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whisp 2021/10/25 23:01

2021日々姫お誕生日記念ショートストーリー 『プレゼントにはネックレスを』(進行豹

2021日々姫お誕生日記念ショートストーリー
『プレゼントにはネックレスを』

2021/10/25 進行豹


  *


「ネックレス。――首飾りか」

自分から聞いたことではあるが、少し意外な返事とも思え聞き返す。

「誕生日のプレゼントに、日々姫は、ネックレスが」
「欲しかと、すっごく」

言い終える前に言い切られた。
僕を見つめる日々姫の目線はかなり強い。

「心得た。恋人同士になって初めてのバースデープレゼントだ。
最初から、なんであれ日々姫の望むものを送るつもりだった」
「なら!」
「!?」

言葉が、視線がさらに強まる。
ぐぐっと鼻先が寄ってくる。

「私の欲しか、私に似合いのネックレス。にいにが選んで贈って欲しかと!
ねぇねとかハチロクとかポーレットさんとか、他の誰かにに聞くとかじゃなく、
にぃにが自分で――自分ひとりで、私のことをいっぱいいっぱい考えて――そうして贈って欲しかとよ」

「心得た」

そうとは口では答えても、内心かなりヒヤリとしている。
……装飾物の類のことなど、まるきり興味も知識もない。
ならば知識のある者に教えを請いたく思うのだけれど――

「心得た。自分ひとりで、日々姫のことをいっぱいいっぱい考えて。そうして似合いの品を贈ろう」
「うん!」

視線が和らぐ。笑顔に崩れる。
距離が離れて、ふわり、日々姫の甘やかな香りだけが一瞬、残る。

「にぃにぃのこと信じとるけん! やけん! 楽しみにしとるけん!!」
「うむ!」

……大事な大事な義妹で、いまとなっては惚れた女だ。
期待されれば、なんとしたって応える他にありえない。

「しかし……ううむ。まずは知識を仕入れるところからはじめるべきか」

『誰かに聞く』を封じられてしまった以上、知識を求めに行く先は、書物か、ネットか、あるいは――

「――ああ、いや」


///

「双ちゃん、どぎゃんしたと? そぎゃんひーちゃんのことば見て」

「うむ。いやなに。よく見てみれば日々姫は案外、細やかな装飾品を身に着けているのだと思ってな」

「双鉄さま? いかがなさいましたか? 日々姫になにか」

「なに、大したことではない。日々姫の身につけているものは、花の模様が多いのだなといまさらながらに感じただけだ」

「双鉄くん? 日々姫ちゃんに……ああ、話しづらいとかなら、わたし、きっとなにかのお役にたてるかなぁって」

「いやいや、そうではない。日々姫の仕事ぶりをみていただけだ。……成長著しくあれど、まだまだ弱い……不安定な部分も残しているな、と」


///


「で。だ」

小さな包み。
石炭ヒトカケの重量もないに決まっているのに、やけに重く、固く感じる。

「僕なりに精一杯に日々姫を見つめ。その上で考え、選んだ――これがその贈りものとなるのだが」

「♪」

ぴょん、と日々姫が小さく跳ねる。
髪飾りの、ブラウスの花がつられてゆれる。
そうして、気づく。
ただよってくる髪の香りも、また、花だ。

「うれしか! ね、にいに、開けてもよかと!!」

「無論だ。それはもう日々姫のものなのだから」

「うふふっ」

日々姫の細い指先が器用に動き、ピンクのリボンを、白い包装を剥がしていく。
その内にある濃い青色の箱がぱかりと開かれて――

「かわゆか! お花! 白いお花のペンダント!!」

「うむ。日々姫の暮らす毎日に馴染むものをと思ってな」

「うん! すっごくしっくりはまりそう! ね? にぃに。にぃにの指でつけてほしかと」

「心得た」

幼いころから日々姫の肌には幾百度となく触れている。
恋人同士になって以降は、それまでとまるで違った意味でも、幾度も幾度も……

なのだけれども。

「ううむ、微妙に緊張するな」

「えへへ、うれしか。お願い、守ってくれたとね」

ぱっとほころんだ笑顔の頬が、じわり、桃色に染まってく。

「……いまさらあらためて緊張するほど、にいに、私のことばしっかり見つめてくれたとね」

「!」

言われて気づく。

自分で考え自分で選べと言われたがゆえ――
判断を他に委ねる道を最初から閉ざされたゆえ――

「だなぁ」


今までになく日々姫を見つめた。
面倒をみるべき相手としてではなく、いつでもそばにいることが当然である存在としてでもなく――

「恋人としての日々姫のことを。一人の女性な日々姫のことを。今までになくしっかりと僕は見つめて」


見つめたことで芽生えた想いか。
見つめる前からあった想いに気がついたのか。
どちらであれど、何の違いも生じない。

「だから、うん。緊張して当然なのだ」

納得する。理解する。
この指先の震えこそ、僕の正直な感情なのだと。

「――僕は日々姫を、どうしようもなく好きなのだから」

「大好き! にぃに!!!」

日々姫が僕に飛びついてくる。
つけたばかりのネックレスを、その先端の新たな花をふわりと揺らし。

「さいっこーのお誕生日プレゼントを、ありがとう!!!」


;おしまい

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whisp 2021/09/10 00:00

2021右田ひかりお誕生日記念ショートストーリー「ひかりのスフレチーズケーキ」(進行豹

2021/09/10 右田ひかりちゃんお誕生日記念ショートストーリー
「ひかりのスフレチーズケーキ」 作:進行豹


「あのね、ひかりね、ケーキ、つくってみたいなの!」
「ケーキ……バースデーケーキをか」
「うん!」

にこにこにこ。
ひかりの笑顔にはただ一点の曇りさえない。

それを僕らが曇らせるなど、断じてあってはならないことだ。

(買ってあったものは、明日御一夜鉄道にもっていき、皆で食べれば済む話だ)

ならば唯一の問題は――

「ケーキって、どんなケーキがつくりたいの?」

僕の疑問を、ポーレットがふんわり言葉にしてくれる。
タイミングの良さ、気持ちの一致。それだけで僕も幸せになる。

「あのねあのね、おーるけーき! いちごのしょーとのやつ!!」
「ほう、ホールケーキか」
「そう! ほーるけーき!」


ごくさり気なく誘導すれば、ひかりはすぐさま幼い言い間違いを訂正する。
なんともあどけなく愛らしい。
が――

「そっかー、イチゴショートのホールケーキかー」

「んゆ?」

困り眉。実にポーレットらしくはあるが、この状況では……

「いちごしょーとのほーるけーき、つくれないの?」

ひかりも察する。母から娘へ、困り眉が伝染してしまう。

「作れるは作れるけど、『ひかりが作る』のは今すぐには難しいの――
ええと……あ! そう!! イチゴショートのホールケーキを作るのはね?
列車運転でいったら、蒸気機関車とおんなじくらいにむつかしいから」

「そんなに!!!!」

なるほど。その説明なら僕にも瞬時に理解できる。
つまるところ、イチゴショートのホールケーキをつくるのは、理論だけでは難しい。
実戦経験を重ねてはじめて、形になっていくものなのだろう。


「だから、スフレチーズケーキはどうかな?
これなら、庫内手さんのお仕事とおなじくらいのむつかしさ」

「そっか。ひかりわかったのー。
ケーキ作りも、こないしゅさんからはじめて、きかんじょしさんになって、それからやっときかんしさんで、
いちごしょーとのほーるけーきをつくれるようになるのなの」

「そうそう! だから――そうね、来年のお誕生日にはイチゴショートのホールケーキをつくれるように」

「わかったのー! ひかり、ことしはすふれちーずけーきつくるの!」

「そっか、じゃ、支度しましょう。れいなー! れいなもちょっとお手伝いしてくれる?」

「はぁい、わかりましたぁ」

ぱたぱたぽてぽてじゃぶじゃぶじゃぶ。
居間で書類仕事をしていたれいなが手を洗って合流する。

「じゃ、最初は材料を用意してはかりましょう」

「ざいりょう、なぁに?」

「うふふ、このスフレチーズケーキの材料はみっつだけでいいの。
お砂糖と、卵と、クリームチーズ!」

「わぁあ、すごくシンプルなんですねぇ」

「でもやることはけっこうたくさん。
まずは計量。クリームチーズ150gと卵みっつ、お砂糖120gをそれぞれ、お皿の上にとりわけて?」

「はかり♪ はかり♪ おさらをのせて、スイッチ ぴ! で」

「はぁい、ひかりちゃん。おさとうでぇす」

「おさとうさらさら~ はかりのすうじ、120になるまで~」

……普段からポーレットの料理を手伝っているだけのことはある。
ひかりの手付きは、とても幼児とは思えない。
これは将来、パティシエの道も……
ああ、日々姫に頼んで、いまからパティスリートレインのデザインを起こしておいたほうがいいかもしれん。

「めれんげめれんげ、あわだてあわだて~」

「お砂糖は4回にわけて――そうそう、上手上手」

「ボールをさかさまにしてもおちないくらい、ふわっふわになったら完成ですよぉ」

「ふいい~。ひかり、おててつかれちゃったの~」

「じゃ、ママのおひざで一緒にやる?」

「うん!!」

「ここまで来たらもうひといき。1分間レンジでチンしたクリームチーズに、捨てメレしてからメレンゲあわせて~」

「れいな、オーブン予熱しておきますねぇ」

「160℃でお願い! あと湯煎焼きするから」

「はぁい、おゆもわかしておきまぁす」

……なんとすばらしいチームワーク。なんとすばらしい時間であろうか。

これぞ家族としあわせに――いや、僕一人だけ、なにもしないというわけにもいくまい。ふむ。

「……まだかなー、まだかなー――あ! いい匂いがしてきたのなの~」

「うふふ、もうすぐ焼き上がり! ね、双鉄く――あれ? 双鉄くんは?」

「パパさんだったら、さっきふらってでかけていきましたぁ――あ」


「ただいま」
(チン!)
「わーい! やけたの!!」

ベストなタイミングでかえってこれたようだ。

焼き上がったスフレチーズケーキが……おおおお!!!

「すごいの! これ! ひかりがままとれいなおねえちゃんとつくったのなのー!」

「ひかりちゃん、本当にすごいですぅ! 焼き目も形も、とーってもきれいで」

「ね! お店で買うのよりおいしそお! あとは仕上げのデコレーション」

「ひかり! デコレーションもやるの~!」

「そう? じゃ、まずはパウダーシュガーをこなふるいで」

「ああ、ひかり。おもいっきりたくさんかけてくれ。生クリームで全面をカバーするようなイメージで」

「んゆ」

ポーレットも少し不思議そうに僕を見るゆえ、手にした袋をさりげなくふる。

「あ♪ そか、じゃ、ひかり? パパのいうとおり、全体が真っ白になるまでパウダーシュガーふっちゃって?」

「はぁい! ふりふり~ ふりふり~ こなゆきこんこん! こなざとうざとざと!」

「うふふぅ、これもとっても上手ですぅ」

「さて、ふりおわったところに――じゃじゃん!!!」

「わあああああ! いちご! いちごなのー!!!!」

「すごいですぅ。まだ季節には早いのに、いったいどこから」

「パパの秘密いちご農場からだ」

「ひみついちごのうじょう!!!!」

ひかりの瞳がキラキラ輝く。

秘密いちご農場の正体は、長饅頭だけでなく、いちご大福もレギュラーメニューのにわみさんで。
いちご大福用に解凍してあったいちごをわけてもらっただけだが――秘密農場であるがゆえ、そこは秘密にしておこう。

「ひみついちごででこれーしょん! んしょ、んしょ、んしょ――できたぁ!!!」

「「わああ!」」

ひかりの瞳きらきらが、母と姉にも伝染する。

いや、これは――実に見事で美しい……ホールのいちごチーズスフレだ。

「ひかりのおたんじょうけーき!!! ひかりとままと、おねえちゃんとパパでつくったのーーーー!」


;おしまい

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whisp 2021/07/01 22:10

2021稀咲お誕生日記念SS「今年のピザはホームメイドで」(進行豹

「ピザを、焼く?」

なんとも不思議そうな声。
ああ、いや──そうか。

「稀咲。ピザというのはピザ窯などの特殊な設備を用意せずとも──
例えば、オーブンレンジなどでも焼くことが可能なそうなのだ」

「いや、双鉄。さすがにそのくらいはボクでも把握しているよ?
ボクが疑問を覚えたのは、だ」

稀咲の指が僕へ向く。
そうして、稀咲自身へ向けられ、くるくると動き、やがて天井に向けられる。

「『誰が?』というその一点なのだけれども」

「無論、僕が焼く。稀咲へのバースデープレゼントのひとつとして」

「双鉄が!?」

うむ?
ハートマークはありえんだろうが、
『双鉄が♪』くらいの反応はあるかと予想していたのだが──

「うーん、双鉄がか。嬉しいよ。すごく。気持ちは。
だけど……その──
専門の職人がいるくらいだし?
ピザを焼くのは、素人にはなかなか難しいんじゃないのかな」

「それはもちろんそうだろう。
ゆえ、協力な助っ人を用意してある」

「助っ人! なんだ、それならそれと早くいってよ。
で、その助っ人さんは」

「こちらだ」

「え? あ──ああ、なるほど。
確かに『用意』だね。買ったの?」

「うむ。凪からな。
ピザ生地を作れるとの売り込みで、実にお安く中古品を譲ってくれた」

「中古品……っていっても、年式、去年のものじゃないか。
と、いうことは──」

ニヤリに苦笑がまじったような、愛情を感じさせる笑み。

「『これで毎日焼き立ってパン食べるばい』からの
『もう飽きたばい!』のコンボあたりなのかな」

「すごいな。ふかみが補足説明してくれたとおりだ」

「ふぅん。まぁお得な買い物ならなによりだけど──
実際、どこまでやれるの? そのホームベーカリー」

「うむ。もう少しで──」

(ピピッ! ピピピッツ!)

「わ!?」

「ちょうど生地ができたところらしい。どれ」

「ぁ──へぇ──ふぅぅぅん。
むっちりもちもち、なかなかよさそうな生地じゃないか」

「いや、まだ生地としては未完成だ。
説明書によると、これを二等分して、軽くガス抜き──
つまりは潰してから丸めて」

「面白そう。ボクやっていい?」

「無論だ。ならば僕は説明書を読む係にまわるとしよう」

……生地を休ませている間にオーブンレンジを予熱する。

休んだ生地を綿棒を使い丸く伸ばして、その上に──

「ピザソースぬって~ チーズ敷き詰めて~ サラミと~ベーコンと~ウィンナーと~」

「肉ばかりではないか。もう少しこう、バランスを」

「あいかわらずお母さんみたいなことをいうねぇ、双鉄は。でもまぁ、あんまり単調になってもだし、ね」

稀咲が冷蔵庫をあけ、中を漁る。

「ああ、しらすはよさそうだね、散りばめて──
あとはピーマンとミニトマトでいいかな」

「ほほう、なかなかに旨そうだ」

「ピザ焼くってあらかじめ聞いてたら大葉も用意したんだけど。
ミニトマトはミニトマトで多分合う」

「すごい自信だな」

「まぁね。食べてる数が違うから」

稀咲とぐだぐだ話していれば、15分などは一瞬だ。

(チンっ!)

「焼けたっ──どれどれ──
おおおお! いい匂い、おいしそう!
それに見た目も──」

「これは……予想を遥かに上回る出来だな」

「生地は──ふふっ! さくっと切れるのにふっくらもちもち。
ハンドトスよりもーちょっとパンピザよりかな。
こういうのもボクは好きだよ」

「ならなによりだ」

「とはいえ、時間、ちょっと使いすぎちゃったかな。
次のミーティングまでに、大急ぎで資料をまとめないとだ」

「ああ」

稀咲が喜んでくれたとはいえ、結果的には仕事を邪魔してしまったか。

「まぁ、ピザだ。
いつもどおりに、仕事がてらにつまんでしまえば」

「もちろん、仕事がてらにつまむつもりなんだけどね、双鉄」

「うむ?」

稀咲の声が甘くなる。
その頬が、ほんの一瞬僕の胸板に擦り付けられる。

「せっかくこんなに綺麗に焼けた、ふたりで作ったはじめてのピザなんだよ?
二つ折りに畳んじゃったら、もったいなくない?」

「確かにだ」

ゆえ、うやうやしくピザの1切れを捧げ持つ。

「稀咲。お誕生日おめでとう。──あーん」

「ふふっ、ありがとう。あーん」

(はむっ!!!!)

そうして稀咲の白皙が、幸せのバラ色に染め替えられる。

「んふふっ! おいひっ♪」


;おしまい

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whisp 2021/04/20 22:18

2021/04/20 「ものべの」沢井すみお誕生日SS『誰もおらぬお誕生日』(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!!

今日は「ものべの」ヒロイン! すみちゃんのお誕生日でございますね!
めでたい!!!


で、せっかくの機会なので、わたくし、
『1000文字ショートストーリー』にチャレンジしてみようと思いました!

いままでも誕生日お祝いショートストーリーはちょこちょこ書いていたのですが。

諸般の事情で

「1000文字分量くらいのショートストーリーで、ちゃんと面白いもの」

を書けるようになる必要があるため。


今まで:書きたいものを分量気にせずすきにかいてた

これから:1000文字以内という枠を定め、その中できっちり構成

ということに、今日から改めていこうかと!!!!

というわけで、当初1500文字程度あったのを998文字までブラッシュアップしたすみ誕SS!

このままさくっと貼り付けますので、もしよろしければどうぞお楽しみいただけますと嬉しいです!!!


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2021/04/20 沢井すみお誕生日SS『誰もおらぬお誕生日』 進行豹

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「なんじゃなんじゃ! 今日はわらわのお誕生日じゃと申すに」

残念ながら、自称、お誕生日じゃが。

わらわは間に合わなかった家守──
本来守るべきであった家は、わらわが生を得た瞬間にはもう滅びており──
人の暦を知ったのは、沢井の家の呼ばわれた後であったのじゃから。

「が、透より一週間だけおねえさん。ゆえに今日。
それですっかり定着しておったではないか!」

なのに。おらぬ。
透はおろか、夏葉も、のみならず飛車角までもが。

「……自業自得、かの」

毎年毎年、透がくれる贈り物。

帆布の前掛け。刺し子の鍋つかみ。毛糸の肩掛け。
わらわの好みをようわかっており──で、あるからこそ使えぬもの。

「……透は学んで、お医者にならねばならぬ身じゃ。学ぶべき貴重な時間を臨時雇の仕事に費やし、
そうまでして稼いだお金をわらわへの贈り物に使うなど……決してあってはならぬゆえ……」

ゆえに、素直に喜べぬ。
透の気持ちがどれほどに嬉しかろうと──喜んだなら、透はきっと、更にがんばってしまうがために。

「……贈り物を使わず、喜びもせず。
それを幾年も繰り返したなら、祝われぬ様になるもの当然であるか。
とは申せ──」

しかし、やはり……
せっかくのお誕生日を、たった一人で過ごすというのは……

「さみしい、の」

「たっだいまー! ね!? すみちゃんすみちゃん! 間に合ってるよね!? まだ今日のお夕飯、すみちゃん準備してないよね!?」

「!!?」

「大丈夫じゃろ。食い物の匂いはまるきりしとらんでのう」

「すみ? あれ? すみ? どこ??」

「ま、まったく! なんじゃ騒がしい──っ!?」

「えっへへー! すごいでしょ! 菜穂子おばちゃんにおそわって、夏葉たちで作ったんだよ!!」

柚子胡椒を揉み込んだ蒸し鶏。
サワラの柚子焼き。
ゆず味噌田楽。
さといものゆずあんかけ。

──どれも見事に、わらわの好物ばかり……っ!

「これは──その、もしかして、じゃが」

「もしかしなくてもご想像どおりだよ。バイトしてプレゼント買うの、すみ気にしちゃうみたいだからさ。
無理をしないで、すみにも気兼ねなく楽しんでもらいたくって、考えたんだ」

「あぁ──」

「やったぁ! すみちゃん、喜んでくれてるー!」

「飯ぃつくると腹が減るのぉ。ちくと早いが、もう夕餉にしてもええんじゃないかの」

「そこはほら、今日のヒロインのご意向次第で」

透が笑う。
わらわのことを、まっすぐ見つめる。

「すみ、お誕生日おめでとう!!!」

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whisp 2021/03/09 00:01

「真闇様からのプレゼント」 2021ハチロク誕生日祝賀ショートストーリー(進行豹

「真闇様からのプレゼント」
2021ハチロク誕生日祝賀ショートストーリー 進行豹


/////////

「はぁ」

仕方の無いこととわかっております。
双鉄さまにしか果たし得ないお仕事ですから。

「……はぁ」

日々姫と凪と乗務する。それもわたくしのお仕事です。
双鉄さまのお供をしたいと望むのは、分不相応な行為です。

「……はぁあ」

それでも今日のこの日には、双鉄さまの甘いお声で、
『おめでとう』と、ただ一言だけでもいただきたくて……

「はぁあああ」

「はーちゃん、そりゃあ寂しかとよねぇ。
夫婦になってはじめてのお誕生日だっていうのに」

「っ!」

よほどぼおっとしてたのでしょう。
真闇様に気づけませんでした。あわてて姿勢を直します。

「あの、ええと、真闇様」

「ん?」

「お誕生日とのお言葉は、双鉄さまの洒落っ気です。
レイルロオドは製造される――誕生しないものですから」

「製造された日がお誕生日じゃなかと?」

「その日でしたら、ロオルアウト日と呼称されます」

「ロールアウト日」

「旧帝鉄の社則では、レイルロオドが工機部から出荷され、正式に機体番号を与えられる。只それだけの日なのです」

「ふんふん。
ほんならやっぱり、お誕生日よね、レイルロオドの」

「はうぅ」

双鉄様のお言葉と、真闇様のご厚意を
否定することなぞできませぬ。

けれど、けれども……お誕生日という言葉の響きは、
その響きへの憧れは、わたくしをいっそう寂しくさせます。

「やけんね? おねえちゃんもはーちゃんに、
プレゼントばあげたいなぁって思うたばってん」

「ぁぅ」

恐縮すぎます。けれど否定もできませぬゆえ、
ただ縮こまって拝聴します。

「おねえちゃん、プレゼントばっかは上手じゃなくて……
ひーちゃんのことも、何度もがっかりさせちゃったし」

「左様なのですか? 真闇様に苦手があるなど、
わたくし、とてもびっくりしてしまいました」

「あるとよ。たくさん。プレゼントに、ほやに、
息の臭か人に、手袋の片っぽをなくさんでおくことに」

「まぁ!」

思いもかけぬ共通点に、うれしくなってしまいます。

「ナイショのお話にしていただければ助かるのですけれど、
真闇さま――わたくしも、手袋の片方をしばしば迷子に」

「あらまぁ。お仲間。うふふっ、うれしかとね」

「はい! 真闇様もうれしくお感じくださるのなら、
わたくしますますうれしくなってしまいます」

「ほんなら、ね?」

「きゃっ」

抱きしめられます。とてもふうわりしています。
双鉄さまのお胸にはない、まさしく至極のやわらかが――

「ではなくて! ええと、その……真闇様?」

「おねえちゃんプレゼント下手やけん。間違っとったら
そういってもらえると嬉しいんだけど……その」

言い淀みです。真闇様が。どきどきどきと、
レイルロオドの私にはない鼓動が伝わってまいります。

「はーちゃん、なんか我慢しとるでしょお。
我慢ゆーか、無理ゆーか、そんなん」

「っ!!!」

「んふふ、あたった」

否定――は、とても出来ませぬ。
間違いの無いことなうえ、真闇様のお言葉ですし。

「やけん、おねえちゃんからのプレゼントは、
あまやかしの時間でどうかなぁって思うて」

「あまやかしの時間……でございますか」

「はーちゃん。いっつもがんばっとるけん。たまには
甘えたほうがよかよって、おねえちゃんとしては」

「おねえちゃん……」

トップナンバアたるわたくしは、8620形レイルロオド、
全てのいもうとたちの長姉です。

なるほど確かにいもうとたちは、
わたくしに甘えようとしたかもしれません。

「ああ、いえ、けれど……レイルロオドが甘えるなぞと。
わたくしたちは、結局のところは物でございますので」

「はーちゃんがもし物だとして。
物は、あまえたらいけんの?」

「いけないいけなくないではなくて、甘えないかと。
例えば、冷蔵庫も洗濯機も醸造タンクも」

「甘える甘える。どれもめちゃめちゃ甘えてくるとよ」

「え!?」

「かまってあげんとぽぉんて壊れて、
『きちんと手ばかけてー』ゆーてもう」

「!」

かまってもらえず、甘えて壊れる。
回路にノイズが走ります。

「壊れて、しまう――」

でしたら……
わたくしのこの、異常な頻度の憂鬱な排気はもしかして。

「ことに、ね? はーちゃんのこころは、魂は。
部品交換で簡単になおるゆーなものじゃないでしょお」

この不愉快なノイズを人は、不安と称するのでしょうか。
同じか否かわたくしには、確かめようもありません。

「それは……左様でございます。左様であると、
少なくともわたくしたちは認識しております」

たましい。こころ。タブレットに宿るとされているもの。
その詳細は1レイルロオドのわたくしには知りえませぬが。

「こころは、恐らく……」

大廃線の末期。解体リストにあげられるのを恐れるあまり、
こころを壊して寿命を縮めた妹を、何体も見て参りました。

「……左様、ですね。こころは恐らく交換不能な消耗品。
一度破損をしたならば、決して元通りには戻せない」

「ん。おねーちゃんもそぎゃんふうに思う。でね?
はーちゃんが万一こころば壊しちゃったら、双ちゃんは」

「っ!!!!」

それは――断じて。絶対に避けねばなりませぬ。
わたくしが手入れを怠ることで双鉄さまを悲しませるなど。

「……甘えることは、
こころのメンテナンスとになるのでしょうか」

「たぶん、きっと。おねえちゃんは、少なくとも
今のはーちゃんには利くかなぁって」

「でしたら。でしたら――大変恐縮ではございますが。
その――わたくしを、あまやかしていただけましたら」

「もちろんよかよ」

「んっ……」

柔らかは、お胸だけではありません。
髪を撫ぜてくださいます手の、なんとふわりと暖かな。

「いいこ。いいこ。はーちゃん、いいこ。
とってもまじめながんばりやさん」

そうして、お声も。意味ではなくて響きがすうっと、
ここちよく溶け、わたくしのどこかに共鳴します。

「いいこ、いいこ。はーちゃん、いいこ。
がんばりすぎまで、がんばれちゃうこ」

「あっ」

「ん?」

やさしいなでなではそのままに、お声の響きがとまります。
それが本当に寂しくて、声が引きずり出されていきます。

「あの……
わたくし、がんばりすぎなのでございましょうか」

「がんばりすぎかもって、
はーちゃんはどぎゃんして思うたと?」

考えずとも答えられると――
思うと同時に、ことばは流れでています。

「口から『はぁ』と、不正規な排気が続くのです。
とても頻繁に。けれど、止めようとしても止まらなくて」

「どぎゃんして……」

なでなで、なでなで。
同じリズムがつづくからこそ、沈黙を怖く感じます。

「うん。はーちゃんはどぎゃんして、
口からため息、でちゃうと思うと?」

「恐らく、ですが――」

なでなで、なでなで。許されていると感じます。
いまこのときは、何を申しても平気なのだと。

「双鉄さまのご不在を、寂しく思う……
そのせいであるかと、わたくしは」

「どぎゃんして、双ちゃんがおらんと寂しいの?」

「それはもちろん、一分一秒ででも長く。
双鉄様と一緒の時間をすごしたいと――っ!!?」

そこまで話して、自覚します。
わたくしが本当は、何を恐れているのかを。

「……人間の男性の平均寿命は70年以上と学びました。
あと50年、少なくとも双鉄様は旅を続けられるでしょう」

「きっと、そぎゃんね」

「わたくしは所詮老朽機です。どれほどお手当を頂いても。
あと20年――10年もつとは思えませぬ」

「そぎゃんと?」

「はい。妹たちの末路を調べるに、恐らくは。
ですので――ですので、わたくしは」

なでなで、なでなで。
どんなに浅ましい望みでも、手指が優しく引き出します。

「わたくしは、双鉄さまと一緒にいたい。
片時もはなれたくないのです」

「どぎゃんして、片時もはなれたくなかと?」

「わたくしを覚えていてほしいから。
わたくしを思い出していただきたいから、それだけです」

それだけだからこそ強い――
なんと浅ましい欲でしょう。

「もちろんそれが双鉄さまのお時間を奪うともわかります。
わかってもなお、望むことを止められない……」

だから、苦しい。
思考が無限循環し、どこまでだって加熱して――

「……真闇、様」

真闇様なら。双鉄様が心底から頼り切ってる真闇様なら、
あるいは、もしかして正解を――

「もしも願うことが許されるなら――
ああ、お願いです真闇様」

許されているのだとしても、程があります。完全にそこを
踏み越えて――なおも問わずにはいられませぬ。

「わたくしはどのようにすればよいのかを――
その道筋を、どうかお示しください」

「はーちゃんの道筋だけじゃいけんでしょお」

「えっ!?」

「双ちゃんの道筋と寄り添える道じゃなくっちゃ、
意味のなかけん」

「あ」

なでなで、なでなで。
強張りきっていました何かが、ほぐされていくと感じます。

「やけん、おねえちゃんから話してあげよーか?
双ちゃんに、はーちゃんが何を悩んでいるか」

「お気持ち、まことにうれしうございます。
けれども、ですね。真闇様」

なでなで、なでなで。手がどこまでもあたたかだから、
思いをそのままことばにできます。

「わたくし、もう大丈夫です。自分のことばで伝えます。
なにが不安か、真闇様に教えていただきましたので」

「そっか。もう大丈夫なんね?」

「はい。いまはそのように感じます」

「うんうん。そいばよかとねぇ」

なでなで、なでなで。
手指はいまだとまりません。ただただ甘く暖かに――

「たっだいまー! おまたせー!!」

「っ!!!?」

日々姫の声に飛びのきます。
あれほどの甘さとあたたかが、一瞬に消えてしまいます。

「にぃにの分もお祝いするけん!
ハチロク、楽しみにしとってねー」

「は、はい! ありがとうございます、日々姫」

とととと足音。階段を声ごと駆け上がっていきます。
なんと元気なことでしょう。

「石炭ケーキ! れいなちゃんとこさえたけんねー。
プレゼントもね、きっと喜んでもらえるかなって」

「あらまぁ」

ふんわり、微笑。
真闇さまの唇が、わたくしの耳に近づきます。

「期待してよかよ?
ひーちゃん、プレゼント選びもセンスの塊やけん」

「はい。大いに楽しみにさせていただきます。
けれども――あの――大変恐縮なのですが、真闇様」

「ん?」

「ひとつだけ、どうかひとつだけ訂正をさせてください」

「もちろんよかよ。ばってん――訂正って?」

1レイルロオドが人間に訂正などとおこがましい。
けれどそれでも――どうしても伝えねばなりませぬ。

「真闇様のプレゼント選びは、下手どころか、上手です。
それも、極めつけにお上手かとわたくしは感じます」

「あらまぁ」

にっこり、とても嬉しげな笑み。

ああ、この方は――
どこまでだってやわらかくあたたかい。

「最高のお誕生日プレゼントを、
ありがとうございます! 真闇様!」


;おしまい」

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