入ったカゴを開いて、
鮎を三尾、てぬぐいに包んでやりました』

『「この手ぬぐいと、三尾の鮎がはなむけだ。
無事にネコ岳にたどりつき、立派な暮らしをたてるのだぞ」』

『鮎を包んだ手ぬぐい背中にしょわせてもらい、
クロは「にゃあん」と一声ないて、すたすた、すたすた。
すぐに見えなくなりました』


「あー……」

;すん=鼻すする
「ちょっと……ちょこぉっと、ごめんねぇ。
(すんっ――)」

「あ~……おねーちゃん、ここんとこ――
こぎゃん話ば――思い出しちゃって、弱かとよ」

「猫ね? 右田の蔵にじゃなくて。
右田の家にもおったんよ。
ひーちゃんが、まだ学園に入園もしとらんような、そぎゃんころ」

「ウチがものごころついたときには、
もーずいぶんなおじいちゃんネコで。
けど、ウチにとっては、おにいちゃんみたいな存在で」

「遊んでもろうて、添い寝してもろうて、
怖か犬、追い払ってくれたこともあって」

「木登りも、トムさん待っとってくれるんよ。
先に登って、こっち見て、
『まだ来ないのか?』って感じの顔で」

「あ、トムさんって、猫の名前。
ハイカラでしょ。じーさまがつけよったって」

「オールド・トム・オブ・ミギタが、フルネーム。
[詠国'えいこく]かなにかの、お話にでてくる猫の名前って、
オールド・トムば」

「それこそ、絵本とかもね? ぜーったいに邪魔したりせんの。
いっしょうけんめい読んどるとなりで、寒か季節には、
ぴったりくっついてくれたりもして」

「あったかかったなぁ、トムさん。
おとなになっても、いつかお嫁さんになるときだって、
すうっと一緒って思うとった」

「ばってん――ずうっと一緒には、いれんよね。
だんだん、トムさん遊んでくれんよーになって」

「猫が遊ばんよーになるって、相当よね。
けど、こどもだったけん。
そぎゃんこつの意味もまだわからんで――
いつもみたいに、その日もふつーに学園ば、いって」

「かえってきたら……トムさん、亡くなっとったんよ。
毛布にすっぽりくるまれて、寝てるのかなぁって思ったら。
冷たくなっとって」

「その日はじいさま、おらなくて。
父さんと母さん、ふたりして泣いとって。
びっくりしてびっくりして――悲しいよりもびっくりしちゃって」

「話ね? 聞かんでも、聞かせてくれるんよ。
母さんも、父さんも。トムさんのこと、ぽつり、ぽつりて」

「だんだん弱って、最近寝たきりだったとか。
痛いとこあって、にゃーにゃー悲鳴あげとったとか」

「その悲鳴も、最近は細ぉなってきとったとか。
……ウチはそれでも、ビックリしすぎとったから、
ふーんて、なんとなーく聞いとって」

「それでね? 次の日も学園、ネコで[忌引'きび]きはできんもんね。
ふつーにあるけん、ふつーに行って」

「算数の授業で、『わかる人』って先生おっしゃって、
『はい』って手ばあげて、黒板の前いって、チョークもって」

「式ば、書きよるときにね? ふうって、
ほんとにふうって思ったんよ。
“あれれ? おかしいな”って」

「トムさん、寝たきりだったって――
ばってん、ウチが学園ばいくときには、
ふつーに見送ってくれとったんよ」

「玄関のとこまでのこのこ来て、
振り返ってもいてくれて」

「そん光景ば思い出してね?
思い出したら――ぶわーーーーって。
悲しいの、一気にきちゃって」

「トムさん、無理してくれてたんだって、思うて。
ウチに心配かけんよう、平気なふりばしてくれてたって」

「ウチが一緒にいるときは、どぎゃんと痛い思いしてても、我慢して。
ウチが不安になるような鳴き声、
ただの一度だって、聞かせんでいてくれたって」

「わかっちゃったら、もうダメで。
泣いて泣いて、人生であれほど泣いたことって無いくらい泣いて」

「そうしたら先生、『わからないなら無理しなくてもいいですよ』とかいうんよ。
それがまた、悔しいみたいで悲しいみたいで――って、あ」

「いけんねぇ、うち。なぁんの話ばしとるんかねぇ」

「読み聞かせばしてほしい、だなんて……
疲れてるってことでしょお?
やけん、クスっできるお話、選んだつもりだったとに」

「いけんいけん! 仕切りなおし、ね?
おねーちゃん、今度はちゃんと、
ちゃんと、最後まで読み切るけん」

;息吸う
「(すうっ)――うんっ!」


『三年が過ぎ。新三郎の母の病気が癒えました。
暮らしもだいぶん上向きになり、たくわえもいくらかできました』

『「安蘇のネコ岳にいってくる。
クロがいたなら、連れ戻してくる」
そう言って、新三郎は安蘇への旅に出かけます』

『ネコ岳に登りしばらくすると、霧がたれこめてまいります。
霧はみるみる濃くなって、新三郎は道に迷ってしまいます』

『「これは困った。どうしよう」
あてなくトボトボ歩いていると、遠くに灯りが見えました。
灯りを頼りに進んでいくと、古いお屋敷が見えました』

『ごめんください。ごめんください。
道に迷ってしまいました。霧が晴れるまで、休ませてはくれませんか』

『すると奥から、女の人が出てきました。
「ネコ岳の霧はあたたかくなるまで晴れません。
今夜は泊まっておいきなさい」』

『「それはありがたいお話ですが、猫の修行[場'ば]を探しています。
いっこくも早く着きたいのです」』

『「猫の修行場なら近くです。霧が晴れたら案内しましょう。
この霧では地元のものとて、ガケから落ちてしまいます」
そこまで言われてしまっては、出かけることはできません』

『「そういうことなら、一晩泊めていただきたい」
「こまったときはお互い様です。お風呂も食事もご遠慮なさらず」』

『長い長い廊下を通り、奥の座敷に通されます。
まずは風呂でも、と、長い長い廊下を歩くと、
すれ違った女中さんが、ひどく驚いた顔をします』

『「あらお懐かしや、新三郎さん」
「はて、どこかでお会いしましたか」
「鮎を三尾、この手ぬぐいに包んでいただきましたものです」』

『「なんと、クロか!
人間の姿になるとは、修行がうまくいったのか」
そう尋ねると、クロはきょろきょろ、あたりを伺い、囁きます』

『「修行がうまくいきまして、今はすっかりネコマタです。
名前も姿も変わってしまいました。もう人の世には戻れません。
新三郎さんはお逃げください」』

『「逃げるとは?」
「このお屋敷のものを食べたり湯につかったりした人間は、[窯猫'カマネコ]にされてしまいます。
窯猫にされてしまったら死ぬまで働かされるのです」』

『クロは新三郎を裏口から出し、手ぬぐいを一本渡します』

『「この手ぬぐいをお返しします。ネコマタのまじないをしておきました。
この手ぬぐいで口をふさげば、ネコ岳の霧には迷いません」』

『「もう人の世に戻れぬのなら、さよならか」
「さようならです、新三郎さん。
最後に一度、『クロや』と呼んでくださいな」』

『「クロやクロ。ネコマタの決まりが変わったら、
いつでも帰ってくるのだぞ」』

『耳の後ろなでてやり、新三郎はクロと別れて、
てぬぐいで口をしっかりおおい、ネコ岳をひたすら降りておきました』

『「お待ちなさい」
「おとまりなさい」
追いかけてくる声が近づきます』

『もちろん、待ちも止まりもしません。
新三郎は必死になって駆け続けます』

『「逃げ切られます、猫旦那様」
「えい仕方がない湯をかけろ!」』

『湯につかったら、窯猫にされて働かされる。
クロの言葉を思い出し、
新三郎は、てぬぐいかざして傘にします』


『ざばあっ!』


『しぶきがいくらかかかりましたが、
ネコマタのまじないのおかげでしょうか、ほとんど濡れずに済みました』

『新三郎は、そのままふもとの村におり、
ひとごこちつき、やれやれと顔をぬぐいます』

『「あ」。
手ぬぐいはまだネコマタの湯で濡れたままです』

『ぬぐってしまった口元からは、
猫の毛が、ぼうぼう生えてきましたとさ』

『そいばっかり!』



「はい、おしまい。
『そいばっかり』は、『それで全部』っていう意味やけん」

「ばってん、じいさまが朗読ばしてくれるときには、
『そいばっかり』がね?
もーちょっとだけ、先だったんよ」

「じいさまはねぇ、読み聞かせばしてくれるおき。
ほんとに手ぬぐいば用意して、
口のまわりば、つかれたーって感じにぬぐって」

「そいで『あ!』って、おおきな声で言いなさるんよ」

「『ぬぐってしまった口元からが、
猫の毛が、ぼう生えてきましたとさ』って。
そこまで読んで、手ぬぐいば口からはずして」

「『こおんな風にな!』って、あのおひげ!
ぼうぼうなおヒゲを見せるもんやけん、
ウチもう、おかしくて楽しくて!」

「それからしばらくは。
男の人のおひげみるたび、
『ネコ岳いってきたとかなぁ?』って、思うとったと」

「実際あるんよ? 安蘇に、ネコ岳。
寝る子供の山岳、って書いて、ねこ岳」

「じいさまにお願いして、
ウチもいっかいだけいったことあると」

「そんときも霧がでたばってん、
ネコの修行場――みつからなくて」

「見つかったら……ね?
トムさんに会えるかなぁ、とか。
こどもやったけん、ちこょーっと、本気で思とったかも」

「……いつか、いこうね? ネコ岳にも、ほかのとこにも。
ふたりで一緒に」

「思い出の場所、ぜぇめぐって、新しか思い出の場所ばつくって」

「ふふっ、ウチは杜氏やけん。
そぎゃんと旅ができるころには――
杜氏ば、引退しよるころには、もうおばあちゃんになっとろーけど」

「ああ……ゆーやらなーんか、もうおねーちゃん年なのかなぁ?
読み聞かせしとったときにへ?
昔のことば、どんどん思い出してきちゃって」

「思い出とかは、傘やけんねぇ。
冷たか雨ば、しのぐ分には便利のよかけど――」

「ばってん、さしすぎてたら、
おひさんば照りだしてきたことにも気づきそこなうけん」

「やけん。思い出話ばもうおしまい!
夜もずいぶん、更けてきとるし」

「ん……んーーーー、んっ!
そぎゃん思うたら、急に眠たくなってきたとよ」

「だっこ、おふとんの中でしてあげよおね。
だっこして、いいこいいこして」

「遠慮せんで、おいで?
毎日毎日がんばっとるんも、
疲れとるんも、わかっとるけん」

「うふふ、かわゆか。
いいこいいこ。いいこいいこ」

「たーっぷりゆっくり甘えてよかとよー。
あ、そうだ。ね、まぶた、ちょこーっと触るねぇ」

「ん……よいしょ」」

「ど? おねーちゃんの手、あったたかとでしょ?
こいで、まぶたば軽ぅく押して――」

「気持ちよかよねー? 
おねーちゃんも知っとるんよ? そん気持ちよさ。
してもらうけんね、ひーちゃんに。
あの子も手、ぽかぽかやけん」

「他のところも、ぽかぽかの手でさわってあげる。
つかれてるとこ、たくさんたくさん、なでなでしてあげる」

「いいこいいこ、なでなで、なでなで。
がんばっとるねー。なでなで、なでなで」

「あたまもなでなで、おかおもなでなで、
おてても、おなかも、あんよもなでなで」

「ん……ふ。んふふ。
すっごく、しあわせ、
なでとるおねーちゃんの方が、癒されちゃってる」

「良かね、恋って。
好きな人といっしょにいるって、すごかこととね」

「しあわせ、ぽかぽか。
このしあわせにくるまれたまま――眠りたかと」

「ん……」

「ぎゅうってすると、あったかとねー、眠たかとねー、
ふたりでおるんは、しあわせとねー」

;あくび
「ふぁ……あ……あー」

「あー、しあわせすぎて、おねーちゃん、結構本気でねむたかと。
やけん、いっしょに――このまま寝ようねぇ」

「手。つなご? つないだまま寝て……
うふふっ、起きたときにもつながっとったら、すごかとねぇ」

「それじゃあ、眠るね? 
手ばつないだまま。このまま、このまま――」

「おやすみなさい」

;終


///////////////


ご堪能いただけましたでしょうか!

これを! 真闇姉が読み聞かせしてくれる!!!

破壊力抜群すぎるかと思います!!!


というわけで、いよいよ次回は7本中の7本目! 大トリ! 稀咲先輩でございます!

ご期待ください!!!

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whisp 2019/12/14 22:21

【まいてつ】「日々姫と真闇のお母さんってどんなひと?」へのご回答です!(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!

今日はドルパというドールのイベントにいってきました!

「ハチロク運転体ドール」こと
『AniFee(アニフェー)シリーズ001 「まいてつ」 ハチロク 運転体Ver. 1/4 完成品ドール[CP/FairyLand]
https://www.amiami.jp/top/detail/detail?scode=FIGURE-051383

がそれぞれのマスターさんとこにロールアウトしていったとき、なにか困りごとがあったとして、関連のご質問などお預かりした場合。
いちいちCP/FairyLandさんのお伺いするのではなく、わたくしの方からでもお返事できるとよりよいかも……と考えてお迎えした日々姫ちゃんドール。

フェイス・ヘアメイクをくださいました郁岡さんや、衣装を作ってくださいましたカンさんなどなど、諸先輩のおかげで、わたくしもちょっとずつですが、メンテナンス、ケアなどできるようになってまいりました!

本日現在のドール日々姫ちゃんの様子はこちらです!
https://twitter.com/sin_kou_hyou/status/1205803523914391554?s=20

かわいい!!!!


みなさまもハチロクちゃんをお迎えすると、やれ振り鐘がほしいだの、やれ改札鋏がほしいだのいうことに必ずなるかと思いますので!
いまのうちから100円ショップ等めぐって、よさそげなもの集めておくとよいかもです!!!

そんなこんなで本日も!
「ものべの」「まいてつ」質問コーナー
https://twitter.com/sin_kou_hyou/status/1190613793128083456?s=20
いかせていただきたく存じます!!

本日も「まいてつ」本編がらみのご質問!
ご質問くださいましたのはkusaさんです!
まことにありがとうございます!!!

///
Q:「まいてつ」で真闇・日々姫の母親の描写が一切ない
(過去に双鉄たちと一緒に川下りに行ったという描写だけのはず)と思うのですが、
作中時ではどうなっているのでしょうか?
///

///
A:
「まいてつ -pure station-」だと、ご指摘のとおり、『共通10 くま川くだり』内の当該のシーンしか描写ないのですが、
実は! R18版のまいてつだと『ふかみH2』というかなりわけわからないところで、日々姫と真闇の母=双鉄の義母に関しては、重要な描写があったりします!!

///

→ご質問いただいてはじめて「あ」となったのですが、わたくしHシーンに『物語の本筋にはからまないものの、キャラクター造形にはかかわる』エピソードを盛り込むときが多分あって。
で、それは『全年齢版』だと、すっぽり落ちてしまうのですね~!

もちろん読んでいただかなくてもまったく問題ないものなのですが、読んでいただければ物語がより多視点となり、深みが増すものかと思いますので、もしも機会あったら、チェックいただけましたらと願うところでございます!

で。

右田家の「母」。双鉄の義母に関しましての描写、上記した2箇所。
まずはそれぞれご紹介しましょう!!

////

<共通10のもの>

【双鉄】
「右田の家の養子になって、ほどないころだ。
汰斗さんと、義父と、義母と、真闇姉と日々姫と」

【ハチロク】
「いかがでしたか?」

【双鉄】
「まだ慣れなくてな。緊張して、舟の外ばかりを見ていた。
季節は、丁度いま頃で――」

賑やかだった。舟は何艘もつらなって、その全てに
ぎゅうぎゅうにお客がつめこまれていた。

その賑やかさに温められて、舟から降りる頃には僕らも、
いくらか自然に、会話できるようになっていた。

【双鉄】
「景色は、変わっていないような気がするよ。
夏のクマ川の、穏やかなところも、荒いところも」


<ふかみH2のもの>
////

【ふかみ】
「これって、どういうシチュエーション、で……
撮った写真たち……なんです、か?」

【双鉄】
「シチュエーションというか……
ほとんどが、[義母'かあ]さんが撮ったものだな」

【ふかみ】
「[右田一酒造元'みぎたいちしゅぞうもと]の……真闇さんの前の、[杜氏'とうじ]さん?」

【双鉄】
「いや。真闇姉は、そのお祖母様から引き継いだそうだ。
どうも、義母さんには酒造りの才は無かったらしく」

【ふかみ】
「そうなんですか」

意外、という風な声を出し。
けれどもああ、とすぐさま小さく頷きもする。

真闇姉があの若さですでにベテラン杜氏だということが、
事実を逆から示していると、恐らくは気づいたのだろう。

【双鉄】
「それゆえ、[義父'とう]さん以上に忙しく働きまわっていた。
御一夜にはほとんど戻ってこれないような人でな――」

【ふかみ】
「はい」

【双鉄】
「帰ってくれば真闇姉と日々姫とを構いまくって、
おまけに写真もばっしゃばっしゃと撮っていたのだ」

僕などは、それに巻き込まれていたようなものだが――
いや、ああ。そうか。

今考えてみれば、なるほど。
我ながら思う目つきの悪さの、それも一因なのかもしれぬ。

////


ってなことで。
双鉄の義母さんは、

・右田の家に産まれた長女であるが、酒造りの才に恵まれなかったので、杜氏になることは早期にあきらめていた

・その分、営業活動と婿取りを頑張った。17才のときに婿を右田家に迎え入れ、真闇姉は実は19才のときに産まれた子

・ので、まだふけこむような年じゃない。おまけに美人。日々姫の快活さと真闇姉の包容力を兼ね備えた元気な人妻。胸の大きさは日々姫がS。真闇がLとすると、M。

・双鉄の物語が動き出して以降も、営業のため、日ノ本どころか海外にまで飛び回っている。(日々姫・真闇の両親は両方とも営業力が極めて高い。母は足で稼ぐタイプで、父は情報と論理で稼ぐタイプ)

・普段かまえない分、帰ってきたときには日々姫も真闇も双鉄も、めっちゃかまって甘やかそうとする

――って感じのひとでございます!

このようなひとが、curaさんのキャラデザで画面内に登場したとき、どうなることかを少し想像してみてください。

左様です。

『ぜひとも攻略ヒロインに』

という声が出てきてしまうに間違いないのです!!!


のでので、今後とも多分、真闇と日々姫の母はきっと画面内には登場せず。
その描写も極めて少なくありつづけることが予想されます。

しかし、両親とも。娘たちを、義理の息子を、深く愛し。
営業力という物理的経済的な力をもって、その足元を支え続けてくれているのです。


――って感じでございます!! ご参考になりましたでしょうか?

それでは、また!!!

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