古くて新しいH形鋼
古くて新しいH形鋼
2023年 06月01日 (木) 15:14
当たり前に日常にあふれているH形鋼。建築用の鉄骨でお馴染みのそれだが、日本で製造利用されるようになったのは60年代になってからのことだった。
あまりにも当たり前に存在するだけにもっと古くから使われていると思っていた。
鉄道用レールでお馴染みの形状であるI形鋼なんかは幕末維新の頃には製造は出来ずとも利用が行われていた。今でも古レールが建材としてホーム上屋の柱や跨線橋の柱や梁に使われている。
そういった感覚から明治頃には普通に流通していると思い込んでいた。
実際は戦前どころか60年代の霞ヶ関ビル建設前後でやっと使われるようになったのだという。製造出来るようになったのも50年代末だという。
少し調べると欧米では1900年前後にドイツでユニバーサル圧延が実用化され、その後ベスレヘムスティールが導入してニューヨークの摩天楼建設に役立ったという。
ただ、単純に日本が立ち後れていたかと言えばそうでもない。60年代に至るまで日本では高層ビルそのものが存在せず、同時に31m以上の高層建築物そのものを禁じていたことで需要がなかったという側面がある。
これは関東大震災で高層建築物は地震に脆弱であるという前提で法整備されたことに基づく。
しかし、戦後復興とともに建築技術の向上で剛構造から柔構造による免震など技術克服が進んだことによってこういった前提が撤廃されたことから高層建築物の建設が推進され始めるとその建材、構造材として需要が急拡大した。これによって各製鉄メーカーが製造を本格化し普及したということだ。
結局、既存の技術や工法、素材も需要が生まれなければ活用されないということなのである。
まぁ、だが、大日本帝国の製鉄業界全体が需要を満たせる状況だったかと言われたら、そもそも在来の鋼材ですら供給不足な生産量だから余分なモノを作る余裕はないのだが。