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おかず味噌 2021/10/31 19:30

クソクエ 地下闘技場編「盤外戦 ~聖騎士の汚パンツ装備~」(完成版)

 第一試合から、波瀾の幕開けとなった「地下闘技大会」。

 次々と猛者共が現れては敗れ、ついにヒルダの出番が訪れる。


――どんどん、参りましょう!スライ~ム・コ~ナ~!!

 司会の声に促され、若干緊張気味の彼女が登場する。

――今大会初出場。女戦士・ヒル~ダ~!!

 彼が呼ぶのとは異なるイントネーションながらも。高らかに告げられた「仲間の名」に彼自身の緊張も自ずと高まる。

 期待と願いを込めて手に汗握る「勇者」。彼がふと横を窺うと、隣にいる「女僧侶」もまた拳を握り締めているのだった。


 仲間の晴れ舞台を見守るアルテナの心境は、今まさに複雑なものとなっていた。

 あくまで「副賞」のためヒルダに「勝って欲しい」という気持ちと、彼女のみに手柄を独占させるわけにもいかず、あわよくば「負けて欲しい」という気持ちが葛藤していた。

 それでもやはり彼の手前もあって。とりあえずはアルテナとしても「応援」という形を取ることにしたのだった。


――ドラゴ~ン・コ~ナ~!!

 ヒルダに続いて登場したのは、銀の甲冑を身に着けた長身の美青年。

――王国直属兵士・ナル~シ~ス~!!

 眉目秀麗な顔立ちをした彼は。長い前髪を風に揺らして、涼し気な表情で客席に向けて手を振って見せる。

「キャ~!ナルシス様~!!」

 クールな彼に対して、熱い声援がそれに応える。いわゆる彼の「ファン」なのだろう、むさ苦しい観衆の一角だけが可憐に華やいでいた。


 予期せぬ「イケメン」の登場に、彼は妙な胸騒ぎを覚える。再び隣のアルテナを窺い、彼女もまた浮足立っていると思いきや。

――「白馬の王子様」といったところでしょうか?

(彼の立場はむしろ「王に仕える身」であるのだが…)

――「夜の営み」も、平々凡々でつまらないものなのでしょう。

 どこか達観した様子のアルテナに。勇者は安堵しつつも、同時に不安を抱くのだった。


――レディ…。

 早速、司会によって「開戦」が告げられようとしたところで。

「暫し待たれよ!」

 厳かな口調でナルシスは右手を突き出し、その先を制する。これも何かの戦略なのかとヒルダが訝しむ中。

「いかに『戦闘』とはいえ、レディ相手に『先手』を取るわけには参りません」

 この期に及んで、あくまで「紳士」たらんとする彼。

「『レディ』って、もしかしてアタシのことかい…?」

 あからさま「お世辞」に、頬を紅潮させる「女戦士」。慣れぬ扱いに戸惑いながらも、彼の「騎士道」にすっかり当てられてしまっている。

「『レディ・ファースト』です。どうぞ、お先に!」

 回りくどい言い方をしているものの、要は「先に攻撃して来い!」という意味らしい。つまりは、ヒルダを「ナメている」ということだ。


「あのナルシスとやら、もの凄く鼻につきますわね?」

「うん。出来ることなら、今すぐ僕が出て行って『ぶん殴りたい』くらいです…」

「聖職者」らしからぬ物言いのアルテナに対し、彼もまた同調する。


 沈黙の両者。会場の静寂を打ち破るように、客席から「冷やかし」が飛ぶ。

「そんなオーク女は放っておいて、私と『一戦交えて』くださいませ~!!」

 ファンの女性達は、どうやら彼と「一線越える」ことを望んでいるらしい。真剣勝負に水を差す愚言に、だがヒルダが引っ掛かったのは「別の部分」であるらしかった。

「へぇ~。誰が『オーク女』だって…?」

 瞬く間に女戦士の頬から「含羞」の色が消え去り、瞳に鋭い「眼光」が灯る。

「ヒルダさん、完全にキレちゃいましたね…」

「そのようですね。珍しく、彼女と気が合いそうです」

 ここにきて、パーティの「利害」は完全に一致する。
「あのイケ好かない『王子様気取り』に、目に物見せてやれ!」と。


――では、改めまして。レディ~・ファイト!!!

 ようやく宣戦は為されたものの、彼は宣誓通りその場から微動だにしない。それ自体は確かに見上げた志であったが、だがしかし…。

――ドゴッ!!ドッシャ~ン!!!

 即座に間合いを詰めたヒルダは、分厚い甲冑などお構いなしに「一撃」を放つ。彼女の「打撃」をモロに喰らったナルシスは遥か後方まで吹っ飛び、そのまま動かなくなった。

 再び、場内を静寂が満たす。そして…。


――しょ、勝者・ヒルダ~!!!

 やや遅ればせながら司会が結果を宣告する。そのあまりに「あっけない結末」に女達が一時の夢から醒め、冷めた表情を浮かべる中。

――ウォォォ~!!よくやったぞ、オーク姉ちゃん!!

 男共の低く地鳴りするような声が、ヒルダの「勝利」を讃える。

――ざまあみやがれ!!

 吐き捨てるような台詞は一行のみならず、およそ会場全体の「総意」なのであった。


 こうして。ヒルダの「初撃」にて「勝敗」は決したのだった。

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おかず味噌 2021/06/30 22:00

能力者たちの饗宴<時間停止能力>「生意気OLに『報・連・相』」

(第一話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/423927


――せめて、大学に行っておけば良かった。

 そうすれば私の人生も、もう少しマシなものになっていただろう。
 仮に二流・三流大学出身だったとしても。大卒とそれ以外では就職活動時のみならず、その後の待遇においても天と地ほどの差があり(一部特殊な才能に恵まれた者を除き)、生涯年収に多大な影響を及ぼすものなのである。
 あるいは大学なんて出ていなくとも…。

――せめて、親が金持ちだったなら。

 それだけで、もはや勝ち組確定である。何もそれは金銭面についてのみそう言っているのではない。
 もし親が社長ならば――、七面倒な出世競争などに心労を割かずとも、生まれた時点で次期社長のイスは約束されているようなものだろうし。
 もし親が医者ならば――、いかに不出来であろうとそこは裏口入学やら何かで、やはり医学部に席を与えてもらうことは何ら難しくない。
 社長の息子は社長、医者の息子は医者と相場は決まっている。いかに世間知らずが否定しようとも、それはいわば世の理であり。そうした立場や役職に、「女」という生き物は滅法弱いのだ。あるいは金なんか抜きにしても…。

――せめて、イケメンに生まれていれば。

 それだけで、女共はフリフリと尻尾を振ってホイホイと付いてくる。ちょっと優しくしてやっただけで途端に「メス」の顔になり、股を濡らし脚を開くのだ。
 よく「面白いヤツがモテる」というけれど、あれは嘘だ。そこそこ顔が良くなければ、そもそも話さえ聞いてはもらえず。会話をせずして一体どうやって興味を抱いてもらえるというのだろうか?

 およそ四十年に渡る人生において、私が学んだ教訓といえば。

――人は生まれながらにして、決して平等ではない。

 という、ただその一点に尽きる。
 見た目の美醜も、生まれの貧富も、それら全ては一度きりの運によって運命づけられ、学歴も出世も(当人の努力も少なからずあるとはいえ)いわば副産物としてのみ存在し、人生における成功及び「性交」もまた、そのおおよそが決定づけられているのである。

 思えば、これほどまでに不条理な「ガチャ」はないだろう。リセマラすらも許されず、課金できるか否かについてもやはり、与えられたアカウントだけがものをいう。
 何も持たずしてこの世に生を受けた者は、常に妬みや嫉みに苦しめられることとなり。それらは芸術などに昇華されることもなく、ただただ悶々とした日々を送るのみである。

 だが。そんな私の長いようで短かった生涯も、もう間もなく幕を閉じようとしている。右方から突っ込んできた「一台のトラック」によって――。


 時を遡ること、ほんの数十秒前。
 私はとある交差点で信号待ちをしていた。繁華街を行き交う人々は皆退屈そうな表情を浮かべつつも、どこか満たされたような顔をしていて。彼らの営みは私にとって目の毒にしかならないのだった。

 そして今まさに、私の後方では一組の「アベック」が乳繰り合っていた。

「この後、ウチ来る?」
「え~、どうしようかな~?」
「いいじゃん、ちょっと寄るだけ!」
「え~、絶対ヘンなことするでしょ~?」
「しないって!」

 聞くからに頭の悪そうな。とっくに女の側もその気でありつつも、己の価値を試すかのような、そんな無意味なやり取りに苛立ちを覚えながらも。今や私の意識は完全にそちらに向けられていたのだった。

「ねぇ、前…」

 ふいに女の発した言葉によって、私は我に返る。

 後にして思えば。単にそれは彼らの前方にいる私を指して、その容姿を揶揄しただけの言葉であったのだろうが。私としては、そのさらに前方にある信号が青になったのだとばかり思い込んだ。
 常日頃から慎ましく生きることをモットーとし、邪魔者扱いされることを臆した私は、あくまで自らの意思によって一歩を踏み出したのだった。

 けたたましく鳴らされる警告音。迫りくる自動車の走行音。気づいたときには、けれどもう遅かった。
 とっさに後ろを振り返る。私に続く者は他に誰もいなかった。そこにおいても私は孤独を味わうのだった。

 全てがスローモーションに感じられる。訪れる彼岸の間際、私が思ったことといえば。

――死ぬ前に一度でいいから、女とヤりたかった…!!

 私にとって、唯一とも取れる願い。たった一つの悲願。人生において何一つ得ることの叶わなかった私であるが。他のことはともかくとして、このまま一度も女と交わらずに「童貞」のまま生涯を終えることだけが心残りだった。

 今更ながら、私は激しい後悔に苛まれる。あるいはもう少し早く気づいていれば。
 だがもはや全てが手遅れだった。一体私はどこで間違えたというのだろう?

 もし、人生をやり直せるのならば――。
 いや、それが不可能であることはすでに分かりきっている。「時間」というものは常に不可逆であり、ただ進む一方で戻ることも止まることも許されない。だからこそ…。
 もし、来世というものがあるのならば――。
 私は今度こそきちんと努力し、己の生まれの境遇に不平不満を漏らさず、ただ真っ当に生きようと誓うのだった。


 だが、それにしても。走馬燈というのはこんなにも長いものなのだろうか。意識は明瞭ながらも指一本動かせず――、いや動く!!

 指どころか腕さえも。私は手で顔を拭い、目を擦った。
 その間も、迫り来るトラックは私を待ってくれていた。

 続いて、体のあちこちを検分する。未だどこにも痛みはなく、肉体に何ら変化は訪れていない。ただ一か所、ある一部分を除いては。

 私のペニスは固く「勃起」していた。

 それはいわゆる、生命の神秘というやつなのだろう。死の間際、生物は子孫を残そうと繁殖力が飛躍的に高められるという。
 目の前に相手が居ないのにも関わらず。それどころか、一度だってそんな相手に恵まれなかったというのに。私のそこは、あくまで己の使命を全うしようと躍起になっていた。

 私は、自分の「息子」が哀れに思われた。
 来世こそは、存分に活躍させてやろうと誓った。

 自らの「性器」に語り掛ける。
 恐らく、生涯最期の「射精」になるだろう。

「死の瞬間の快感はセックスの百倍以上」と聞いたことがあるが、まさしくこれがそうなのかもしれない。束の間に訪れた「センズリタイム」。
 死の前では全ての者が平等である。ああそうかなるほど。盛大な「一発」を打ち上げてそれで終わり、というわけだ。

 私は「イチモツ」を取り出す。太陽の下で眺めるそれは、どこか誇らしげに見えた。

「オカズ」に困ることは特になかった。たとえば、先ほどの「アベック」。彼と彼女との今後の展開を、男の方を自分と置き換えるだけで事足りた。
 叶うことならもう少し近くで、舐め回すように眺め回したいところではあったが。神もさすがにそこまでは許してくれないだろう。

 だがそれでも。満たされぬ日々の中で、主に音と映像のみによって補完され、培われた私の想像力をもってすれば――。

 最中の光景を、ありありと思い浮かべることができるのだった。

 ただでさえデカい尻がやたら強調された、スカートかズボンかも判らぬ衣服を下ろし、パンティを脱がし、前戯もなく強引にぶち込む。やがて数度のピストンを繰り返した後。 

「中に…、中に出すよ!!」

 私は「種付け」を宣告する。茎を駆け上る、私の「子種」。間もなく発射を迎えるも、だがその先に「子宮」はなく、あくまで「地球」へと放たれるのだった。

――ドッピュン!!ビュルルル…。

 アスファルトに飛び散る、私の残骸。数瞬先はあるいは私自身も…。

 快感が背筋を這い上がる。誰に遠慮するでもなく、堂々と行う「射精」というのは果たして、こんなにも気持ち良いものなのか!さらにはこれが「自慰行為」でなく、きちんとした「性行為」であったなら――。

 私の果たせなかった後悔の中にまた一つ、「青姦」の項目が書き加えられる。

 だがそれも。すっかり「賢者」と成り果てた私にとってはどうでもいいことだった。
 ズボンを穿き直した上で、迫りくる死を待ち受ける。だがなかなかどうして最後の審判は訪れなかった。

「ペニス」が下着の中で萎えていくのが分かる。そしてある一定の膨張度を下回った時、ふいに私を包んでいた静寂は消え去るのだった。


 クラクションが鳴り響き、それに続くブレーキ音。
 私は不格好のまま跳び退き、無様に尻餅をついた。

「馬鹿野郎!!」

 トラックの運転手に怒声を浴びせられる。「死にてぇのか!?」と、私に限っては頷くことさえできる問いを添えて。
 そちらの信号は青だったのだ。奴が怒るのも無理はない。それでも自動車と歩行者ではその立場は決して平等ではない。助かったのはお前の方なのだ、と私は内心で毒づく。

 苛立ち混じりの荒い運転で、見せつける迂回して走る去るトラック。
 快感と恐怖。二つの意味で腰を抜かした私はかろうじて立ち上がり、歩道へと舞い戻るのだった。

 無事に「生還」を果たした私を、彼らは「静観」をもって迎える。
 いや、そこにはクスクスと耳障りな笑い声が混じっている。中にはスマホを取り出して撮影を試みようとしていた者までいた。

 そんな彼らの野次馬根性に、だが驚くことはない。
 退屈な日々を過ごす者にとっては、他人の死さえもあくまで娯楽の一つに過ぎないのである。

 再び信号待ちをする私の周囲にだけ、不自然な空白が生まれる。さも平凡と非凡を隔てるかのように引かれたその一線は、まさしく神の領域。

 人にとって不可侵である「時間」。そこに干渉する能力があるとするならば。
 それこそまさに神の御業ともいえることだろう。

 一旦は諦めかけた人生。だが思いがけず取り留めた一命。
 かつての私は一度死んで、新たなる自分として生まれ変わったのである。

 もはや何にも誰にも遠慮することはない。私は決意する。
 残りの一生を、己の性欲を満たすことのみに捧げようと誓うのだった。

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おかず味噌 2021/05/16 16:00

クソクエ 勇者編「黄昏の証明 ~女僧侶の着衣脱糞観察~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/404020

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380



――ヒルダさんの「お尻」から生み出されたモノ。

 地面にしゃがみ込み、下穿きを脱ぎ、「割れ目」を剥き出しにして、

――ヒルダさんの「お尻」から産み落とされたモノ。

 紛れもないそれは、「うんち」だった。


 これまでの彼の人生において、「悪意」と呼べるものとはおよそ無縁であった。
 いや、そうした感情の標的になったことが全くないといえば、やはり嘘になるだろう。村での日々において、彼はよく同年代達から嘲りや揶揄いの対象にされてきたのだった。
 だがそれも、彼にとっては己の愚鈍さや臆病さにこそ原因があり。あくまで自分が他人より劣っているからこその、いわば当然の「報い」なのだと信じて疑わなかった。
 それ故に、彼はまさか自らが悪意を抱くことなど微塵も考えたことはなく。ましてや、自ら悪意をもって他者を貶めようなどとは夢にも思わなかったのである。

 あるいは悪意とはいかずとも、単にそれは「悪戯心」と呼ぶことだって出来るだろう。だけどやはり、そんな「出来心」さえも彼の中には未だかつて存在せず――。
 そうした彼の純粋さこそがひいては聖剣に選ばれる理由となり、神にさえも認められ、勇者たりえる「しるし」となり得たのかもしれない。

 だがしかし。何処からか訪れた「暗雲」が、瞬く間に「日輪」を隠してしまうように。ここ最近、彼の精神性においてもやや「翳り」が窺えつつあるのだった。
 かつて「黎明」と共に誓ったはずの彼の崇高なる意志は、やがて「逢魔が時」を迎えることとなる。それもやはり、彼女たちの尻から出づる「黄昏」によって――。


「申し訳ありません。私事なのですが…、出立を少々お待ち頂けませんでしょうか?」

 アルテナな控え目な口調で、あくまで慇懃に言う。

「えっ?あ、はい…大丈夫ですけど」

 まさに、いよいよこれから「冒険に出る」という時に。彼女の口からもたらされたその申し出は見事に出鼻をくじくものであったが、それでも彼は了承する。

「すぐに済みますので…」

 そう言い残して、女僧侶は早々にその場から立ち去ろうとする。

「なんだ、『便所』かい?」

 あえて間接的に言ったアルテナの気も知らず、ヒルダが直接的に訊ねる。

「ハァ!?いえ、その…(はい)」

 女戦士の、そのあまりに不躾な物言いに苛立ちを見せつつも。そこは彼の手前もあってかろうじて平静を保ちつつ、ついにアルテナは白状したのだった。

 そして。間もなく「トイレ」へと向かう彼女の後ろ姿を眺めて、彼は。

――「おしっこ」かな?それとも…。

 またしてもつい、あらぬ想像を抱いてしまうのだった。

 とはいえ、その「大小」を確かめる術は彼にはない。野外で行う場合とは異なり、個室で行われる秘事において、その行為を盗み見ることは叶わず。あくまでそれを阻むものは薄い扉と、そこに掛けられた簡易な錠前のみではあるものの。「盗賊のカギ」はおろか「最後のカギ」を用いてもなお、解錠することは出来ず。仮に開錠したとしても、もはやそれを知られてしまったら何の意味もなく、やはり状況の打開とはなり得ないのである。

 ふと、彼は手元に重みを感じた。アルテナが「用便」に向かう際、元はヒルダに預けていった荷物だった。さほどの重量ではなかったものの、パーティの生命を預かるべく重責からだろうか、それは見た目以上に重荷に感じられるのだった。

 アルテナが直接、それを彼に手渡すことはなかった。普段から何かと、事あるごとに彼に頼ろうとすることで。彼と触れ合う機会をなるべく多く持とうと、口実を打算する彼女であったが――。そこはやはり「乙女の矜持」として、さすがに自らの「排泄」のために彼を利用することは憚られたのだろう。

 だが、それにしても。アルテナは「意図」して、彼に対して気を遣っている節がある。
 単にそれは「厚意」によるものか、あるいは彼だけに向けられた「好意」のためか。(とはいえ「意中の人」である彼自身は、あくまで「意識」さえしていなかったものの)果たしてその「真意」は分からずとも、紛れもなく「善意」から生じるであろう感情に。だが彼は決して「得意」になることはなく、自らの「誠意」を示すこともままならずに、ただただ「敬意」をもって返すのみであった。

「アタシも行っとこうかな…」

 ヒルダもまた欲求を口にする。受け取った「道具袋」をそのまま彼にパスすると、彼女はなぜかアルテナとは「別方向」に向かうのだった。

「あれ?一番近い『トイレ』はそっちじゃないのに…」

 彼は女戦士の行動を疑問に思いはしたものの。後になってからよくよく考えてみると、その理由に行き当たる。
 彼にとって二人がかえがえのない仲間であるように、やはり彼女たちにとってもそれは間違いなく。だが同時に両者が互いを「ライバル」だと認識していることは、彼の目から見ても明らかだった。
 だからこそ自らが「踏ん張る」様子を(いかに壁で隔てられているとはいえ)その気配すらも悟られたくはなく、ましてや「排泄音」を聞かれることに抵抗を覚えたのだろう。

 二人に置いてけぼりにされ、一人きりとなった彼は他にやることもなく、皮袋に視線を落とす。紐できつく結ばれた口を開くと、わずかながらも暗闇が窺えた。
 彼は深淵に手を伸ばし――、本来パーティの「共有物」であるはずのそれに、あるいはどちらかの「私物」が紛れ込んでいないかと、漁り始めるのだった。

 目的の「宝具」こそ見つからなかったものの。やがて彼はある「道具」を探り当てる。さらに小袋に入れられたそれを丸ごと取り出し、中身を改める。

「回復薬」にはそれほど詳しくない彼であったが、それでも。その「丸薬」については、入手した経緯を含めて、その「用法」を記憶していた。それは――、

「即効性の下剤」であった。

 服用したならば、たちまち「排泄欲求」を高めるもの。
 紛れもない薬であるはずのそれ。「便通」を促し、体内の毒物もろとも体外に排出することで、解毒するためのもの。
 にも関わらず。今の彼はどうしたって、その「効能」ばかりに目を向けてしまう。

――これを、二人に飲ませれば…。

 勇者は再び妄想してしまう。彼女たちの「その姿」を。
 とはいえ、まさか面と向かって「飲んで!」などと言えるはずもない。何のために?「便秘」であるとか、毒を浴びた状態であるとか。そういった事情が無ければ、これ自体もまた「毒」であることに違いないのである。だけど、もしも――、

――気づかれることなく、二人にこれを飲ませることが出来たなら…。

 勇者は思い浮かべる。彼女たちの「痴態」を。
 予期せぬ「便意」とその解消。果たしてそれは屋内にて行われるのだろうか?あるいはいつかの彼女のように野外でだろうか?きちんと下穿きを脱いだ上でされるのだろうか?それとも、穿いたままでか?

 今一度、周囲を確かめつつ、彼は「丸薬」に手に取る。
 かつて浴室にて、ヒルダの下穿きへと手を伸ばした時と同様に。緊張とも恐怖とも取れない、得体の知れない何かが背筋を這い上がるのを感じた。
 そして。三つある内の一つを掴み取ると、彼はそれを自らのズボンのポケットに仕舞い込んだのだった。

「道具袋」の中にあるものは全て、いわばパーティの「共有財産」である。ということはつまり、彼自身の「所有物」でもあるのだ。あくまで「持ち物」の保管場所を移動させるというだけのその行為に。だが仲間の目を盗んで行われる秘事に。
「勇者」であるはずの彼は、まるで自らが「盗人」にでもなったかのような背徳感を抱くのだった。

 悪意とは何も他者に不利益を被らせようと抱く感情のみを指してそう呼ぶのではない。自己の利益のため他者を蔑ろにする行為もまた、やはり悪意に他ならないのである。

 とはいえ。彼のそれは、ほんの一瞬「魔が差した」だけのもの。そこに計画性はなく、現段階では未遂とさえいえないだけのもの。だがそれでも。
 欲望のみによって発露し、願望を果たすべく為された行動。自己の裏に潜む影の如く「エゴ」はまさしく――、

 これまで「日向」の道を歩いてきた彼が、唐突に出会った「日陰」の感情であり。
 彼が生まれて初めて抱くことになる、紛れもない「悪意」なのだった。

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おかず味噌 2021/03/14 16:00

クソクエ 勇者編「排泄の黎明 ~女戦士の野外脱糞目撃~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/408090

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


 勇者が故郷の「救援」へと駆けつけ、村人からの「歓迎」を受けることとなった翌日。彼はもう一日だけそこに留まり、微力ながらも「村の復興」を手伝うことにした。

 まずは、村中に打ち捨てられた「ゴブリンの死体」を片づけるところから始める――。
 彼自身の手で倒した数体をナナリーの部屋から運び出し「広場」に並べる。最も多くの亡骸が置き去りにされていたのも、そこだった。数十体にも及ぶゴブリン達が、ある者は切り刻まれ、ある者は魔術によって爆散されているのだった。
 恐らく、あの「女魔法戦士」の仕業だろう。これほどの多勢に囲まれながらも、けれど決して怯むことなく。魔物を一網打尽にしたのであろう彼女の「仕事ぶり」は、まさしく「上級職」に相応しいものだった。
 自分もそんな風に強くなれるだろうか?冒険者としての「先輩」に憧れを抱きつつも。やがては自らもそこに至りたいと、確かな「決意」を彼は新たにするのだった。

 集めた屍に火を放ち、それらが葬られる様をしばらく眺めた後。次に彼はゴブリン達によって無残にも破壊された「家屋の修繕」に取り掛かった。
 とはいえ、それは「短日」にして成るものではなく。あくまで膨大な作業量における、ほんの「一助」に過ぎないものではあったが。それでも村人は、相変わらず非力ながらも「村の一員」として復興を手伝う彼に感謝するのだった。
 村の「風景」は未だに変わり果ててはいるものの。そこにはわずかずつだが「日常」が戻りつつあり、村人の表情もいくらか活気づき始めた――、その日の夜。

 決して盛大とはいかず、簡素的ではありながらも「祝宴」が催された。それはもちろん「勇者の帰郷」を祝うものだった。

 村人は今となっては貴重な「食糧」を持ち寄り、彼のためにそのような場を設けてくれた。これまで彼らに見向きもされず、どちらかといえば「隅っこ」の方で膝を抱えるばかりだった彼も――、今宵は主賓席に座り、まさに「人々の中心」に居るのだった。
 誰もがこぞって彼の「英雄譚」を聞きたいとせがみ、未だ「駆け出し」である勇者はそれにやや辟易させられながらも。故郷で過ごす久方ぶりのひと時に、やはり「懐かしさ」と「幸福さ」を噛み締めていた。
 宴会の最中、彼の傍らには終始「ナナリー」の姿があった。村人が彼のことを「勇者」としてもてなす中、けれど彼女だけが今までと変わらぬ態度で接してくれた。
 此度の働きによって、少しはナナリーも自分を「見直してくれたかも」と思っていた彼は、そんな彼女の「変化のなさ」をやや残念に感じつつも。あくまで変わることのない「二人の関係性」に、どこか遠く記憶の彼方に「置き去り」にされたと思われていた日々を取り戻すのだった。

 ナナリーの捲れ上がった「スカート」の内側から、露わにされた「下穿き」から、溢れ出した「液体」。その「光景」は彼の網膜に焼き付き、決して消えることはなかった。
 ナナリーが「粗相」をしてしまったという事実は彼の脳裏に刻み付けられ、やがて胸の奥に微かな「キズ」となって半ば永久的に残り続けることとなった。
 今はあえて気丈に、どこか強気に振舞っている彼女の晒した「醜態」。そのあまりの「ギャップ」に対して、果たしてそれをどのように扱っていいのかも分からず。同時に彼女の見せた「羞恥」に満ちた表情を思い浮かべるだけで――、彼の「股間」に携えられた「聖剣」は何やら熱を帯び、得体の知らない力が込められるのだった。
 今も隣に居る彼女に。自らの内から湧き上がる「変化」を、その「衝動」を悟られることを怖れた彼は――、いつも以上に「いつも通り」に振舞おうとすればするほど、かえってぎこちなくなってしまうのだった。

 宴会は「夜更け」まで続けられ、一人また一人と村人が「帰宅」もしくは「寝落ち」していく中。けれど幾人かの酒好きとナナリーだけはいつまでも勇者を取り囲み、あくまで彼を寝かしてくれるつもりはないようだった。
 町では決して眺めることの叶わない「無数の星々」に夜空が彩られ、昼の光を浴びた「衛星」が沈むのに合わせて、それらはやがて「疎ら」になってゆく。人々の歓声も次第に消えてゆき、ついにはナナリーの瞼も少しずつ重くなり始め、

 そして「夜」が明けた――。

「未明」に、彼は村を発つことにした。
 あるいはこのまま一眠りし、昼過ぎに起きることで、改めて村人からの激励と共に送り出されることは容易であったが。彼はそれを何だか気恥ずかしく思い遠慮したのだった。
 人々がすっかり寝静まる中、皆を起こさないように音をさせずに立ち上がる。彼が最も気を遣わなければならなかったのは、やはり「ナナリー」だった。
 いつの間にか眠りこけていた彼女は彼の肩にもたれ掛かり、その「寝顔」は幸福そうな夢を見ているみたいだった。あくまで慎重に肩に乗った頭を動かすと、彼女は「うわ言」のように「彼の名」を呟いた。

「〇〇、ダメだよ…。そんなことしちゃ…」

 まるで彼の人知れぬ「出奔」を咎めるようなその言葉に。あるいは「悩ましげ」なその声に。彼は一瞬逡巡しそうになりながらも、何とか「迷い」を断ち切るのだった。
「別れの挨拶」とばかりに――、彼はやはり悩み迷いながらもナナリーにそっと「キス」をした。彼女の柔らかい唇の感触。自らの唇に残ったその「余韻」に頬を紅潮させながら、彼は再び「勇者としての日々」に戻っていくのだった。

「もう行くのか?」

 ふと「低い声」に呼び止められる。彼は思わず萎縮しつつも、声のした方を見ると――、そこには村長の「カルロスさん」の姿があった。
 暗闇の中で、彼の「鋭い眼光」だけが輝いている。それを窺い知るや否や、勇者はより一層「狼狽」してしまうのだった。
 彼は村長であると同時に、ナナリーの「父親」でもあるのだ。その「娘」に対して勇者の犯したあらぬ「狼藉」を、あるいは見られてしまったのではあるまいか?
 厳しい「叱責」を浴びせられることを怖れた勇者は身構える。だが彼の予想に反して、その声はあくまで穏やかなままだった。

「君にはこれから『世界を救う』という『使命』がある」

 彼は勇者のことをあえて「君」と呼称した。あくまでも「村の一員」として扱うつもりだというように。

「それは君にしか出来ないことだ」

 勇者は「決意」を込めて頷く。

「だがもしも、世界に『平和』が訪れたのなら――」

 彼は村人はおろか、未だかつて世界の誰もが口にすることのなかった勇者の「その後」について言及する。

「その時はどうか、この村に帰って来て欲しい」

 それはやはり「村長」としての言葉なのだろうか。それとも――。

「そして、娘のことを『幸せ』にしてやってもらえないだろうか?」

 どこか言いづらそうにしながらも、はっきりと「願望」を口にする。

「これは村長としてではなく。私一個人として、『父親』としての『依頼』だ」

 厳格な彼にしては珍しく、冗談めかしてそう言うのだった。

「『アレ』はどうも勝気というか、男勝りというか――、危なっかしいところがある」

 照れたような表情が、声からも伝わってきた。娘のことを「指示語」でそう呼んだことからもそれは窺える。

「だから、どうか君が『守って』やってほしい…」

 あくまで「勇者」としてではなく「幼馴染」として、彼は恐縮しつつも頷いた。
 そうして、彼にはまたしても「無二の肩書」が刻まれることとなった。ギルドの名簿に載ることのないその「称号」は――、「ナナリーの婚約者」と。


 すっかり「陽」が昇りきった頃になって、ようやく「町」へと辿り着いた勇者。
 いかに「依頼」のためであるとはいえ。村一つを、多くの人命を救ったその「働き」は紛うことなきものであり。にも関わらず、そんな彼の「凱旋」はあまりに「ひっそり」としたものだった。
 本来ならば、今回の彼の「功績」は「パーティ」(「即席」ではありつつも…)によってこそもたらせられたものであり。故にその「凱旋」もまた、「仲間たち」と共にあってこそ然るべきなのだったが――。

 村人の「無事」を見届け、「感動の再会」を果たしたその直後。
 勇者はその存在を半ば忘却し、すっかり「置き去り」にしてしまっていた「パーティ」と合流した。

「すまないが…、俺たちは一足先に町に帰らせてもらうことにするよ」

 その「提案」は、まさかの「サンソン」の口から発せられたのだった。
 これまで何かと勇者のことを気に掛けてくれて。今はまだ「名」ばかりの――、彼らのような「熟練者」に比べれば、ほんの「駆け出し」に過ぎない勇者を。決して侮るわけでも蔑ろにするでもなく。あくまで「平等」に「仲間」として扱ってくれていた、他ならぬ彼自身からのその申し出に、

「えっ!?あ、はい…」

 勇者はやや戸惑いながらも、了承するしかなかった。

 サンソンの傍らには「ナディア」の姿があった。遡ること、つい数刻前――。
 散々「悪態」をつきつつも、共に村を目指していた頃と「今の彼女」とでは、もはや「別人」とさえ思えるほどに纏う「雰囲気」が異なっていた。
「女魔法戦士」はサンソンに肩を貸され、その腕に支えられることでかろうじて立ててはいるものの――、今にも倒れそうなほど、ひどく「憔悴」している様子だった。

 激しい戦闘によって、「魔力」を「消耗」したのだろうか?
 周囲には、無数ともいえるほどの「戦果」が転がっている。思えば――、ほんの些細な「諍い」の末、一足先に村へと辿り着いたのは彼女なのだった。
 勇者はてっきり「パーティ」とは形ばかりの「馴れ合い」に我慢がいかず、彼女が逃げたものとばかり思っていた。だが、そんな考えが一瞬でも脳裏を掠めてしまったことすら不敬に感じられるほど、彼女は律儀にも自らの「仕事」を全うしていたのである。

 もし、彼女が居なかったら――。此度の「戦況」は、村民の置かれた「状況」は、あるいは今とは違うものになっていたかもしれない。そして彼が最も恐れ、だが強引にも覚悟を迫られることとなった、「犠牲者」だって出ていたかもしれないのだ。

 そういった意味では、やはり彼は(彼女の仕事に臨む「姿勢」がどうであれ)あくまでその「働き」については感謝すべきであったし。実際、今まさに彼はそれを言葉にしようと、声を発し掛けたところだった。

 だが。彼女のあまりの「変貌ぶり」に、彼は思わず口をつぐんでしまう。
「雰囲気」のみならず、むしろより「視覚的」に。彼女の「身に纏う」もの――、かつて「清廉」に「洗練」されていた「衣服」は、すっかり変わり果ててしまっており。それは今や「ボロ布」のように所々に穴が開き、あるいは「薄汚れて」いるのだった。

「どうして、『この私』がこんな目に…!!」

 彼女はまたしても「悪態」をつく。だがそれは、これまでのような「軽口」では決してなく。より深い場所から届けられる、「呪詛」の如く重たい響きを醸していた。
 その瞳に灯された、いつかの「鋭い眼光」もまた影を潜め――、彼女の「視線」は勇者を捉えることもなく、もはや何にも向けられてはいないようだった。
 どこか翳りのある「表情」。彼はそんな彼女の「横顔」と相対し、とてもじゃないが「礼」を言えるような雰囲気ではなかった。

 ふと。「異臭」が勇者の鼻に漂ってきた。それは紛れもなく「女魔法戦士」の方向からもたらせられる「芳香」。
 ゴブリンの「返り血」を浴びたことによるものなのだろうか。あるいは、何かしらの「魔物の体液」だろうか。それにしてはどこか「懐かしい」感じのする香りに、予期せず彼は「村での日々」を思い出す。

「農村」においては、ごく頻繁に嗅ぐこととなる「臭い」。
 やはり「悪臭」であることに違いはないものの――、「家畜」のそれは「肥料」として「作物の成長」にも役立てられる。
 ナディアから放たれる「ニオイ」、それはまるで「肥溜め」のような――。

 彼女から「数歩」離れた場所にいる勇者にさえ届くのである。ましてや、すぐ隣に居るサンソンが気づかぬはずはない。だが、彼はそれについて言及することなく、

「皆とも話し合ったんだが――」

 後方の「仲間たち」を一瞥し、

「今回の『報酬』について、俺たちは辞退させてもらうことにするよ」

 落ち着き払った様子で、きっぱりとそう言った。勇者はそれを聞き、けれど少しも意外に思うことはなかった。むしろ、当然とばかりに納得するのだった。

 今回の「クエスト」における「報酬」について。彼は「依頼書」によってではなく、ナナリーから伝え聞かされたことでその「内容」を知った。
 それを知っているからこそ、彼は「赤面」してしまう。いくら自分のことではないとはいえ――、「同郷」の村人、それもあろうことか「身内」による「醜聞」に。彼は思わず「羞恥」を感じずにはいられなかった。

 そのあまりに児戯じみた「報酬内容」について。彼は「仲間」に詫びようと思った。あるいは「村民」に代わって、自分がその「対価」を支払おうとさえ考えていた。だが彼が意思を告げようとする、その前に――、

「まあ、報酬が『アレ』じゃあねぇ…」

 それまで黙り込んでいた後方の「賢者」があからさまに侮蔑し、見下したように口元を歪めたのだった。

――どうして、そんなにも「馬鹿」にされなければいけないのか…?

 現に彼自身もそう思ったように、「報酬」とは本来「金銭」であって然るべきなのだ。だがそれにしたって、村で獲れた「作物」は町において「商品」として普通に「売買」されるものであるし。であるならば、それは「金品」と呼んだって差し支えないだろう。
 それに。何よりそれは「直接的」に、お腹を満たすことの出来るものなのだ。いかに「高価」であろうとも「硬貨」でお腹は膨れない。つまりは「間接的」な「価値」を有しているに過ぎないのである。

 にも関わらず。その「報酬」は彼らにとって、やはり「無価値」なものなのだろうか。
 もはや議論の余地さえなく(サンソンはそう言ったものの、彼らの間で報酬を受け取るか否かについて、真剣な「話し合い」がなされたとは到底思えなかった)、あっさりと「拒否」してしまえるほど。さらには、そこに何らかの「皮肉」を付け加えなければ気が済まないと思わせるほどに――。

 彼は「頬」のみならず、「全身」に熱が灯るのを感じた。あくまで自分に対するものではなく、「大切な人たち」に向けられたその「嘲り」に。「羞恥」よりもむしろ「怒り」がこみ上げてくるのだった。
 勇者は何か言い返そうと、「反論」を試みようとした。だがそれも、やはりサンソンの「反応」に先を越されてしまう。彼は睨みつけるようにして仲間を「制止」した後、

「確かに。今回の報酬は、あまりに『莫大』なものだ」

「定量的」に述べつつも、そこに「定性的」な「価値」を見出すのだった。

「だからこそ、君が受け取るにこそ相応しい!!」

 彼は言った。あるいはその言葉自体、紛れもない「方便」であり。勇者や依頼者に対する、彼なりの「気遣い」でもあったのだろうが――。
 兎にも角にも。彼は最後の最期まで他者に向けての「配慮」を欠かすことなく、その「姿勢」を崩すことはなかった。

 と、そこまで言い終えたところで。サンソンは「隣の同胞」を気遣いながらも体の向きを反転させ、勇者に「背」を向けて立ち去るのだった。
 その颯爽たる彼の「後ろ姿」に比して――。肩に腕を回され、まるで「引きずられる」ようにして歩くナディア。その「背中」は、やはり幾分か「小さく」感じられた。彼女の「マント」は下半分ほどが無残にも引き千切られており、「白いブラウス」はすっかり「土埃」にまみれていて、そして――。

 辺りはすでに「昏い」ものの、彼女の「スカート」に盛大に浮かび上がった「染み」を勇者は決して見逃さなかった。

 あたかも濡れた地面に「尻もち」をついてしまったかのような、「臀部」を中心にして広がるその「痕跡」。彼女はそこを手で「隠そう」としているものの、だがその全てを「覆う」ことは出来ずに半ば諦め掛けているのだった。
 その「仕草」と、あくまで衣服の「形状」は違えど、同じく描き出された「紋様」に。ふいに勇者は、強い「既視感」を覚えるのであった。

 ナナリーの晒した「醜態」。「恐怖」のため、「理性」を「本能」が上回ってしまったことによる「痴態」。それについては致し方ないだろう。何しろ彼女は「村娘」であり、ついこの間まで「戦い」とは無縁の日々を送っていたのだから――。
 だが、ナディアに関しては違う。彼女にとっては、まさにそれこそが「本業」であり。「戦い」こそが「日常」なのだから――。
 あるいは「死」に対する「恐怖」が全くないかといえば、さすがにそんなことはないだろうが。まさか「彼女に限って」、そのような「失態」を○すとは考えられなかった。

 だからこそ、ふいに浮かんだあり得ぬ「発想」を勇者はすぐさま打ち消した。そして、代わりに勇者はまたしても「想像」する。彼が実際に目にした、ナナリーの「粗相」を。

「さてさて、我々もそろそろ――」

「賢者」が声を発したことで、「回想」は打ち切られる。彼は「半笑い」を浮かべつつ、「目配せ」をした。それは、とても「嫌な感じ」のする「笑み」だった。

「ナディア様の『雄姿』を皆に周知する、という『重大な使命』がありますので!」

 あえて「大仰」に言う賢者。その畏まった「物言い」に、それまで「無反応」だった「モブ達」さえもついに堪えきれず笑い出してしまう。
 周囲を憚ることなく、鳴り響く「嘲笑」。その「罵声」は、あるいはナディアの耳にも届いていたのかもしれないが。それでも、彼女が振り返ることは決してなかった。

 ナディアの「うんちお漏らし」。
 彼女にとって、耐え難き「羞恥」でありながらも。あくまでも「仲間内」のみ、その「下穿きの内」だけで収められるべき「秘密」を「吹聴」して回ったのは――、他ならぬ「彼ら」なのだった。
 あるいは「女魔法戦士」に相手にされなかったことに対する「当てつけ」か、はたまた他者を蹴落とすことで成り上がろうとする彼らの「卑しい性分」か。
 いずれにせよ「ゴブリン如き」に恐れおののき、あろうことか「糞尿」までもまき散らしてしまった彼女に対して。「劣情」を主成分とした彼らの「憧憬」は、もはや見る影もなく失われていたのだった。

 もし仮に、勇者の耳にもそのような「噂」が届いていたとしたら――。それも全ては「自分のせい」だと彼女に対する「申し訳なさ」と、いくらか「同情」を禁じ得なかったであろうが。(それもまた彼にとっては「目覚め」の契機となり得たかもしれないが…)
 その後、すぐに町を後にすることになる彼は知るべくもなかった。

 何はともあれ、サンソンの「号令」をもって「急造パーティ」は「現地解散」となり。またしても「一人きり」となった勇者は町へと帰還し、その足で「ギルド」に向かったのだった――。


「おはようございます、勇者様」

 すでに「昼前」だというのに、未だ人の疎らな「ギルド」において。
 やはり真っ先に声を掛けてきたのは、あの「エルフ」だった。今回のクエストの受注にあたって自ら「便宜」を図ったというのに。パーティ招集のため、あれほど「尽力」したというのにも関わらず。けれど彼女はあくまで、それについては何も言って来なかった。ただ、普段通りの「挨拶」を彼に向けてくるのだった。

 早速、彼は「報告」する。依頼を「達成」したこと、村の皆が「無事」であったこと、数匹のゴブリンを彼の手で「打倒」したこと。それらを出来るだけ「簡潔」にまとめようと心掛けてはいたものの、それなりに「饒舌」になってしまうことは否めなかった。

「お疲れ様でございました」

「全て」を聞き届け、それでも尚彼女は冷静なまま「定型句」を述べるのだった。
 その表情こそ紛れもない「笑顔」ではあるものの、それは「建前」として他の冒険者に向けられるのと「同じもの」であり。あくまでギルドの受付として、彼女に「標準装備」されているものに違いなかった。

「では早速、『報酬受け渡し』の手続きに移らせて頂きます」

「業務的」にそう言い終えると。彼女は手元にあった「帳簿」を、ページを捲ることなく「一発」で開き当て、それを彼に向けて差し出したのだった。

「こちらに『サイン』をお願い致します」

 彼女は指で箇所を示しながら、やはり起伏なく言う。「羽ペン」を受け取りつつ、彼女に言われるまま「署名」を終えながらも――、彼は何だか「拍子抜け」するような、妙に「がっかり」したような気がするのだった。

 別に「褒めて」欲しかったわけではない。「認めて」貰いたかったというのとも違う。彼が今回受けた「依頼」というのは、あくまで「低級」のものであり。「志願者」が現れなかったのも、その「報酬の低さ」こそが理由であり。決して「誰にも成し得なかった」という類のものではなく、むしろ「駆け出し」であっても丁度いいくらいの「低難易度」に過ぎないのだった。
 何しろ相手は「ゴブリン」なのだ。「低級の魔物」、「冒険者」がまず最初に「狩る」に相応しい「敵」であり。あるいはその「経験」を経ることによって、初めて「半人前」だとかろうじて認められるくらいの、いわば「試金石」なのである。
 たとえそれが「軍勢」であろうとも――、いくらか「難易度」の「加算」は認められるものの、やはりそれは「低級の範囲」に充分収まるだけのものなのだった。

「エルフ」は彼のことを「心配」すらしていないようだった。紛れもない「彼の故郷」が「戦火」に見舞われたというのに。いかに「低級」であろうと、まさに「魔物」と戦ってきたというのに。彼女は勇者の「生還」を祝うどころか、体中に受けた「名誉の負傷」を眺めても尚、彼が「無事」であったことに対する言葉はないのだった。
 あるいはそれこそが「信頼」と呼ぶべきものなのかもしれない。彼女は彼が無事に戻ると信じていた。きっと大丈夫だろう、と。余裕をもって、そう構えていた。だからこその「無言」なのかもしれない。(それとも、彼女が集めた「上級職」に対する「信頼」なのだろうか…?)

「ありがとうございます。それでは――」

 彼女は「署名」を確認し、上から「受領印」を押す。そして帳簿を「パタン」と閉じてから仕舞うと、代わりに何やら「薄汚れた小袋」を取り出した。

「お渡しするのが遅れてしまいましたが…、こちらが『依頼』の『前金』です」

 彼はその「小袋」に見覚えがあった。(確かこれは村の大人たちが「買い出し」のため、町に出掛ける際に用いるものだったはず…)

「どうぞ、ご確認下さい」

 確認するまでもなく、すでに「中身」については知っている。村人が彼のために持ち寄った「果実の種」だろう。それもやはり、彼以外にとっては「無価値」に過ぎないもの。
 だがしかし。彼が一応とばかりに袋を開け、改めたその「中身」は――、

 数枚の「銀貨」であった。

 彼の育った村においては「大金」とさえ呼べる額である。 

「そして、こちらが今回の依頼の『達成報酬』です…」

 彼女はどこか言いづらそうに、

「村で獲れた作物、『一生分』でございます…」

「依頼書」に書かれた通りの、そのあまりに途方もない「内容」をそのまま口にする。

「尚、『報酬の多寡』について、当ギルドは一切関知しておりませんので――」
「万が一『支払い』がなされない場合は、ご自身で『回収の依頼』をお願い致します」
「我々ギルドは、『依頼者様』と『冒険者様』との『信頼』で成り立っております」

 それを言うことが、「規則」で決められているのだろう。「スラスラ」とした口調で、澱みなく「条文」を言い終えたところで。

「いりません…」

 彼は「明確な意思」を言葉にする。

「えっ?」

 そこで初めて、彼女は「個人的」な戸惑いを露わにした。

「報酬はいらないです。これも依頼者の――、『おじいちゃん』に返しておいて下さい」

 勇者はやや迷った挙句、あくまで彼にとっての「呼び名」でそう言った。

「かしこまりました。では、責任もって私から依頼者様に『お返し』しておきます」

 無論それは「業務外」であったのだが、エルフは「快諾」した。
 そうすることで、少なからず村の「復興」に役立てられるのなら。それによって、わずかばかりでも彼の「助け」となれるのなら。彼女は「ギルドの受付」としてではなく、「一人の女性」として。今一度、彼のために一肌脱ごうと決意するのだった。

「以上で、全ての『手続き』を終えさせて頂きます。何かご不明な点はございますか?」

 最後にそう問われ、勇者は顔を上げる。「正面」からしっかりとエルフの顔を見据え、そして――。

「色々とありがとうございました!!お陰で、村の皆を助けることが出来ました」

 はっきりと彼は言った。「不器用」ながらも、精一杯の気持ちが込められた彼の言葉。けれど、当のエルフは――、

「一体何のことでしょう?」

 わざとらしく首を傾げ、あくまで「とぼけて」見せるのだった。

「いえ、何でもないです…」

 彼のなけなしの「勇気」もそこまでだった。「気恥ずかしさ」を堪えつつも放った言葉はけれど――、彼女によって見事に躱されたことで、後にはただ「居たたまれなさ」のみが残るのだった。
 再び、彼は下を向いてしまう。もはやその場に留まり続けることすら「羞恥」に感じ。彼は踵を返し、立ち去ろうとしたところで。

「必ず帰ってくるって信じてましたよ!」

 その「声」に振り返り、今一度彼は「エルフ」を見る。
 その「表情」は、やはり「いつも通り」のものでありつつも――、瞳を潤ませながらの「笑顔」は、紛れもなく「彼だけに」向けられたものだった。


 ある者は去り、またある者が訪れる。「町の日常」はあまりにも忙しない。そうした日々の中で、ようやく彼にも「仲間」が出来た。

「アンタ、『勇者』なんだって?」

 最初に声を掛けてきたのは、一人の「女戦士」であった。
「肉体」に縦横無尽に走る「傷」は、まさに「歴戦の猛者」であることの「証」だった。

「アタシと『一戦』交えちゃくれないかい?」

 彼女からもたらせられた提案は「勧誘」ではなく、まさかの「試合の申し出」だった。

――ヒュン!
――ガキィィン!!
――ズバッ!
――ドシャ!!

 幾閃かの「剣戟」を重ねた末、あまりにあっけなく彼は膝をついてしまう。
 彼のこれまで積み上げた「研鑽」は、彼女の「剣技」の前では全く歯が立たず。彼が「勇者」となって以来、一日たりとも欠かすことの無かった「鍛錬」も――、彼女の長年のそれに比べればほんの「付焼刃」に過ぎず。彼は彼女に対して、少しも敵わなかった。
 だが、それでも。「試し合い」の後、蹲る彼に差し出された手。

「アンタの『太刀筋』気に入ったよ!まだまだ、アタシには遠く及ばないけどね!」

 彼のことを認めながらも。けれど自らを決して「卑下」することなく、むしろ盛大に「誇示」しつつも「豪快」に笑う彼女の手を――、彼は掴むのだった。

「アタシの名は『ヒルダ』」

 彼女は「名」を告げた上で、 

「今はまだ『戦士』だけど、これでも『世界一』の『バトルマスター』を目指してる!」

「不遜」ともいえるくらいの「名乗り」を上げる。

「アンタは?」

 そう問われたことで、彼は自らの「氏名」とそれから――。あるいは自らの「使命」と呼ぶに相応しき「職業」を、やはり「自信なさげ」に答える。

「――か。いい『名』だね!」

 ナナリー以外から「名前」で呼ばれるのは、随分と久しぶりな気がした。けれど彼女はあえて「その名」を繰り返すことなく――。

「決めた!これから先、アンタのことは『勇者サマ』って呼ぶことにするよ!」

――自分が「勇者」だって、アンタが堂々と胸を張って言えるようになるまで。

 そうして、またしても彼女は「豪快」に歯を見せるのだった。
 当初は「次の町まで」という約束だったが、いつの間にかそれは「反故」にされ――、彼女はパーティにおける「最古参」として、「最後まで」彼と共にあり続けるのだった。

「新天地」を求めるべく、「彼ら」が町を出ようとした時。
 また一人、声を掛けてくる者の姿があった。

「あの、えっと…。ワタクシも『お仲間』に加えては頂けないでしょうか?」

 あまりに唐突な「出願」に、「二人」は顔を見合わせる。女戦士の方はやや「苦い顔」をしているようにも思われたが、あくまでも「合否」は彼に委ねるつもりのようだった。

「ぜひ、お願いします!!」

 むしろ彼の方から「願い」を口にし、あっさりと「了承」を示すと、

「やった!!めっちゃ嬉しいで――あ、その…、ございます」

「女僧侶」はなんだか妙な「言葉遣い」になりつつも――、だがそれによって、彼女の「真っ直ぐな思い」がより率直に伝わってくるのだった。

「経験的」にも「年齢的」にも、彼にとって「先輩」である「両名」を加えて。ついに、彼は念願の「パーティ」を組むことと相成った。だがしかし――。

 それからの勇者の日々は、これまで以上に「危険」に満ち溢れたものだった。

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おかず味噌 2020/11/20 16:00

ちょっと悪いこと… 第三十話「弟の視点 ~御恩と咆哮~」

(第二十九話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/382975


――純君、お姉ちゃんもう出ちゃいそうなの…。

「両手」で必死に「お股」を押さえて、「涙目」になりながらお姉ちゃんは言う。

――お願いだから、「おトイレ」に行かせて…!!

 お姉ちゃんは僕に「懇願」する。昔から「お願い」するのは、大抵「僕の方」だった。いつだって、僕の欲しい「玩具」を持っているのは「お姉ちゃんの方」だったし(お姉ちゃんが持っているから欲しくなるのであって、いざ手に入るとすぐに飽きてしまうのだが)、「遊んでほしい」「構ってほしい」とゴネるのはもはや僕の「専売特許」だった。だけど「今だけ」は――。

 お姉ちゃんの「望むもの」は――、「行きたい場所」は――、僕の「方」にあった。
「廊下」の真ん中、「トイレ」の真ん前で、僕たちは向かい合っていた。僕の「後ろ」、お姉ちゃんから見ると僕を隔てた「向こう側」に「それ」はある。今、最もお姉ちゃんが求めるべき「救いの場所」が――。

「優秀な姉」を持つというのは「弟」からすると「タイヘン」なものなのだ。あからさまに「比較」されることは少なくとも、度々「お姉ちゃん」を「引き合い」に出され――、「お姉ちゃんはこうだった」とか「お姉ちゃんはこうじゃなかった」と「大人たち」は皆、ただ「姉弟」というだけで「同じだけ」の「願望」を僕に求めてくる。

「中学」に上がって「最初」の「クラス」の「担任」は、かつてお姉ちゃんを受け持ったことのある「先生」らしい。最初の「ホームルーム」の後、僕はその「先生」に――、

「松永さんの『弟』なんだね」

 と言われた。大して「珍しく」もない「名字」だが、「名簿」を見てなぜだか「ピン」と来たらしく――。数多くいる「教え子」の内、それから数年が経つにも関わらず。ただ「名字が同じ」というだけで「もしや」と思い出されるほど、それくらいにお姉ちゃんの「威光」は「健在」であるというわけだ。そして――、

「『期待』してるよ!」

 と、なぜか「謎」の「信頼」を寄せられたのだった。それを言われた僕はというと、「嬉しい」とか「良かった」という気持ちは全くなく。むしろ、盛大な「プレッシャー」に「押しつぶされそう」になっただけだった。

「親戚」やはたまた「両親」に対しても、その「恩恵」は「有効」で。それはまさしく「水戸黄門」の「印籠」のように。「偉大な姉」の残した「功績」は、あくまで僕のほんの少し先にある「足跡」として――僕が望む望まないに関わらず――僕の進む「道」を、「歩きやすい」ように「明るく照らす」のだった。(それが、実は僕を「歩きづらく」させているのは別として…)

 いつだって「家族」の話題の中心は「お姉ちゃん」にあり、そこにおいて僕はただただ「従者」の如く、まるで「助さん、格さん」のように「脇役」に甘んじるしかなかった。
 そうしていざ――最近「漫画」なんかで流行っている「スピンオフ作品」のように――僕に「スポットライト」が浴びせられると。ただ「弟である」というだけで、「過度」な「期待」は容赦なく僕に「降り注ぐ」のだった。そしてそれは僕が「大きくなる」につれて、より「分かりやすい」ものになっていった――。
 思えば、僕がある「時期」から「無意識」にお姉ちゃんを「避ける」ようになったのも、そうした「姉の七光」に「嫌気が差した」からかもしれない。

 だけど、あくまで今この「瞬間」だけにおいては――、
「立場逆転」。今や「エラい」のは「年長者」である「姉」ではなく、僕より「勉強」が出来る「大学生」のお姉ちゃんではなく、「不出来」な「弟」である僕の方だった。

 僕はお姉ちゃんを「トイレ」に行かせないよう、「通せんぼ」をしていた。

 別にお姉ちゃんを「嫌っている」わけでも、「ムカついている」わけでもない。むしろ「あんな事」があってさえ僕に対する「態度」を変えることなく、変わらず「優しい」お姉ちゃんのことが僕は「大好き」だった。でも、それとこれとは話が別なのだ。
 あくまで「いじわる」のつもりだった。似ているけれど「いやがらせ」とは違うし、ましてや「いじめ」なんかではないつもりだった。

――このままだとお姉ちゃん、「お漏らし」しちゃう…。

 ついにお姉ちゃんの口からその「言葉」が飛び出す。「お漏らし」という「四文字」。「大人」がほとんど言うことなく、ましてや決してすることのない「恥ずかしい失敗」。
 その「一線」を今、お姉ちゃんは「越えよう」としていた。
「アソコ」が「ムズムズ」してくる。「全身」から「そこ」に「血液」が集まってくるような感覚と同時に、僕の中の「意地悪な気持ち」がさらに加速し、高められてゆく――。

――ダメだよ。

 僕は短く言った。すると、お姉ちゃんの顔に「絶望」が浮かんだ。

――いいじゃん。どうせ、いつも「お漏らし」するんだから。

「皮肉」を込めて僕は言った。自分の口からも出たその「ワード」に、僕はまた少し興奮を覚えた。

――イヤだ!!恥ずかしいから…。

 お姉ちゃんは下を向く。その体は「小刻み」に震え、何度も足を組み替えたりしている。かなり「限界」が近いのだろう。
 お姉ちゃんが押さえた「スカート」のその「内側」――、その「中」の「景色」を、僕はすでに知っている。そこから「溢れてくるもの」についても、もう僕は一度視ている。
 だからこそより「リアル」に、お姉ちゃんの「我慢」がひしひしと伝わってきた。

――本当にムリ!!「おしっこ」出ちゃう!!でりゅ~!!!

 そして。ついにお姉ちゃんは「決壊」を迎えた。スカートの中から「一筋」の「水流」がもたらせられるはずだった。そこで僕は――、


「目を覚ました」のだった。


 一瞬、何が起こったのか分からなかった。ついさっきまで、確かに「廊下」にいたはずなのに、次の瞬間には「ベッドの上」にいた。あるいはこれが「瞬間移動」「空間転移」というものなのだろうか。それとも、あまりに「衝撃的」な光景を目にしたことで、僕は「気絶」してしまったのだろうか。
 だが。「記憶」を紐解くように、一つずつ順番に「思い出して」みようとすると――。所々に「空白」があり、そもそもそこに至った「過程」というものがごっそりと抜け落ちていた。それに。よくよく考えてみれば、あまりに「チグハグ」であり得ない「状況」だった。「夢」を見ていたのだと、そこで僕は初めて気付いた。

「夢」というものはどうしていつも「唐突」に、それも一番「肝心な良い所」で終わってしまうのだろう。あともう少し、ほんの一息で「クライマックス」が見れたというのに。「ラストシーン」はいつだって、手の届かない場所にあるのだ。

 僕はもう一度、「眠ろう」かと考えた。あるいは「続き」が見られるかもしれない、と淡い期待を抱いたからだ。だけど経験上、「見たい夢の続き」は決して見れないものなのだ。であるならば、まだ「夢想」が「リアル」な内に、せめて自分の「想像」で「先」を補おうと。僕は目を閉じて、瞼の裏にその「情景」を思い浮かべた。
 すでに「固く」なった「おちんちん」に手を伸ばす。それを「想像の世界」を旅する「乗り物」の「ハンドル」に見立てて、強く握りしめる。

――本当にムリ!!「おしっこ」出ちゃう!!でりゅ~!!!

 そこまで「巻き戻し」、「再生」する。聞き馴染んだお姉ちゃんの「声」で、夢の中の「発言」を「再現」する。そして、今度こそ――。

――ジョボボボ…!!!

 お姉ちゃんは「お漏らし」をした。お姉ちゃんの「スカートの中」から生み出された「おしっこ」が強かにフローリングに打ち付けられる「音」を、確かに僕は聴いたのだ。
 お姉ちゃんの「パンツ」がみるみる内に濡れ「湿った色」になってゆくのを僕は視た。(本当は「見えない」のだろうけど、想像は「夢の中」以上に「思い通り」なのだ)
 何度だって、その「瞬間」を繰り返す。最初の「一滴」が零れ落ち、やがてそれが「滝」になってゆく様子を観察する。そして、何度目かの「繰り返し」の時。お姉ちゃんの「決壊」と同時に、それに合わせるように、僕は「射精」した。

――ドクン、ドクン…!!

 全身を包み込む「気怠い」感覚と、おちんちんに残った感触。その「余韻」にしばらく浸っていた。そしてそれらが引いていくと同時に、失っていた「罪悪感」が襲ってくる。「イケないことをしている」という実感が確かにあった。

――これでもう「何回目」だろう…。

 お姉ちゃんのことを「想って」、お姉ちゃんを「おかず」にしてしまうのは――。
 その「行為」を「覚えて」からというもの、それをする時はいつだってお姉ちゃんのことを考えてしまう。「状況」は違えど、時には「テレビ」や他で見た「創作物」を頼りにしながらも、けれど「相手」はいつも「お姉ちゃん」だった。そして、「妄想」の中の「彼女」は何度だって「お漏らし」をしてしまうのだった。

 僕はきっと「オカシイ」のだろう。「家族」であるお姉ちゃんに対して「そういう目」を向けてしまい「あらぬ想像」を抱いてしまう。もはや「異常者」以外の何者でもない。僕はすっかり「変態」になってしまったのだ。
 でもそれは、何も「僕だけのせい」ではない。「お姉ちゃんのせい」だってあるのだ。「あの夜」お姉ちゃんは少し「ヘン」だった。僕の部屋に入ってきた時から、お姉ちゃんの「様子」はどこかいつもと「違って」いた。
 いや、「ヘン」だったのは僕だって同じだろう。いくら「秘密」がバレたからといってあんな「告白」を、さらにはあんな「お願い」をお姉ちゃんにしてしまうなんて――。

 あの夜の「出来事」こそ、まさに「夢の中」みたいだった。何度「正確に」思い出そうとしてみても、上手くはいかなかった。あれほど「リアル」に、僕のすぐ「目の前」にはお姉ちゃんがいて。お姉ちゃんの「お尻」に「お股」に「触れる」ことだって出来ていたのに。その「感触」を「匂い」を思い返そうとすればするほど、それらは「モヤ」が掛かったみたいに、薄い「ベール」を隔てた「向こう側」にあって、決して「触れられない」場所に存在するみたいだった。
 一つ一つの「行為」は「体験」はそれこそ「断片的」に思い浮かべられ、まさしくそれは「夢」のその「特徴」にとてもよく似ていた――。

 僕は「ベッド」から起き上がる。今日は「休み」でまだもう少し「ごろごろ」していたかったけれど、いつまでも寝ているとまた「ママ」に叱られてしまう。
 それにもう少し寝るにしたって、その前に僕には「やらなければならない事」がある。
 僕は「パジャマ」も「トランクス」も脱がずに「射精」してしまっていた。その方が「いざ」という時――急にママが僕の部屋に入ってきた時など――に「緊急回避」することが出来るし、何より僕としてはその「方法」のほうが、何かに「包まれている」ような気分がしてより「安心」するのだった。
(本当ならば「お姉ちゃんのパンツ」に出したいところだが、僕の「悪事」が「バレて」しまって以来、それは控えるようにしている)

 だけど。分かりきっていたことだが、自分の下着の中に「出してしまう」というのは、その後が「気持ち悪い」のだった。これは最近「発見」したことだが――、「精液」というのは、出た「直後」はドロドロと「ゼリー」のような感じをしているが、時間が経つと「液体」のようになってしまう。それが「トランクス」に付き、濡れてしまう。まるで「お漏らし」をしてしまったような「冷たい」感触。あるいはお姉ちゃんも「同じ感触」を味わったのだろうか。

「ベッド」を出て「洗面所」に向かう。パジャマの上からだとさすがに「濡れている」のは分からないだろうが、「臭い」はするかもしれない。それに下着を「洗っている」のを見られないようにしなければ。やはりそれも「あの夜」のお姉ちゃんと「同じ」だった。
 ゆっくりと、なるべく音を立てないように「ドアノブ」をそっと回そうとした。そこで僕は思い出す。今日は家に誰も「居ない」ことを――。

 そういえば昨日の夜、ママに聞かされていた。
「明日はパパの会社の人の結婚式に行く」のだと。
「パパ」だけでなく「ママ」も結婚式にわざわざ「お祝い」に行くということは、ママの「知り合い」でもあるのかと思い僕がそう訊くと、どうやらそうではないらしい。
「付き合いよ」とママは苦笑しながら答え、パパはなんだか申し訳なさそうに小さくなっていた。「そういうものなのか」と僕にだって少しくらいは「大人の事情」というものが理解できたが、「大人はタイヘンだな~」とやはり子供じみた感想を抱いただけだった。

 お姉ちゃんは今日も「バイト」らしく、夕方まで帰らないらしい。ということはつまり、今この「家」に居るのは「僕だけ」ということになる。
 こんな事なら、もう少し寝ていても良かったと「後悔」した。「口煩い」ママの居ないこんな日だからこそ、ここぞとばかりに「自堕落」を発揮するべきだった。
 それでも。せっかくの「休日」なのだから、もう少し「有意義」に過ごそうという気持ちがしないでもなかった。
 だがどちらにせよ、まずはその前に、僕には「やるべき事」があった。
 僕はもはや「堂々」と、誰に「遠慮」することもなくドアを開け「廊下」に出た。そこで、確かに「その音」を聞いたのだった。

――ピチャピチャ…。

 あるいは「お漏らし」にも似た「水の音」。それは「洗面所」の方から聞こえてきた。

――「誰か」いるのかな…?

 僕の「疑問」はけれど「不安」に変わることはなかった。少なくとも「家族の誰か」であるに違いないと思ったからだ。
 となると、あくまで確率は「三分の一」。それはやがてある一つの「可能性」へと絞られてゆく――。

――もしかして…?

 僕の脳内に「あの夜」覗き見た「光景」が蘇ってくる。決して「夢の中」の「出来事」じゃない。紛れもなくそれは「現実」のものだった。
 お姉ちゃんはまた「やってしまった」のだろうか。あれほど僕の前で「反省」したにも関わらず。だけど思えば、お姉ちゃんは「謝り」はしたものの「もうしない」とは言っていなかった。

「音」を立てないように「静か」にドアを閉める。「あの夜」と同じように、「抜き足」「差し足」「忍び足」で。僕は「白昼夢」を見ているかのように「その場所」を目指したのだった――。

「近づく」につれて、どうやらその「音」が「洗面所」から聞こえてくるものではないことに気づく。もう少し「奥」、それは「浴室」から届いてくるものだった。
 誰かが「シャワー」を浴びているらしい。どうして「こんな時間」に?誰もいないはずの「家の中」。あるいは「家族」ではない「誰か」を想像し、少しばかり僕は「不気味」さを感じた。
「恐怖心」を抱きつつも、けれどわずかに「好奇心」が勝った。恐る恐る、「入口」から「顔だけ」出して覗き込む――。

 曇った「摺りガラス」越しに「シルエット」が浮かび上がっている。だがそれだけの「情報」では「人物」を「特定」するには至らなかった。
 やがて「溜息」が聞こえてくる。聞き慣れた「声」。それは紛れもなく「お姉ちゃん」のものだった。だがそこで再び、僕の中に幾つかの「疑問」が浮かぶ――。

――お姉ちゃんは「バイト」じゃなかったのか。
――どうしてこんな時間に「シャワー」を浴びているのだろう。

 それについて考えている内に、やがて「シャワー」が止められ「水音」が止んだ。

――ヤバい!!

 ここに居るのが知れたら、またしても僕は「あらぬ疑い」を掛けられてしまう。
(いや、かつて僕に掛けられた「嫌疑」はあくまで「冤罪」などではなかったのだが…)

――早く、ここから「逃げ」なければ!!

「逃亡」を図る間もなく「二つ折りの扉」が開かれる。そしてそこから「伸びてきた腕」を目にした時、僕の「視線」は引き剥がせなくなり、僕はそこから動けなくなった。

 お姉ちゃんは「服を着ていた」。

「裸を見れるかも」と少なからず抱いていた「淡い期待」は、けれど「裏切られる」ことになる。「がっかりする」と同時に、またしても次の「疑問」が生まれる。

――どうして?お姉ちゃんはシャワーを浴びていたんじゃなかったのか?

 あるいは「お風呂掃除」でもしているのだろうか。お姉ちゃんのことだから――、それもあり得る。ロクに「お手伝い」もしない僕とは違い、お姉ちゃんは「家事」だって難なくこなすのだ。だけど、どうやらそれも違うらしい。

「フタ」を閉めた「洗濯機」の上には、お姉ちゃんの「パンツ」が置いてあった。

 それがそこにあるということはつまり――、お姉ちゃんは今、「下」を「穿いてない」ということだ。
「お風呂掃除」で「服が濡れる」ことを「防ぐ」ためだろうか。いや、それだってわざわざ「下着」まで脱ぐ必要はないだろう。
 幾つかの「事実」により「消去法」によって残された一つの「可能性」。それはつまり「習慣」としての「入浴」ではなく、あくまで「突発的」な「理由」によって、「必要」に迫られての「沐浴」。僕が「最初」に考えた通り、やっぱりお姉ちゃんは――。

 再び、その「想像」に思い当たったことで。さらに僕はそこから動けなくなる。またしても、お姉ちゃんは「お漏らし」をしてしまったのだろうか?これで一体「何度目」なのだろう。とはいえ、あくまでそれはお姉ちゃんの口からもたらせられた「伝聞」のみであり、実際に僕がそれを「目撃」したわけではないのだが、それでも――。
 お姉ちゃんの「自白」を裏付ける、厳然たる「証拠」として。あるいは「洗濯機の中」には今、お姉ちゃんの「下着」が、「おしっこ」によって濡れた「お漏らしパンツ」が、入っているのだろうか。

「距離」にしてほんの「数歩」。あと少し手を伸ばせば、僕はそれを「ゲット」することが出来るかもしれない。紛れもないお姉ちゃんの「粗相の証」を、「行為」の「成果物」を、この手に収めることが叶うかもしれない。
「壁の影」に隠れたまま、僕はそこから少しずつ「身を乗り出す」。すでにお姉ちゃんは「体を拭く」行程に至っているにも関わらず、「罠」にハマる「小動物」の如く、僕は「無警戒」にも「洗面所」に「足を踏み入れた」のだった。

 そこで。「浴室」から出てきたお姉ちゃんと「目が合って」しまう――。

 より「正確」にいうなら、僕とお姉ちゃんの「目線」は決して「交わる」ことはなかった。なぜなら僕の「視線」は、お姉ちゃんの「下半身」に注がれていたのだから――。

 僕の目はまさしく、お姉ちゃんの「パンツ」に「釘付け」になっていた。
「下着姿」のお姉ちゃん。淡い「水色」。僕の「物色」の「記憶」の中にはない、それは「初めて」見るものだった。
 そして――。「下着」そのものなら、それ「単体」ならば何度も「見ている」ものの。それをお姉ちゃんが「穿いている」のを見るのは、やはり「初めて」のことだった。

 僕はさっき「予め」、「射精」しておいて良かったと思った。これも最近「発見」したことなのだが――、「射精後」というのは「回復」までにそれなりの時間が掛かるのだ。
 いかに「刺激」を与えても「反応」せず、「アソコ」は「元気」にならないのだ。
 だからこそ。すでに一度「射精」を終えていたのは、まさしく「僥倖」といえた。
(もちろん「その後」にこんな「展開」が待ち受けていることなど、思わぬ「おかず」がもたらせられることなど、僕には知る由もなかったのだが…)
 あるいは「射精前」であったなら――、僕は「勃って」しまっていたかもしれない。
 お姉ちゃんの「パンツ」を目にしたことによる僕の「反応」を、「条件反射」とでもいうべき「欲情」を。パジャマのズボンの「前面」に表れた「隆起」によって、知られてしまったかもしれない。僕の「勃起姿」を見られていたかもしれなかった。

 僕の「安堵」とは別に、むしろそれについては「そっちのけ」で。僕の「視界」は相変わらず、お姉ちゃんの「そこ」で満たされていた。
「勃って」いようといまいとも「男子」であれば確実に「あるはずのモノ」が。だけど、お姉ちゃんには「存在しなかった」のである。
「考える」までもなく、それは「当たり前」だった。「保健の授業」で習わずとも、僕はそれを「知っている」。「男子」における「性器」、その「棒状のモノ」の「代わり」として、「女子」には「性器」としての「穴」が「付いている」のである。

 お姉ちゃんの「下半身」、「パンツ」のその「前面」には「何も無かった」。そこに「起伏」はなく「隆起」するものもなく。ただ「なだらか」な「見た目」をしていた。
「パンツ」の上部、その左右には「腰骨」が張り、浮き出ている。細くなった「側部」の「布」は「上半身」と「下半身」とを分かち、その真下からお姉ちゃんのか細い「太腿」が伸びている。
「腰の部分」をよく「観察」すると、「白い部分」と「やや褐色の部分」とが「境界線」を表わしていた。それは恐らく、お姉ちゃんの「穿いていた跡」なのだろう。
 その「下着」は、普段お姉ちゃんが「穿いている」ものより、いくらか「小さめ」の「サイズ」らしい。特に「派手」というわけではなかったものの、果たしてお姉ちゃんはその「小さめの下着」を穿いて、これから「どこに行く」というのだろう。確か、今日も「バイト」だと言っていたはずだ。だけど、それは「本当」なのだろうか――。

「パンツ」の上限、その「ど真ん中」には、可愛らしい「リボン」のようなものがあしらわれていた。
――「プレゼント・フォー・ユー」。
 まるで「贈り物」のような「装飾」は、あるいは誰かに「捧げる」ことを意図したものなのかもしれない。
 さらに「注視」したところで、僕は気づく。「布」と「下腹部」との「境目」、そこには何やら「モジャモジャ」としたものが「はみ出て」いることを。
 それはお姉ちゃんの「陰毛」だった。あくまで「俗称」ではあるのだが、「男子」と「女子」とでその「呼び名」は変わってくる。お姉ちゃんは「女子」だから当然、それは「マン毛」ということになる。
「パンツ」の中に「収まり」きらなかった、お姉ちゃんの「マン毛」が「数本」ばかり「はみ出して」いたのだった。

 些細な「綻び」さえ決して見逃さない、僕の鋭い「観察眼」でもって改めて「パンツ」の「中央部」を確認してみると。その「前面」が実は「なだらか」ではないことを知る。
 そこには「ぷっくり」と、「穏やか」ながらも確かな「丘」があった。「凹凸」などはもちろんない。だけど、お姉ちゃんの「ぺったんこ」の「お腹」とは違う、わずかながらも「膨らみ」があった。
 それこそまさに――、その「内奥」に「洞穴」の如く、お姉ちゃんの「性器」が存在していることの「証明」であった。

「時間」にして、たった「数秒」。その間に僕は「それだけのこと」を思ったのだった。そして間もなく僕の「思考」は、まさしく「お姉ちゃん自身」によって「遮られる」ことになるのだった――。

「純君、起きたの?」

 お姉ちゃんは僕にそう訊ねる。僕が「そこに居た」ことに少なからず「驚き」はしたものの、「どうして?」とは訊かれなかったということはつまり――。お姉ちゃんは僕が「家に居る」ことについては、あくまで知っていたらしい。

「うん、さっき起きたところ…」

 別に「嘘」はついていない。目覚めたばかり、というのは「本当」だった。あくまで「ナニをした」ことを除けば――。

「てか、お姉ちゃんどうしたの?」

 今度は僕が「質問する番」だった。

――「どうして」家に居るの?
――バイトは「どうした」の?
――「どうして」シャワーを浴びていたの?

 そこには様々な「疑問」が「一つの問い」として含まれていた。

 僕に「訊かれた」お姉ちゃんは、分かりやすく「動揺」する。その「反応」がもはや「答え」を表わしているようなものだった。
「優秀」であるはずのお姉ちゃんの「弱点」、昔から「嘘が下手」なのだ。

「いや、なんか『汗』かいちゃって。昨日の夜、ちょっと『暑く』なかった?」

 ほら、やっぱり――。
「ジュースをこぼした」とでも言えば良かっただろうに。むしろここ数日「冷え込んで」きたというのに。お姉ちゃんの「嘘」には、あまりに「無理」があった。
 何か「別の真実」を「隠そう」としているのは「明らか」だった。そして「隠したい」ということはつまり――、

――もしかして、お姉ちゃんまた「お漏らし」しちゃったの?

 僕の口が、そんな風に動こうとした時。けれど「動き出す」のはお姉ちゃんの方がわずかに早かった。
 今さらになって、お姉ちゃんはようやく「それ」に気づいたらしく。ふいに「慌てた」ように、手で「パンツ」を隠そうとする。もはや「手遅れ」であるにも関わらず。
 あるいはその「格好」はまるで――、「我慢している」みたいだった。

「あっ、ごめん…!!」
「ごめんなさい…!!」

 僕たちは「同時」に謝った。やはり似た者「同士」なのだろうか。
 それにしても。「見た側」の僕は分かるとして、「見られた側」のお姉ちゃんまでもがどうして「謝る」のだろう。
 お姉ちゃんがどう思うかは別として。僕としてはむしろ「嬉しいハプニング」であるはずなのに。(いや、それをそう感じることが「姉弟」としては「間違い」なのだろう)

 みるみる内に「羞恥」の顔を「染めた」まま――、すかさずお姉ちゃんは僕の「横」をすり抜け、そのまま「歩き去って」しまう。「洗面所」に「一人」取り残された僕は、元々の「目的」を果たすことが出来ぬまま、ただ茫然と「立ち尽くす」しかなかった。

「今日は『パパ』と『ママ』、居ないみたいだね」

 再び、戻ってきたお姉ちゃんに声を掛けられた時、僕は顔を洗う「フリ」をしていた。「洗面所」に来たのだから、何かしら「目的」が無ければ「不自然」だろう。あるいは、僕が「覗こう」としていたことが「バレて」しまうかもしれない。

「うん。『結婚式』って言ってたよね」

 水を止めて、僕は答える。
――どうして、そんな「分かりきったこと」を訊くのだろう?
 昨日の夕食の時、お姉ちゃんだってその場に居て「聞いていた」はずだ。だが質問の「意図」はともかくとして――、顔を洗い終えた僕はそれ以上することもなく、仕方なく振り返ったのだった。

 お姉ちゃんは「寝巻用」の「ショートパンツ」を穿いていた。そのために一旦部屋に「戻った」らしい。(僕としては少し「残念」だったが、まあしょうがない)

「純君、今日は何するの?」

 お姉ちゃんに訊かれる。何の「変哲」もないその「質問」に――、けれど僕は無駄に「勘繰り」を覚えてしまう。

「べ、別に…!!『ゲーム』でもしようかなって…」

 僕としてはなるべく「平静」を装ったつもりだった。だがそれこそが「余計」だった。休日の「予定」など特に決めてはいなかった。だからそこは、いつもみたいに「別に…」と答えるだけで良かったのだ。にも関わらず、僕はお姉ちゃんのその「問い」に何かしらの「疑心」を感じ取ったのだった。(ある意味でそれは「正解」だったのだが…)

「そっか…。ちゃんと『勉強』もしなくちゃダメだよ?」

 お姉ちゃんは「ママ」みたいなことを言う。だけどその「口調」はあくまで優しく、「諭す」ような「物言い」だった。というよりもむしろ「心ここにあらず」という様子で、お姉ちゃんは「別の何か」を「言いたげ」だった。

「お姉ちゃんは、今日も『アルバイト』?」

 やはり「分かりきったこと」を僕は訊ねる。

「うん…、そうだよ」

 そう答えたお姉ちゃんは、やっぱり何かを「隠している」みたいで。あるいはそれを僕に「打ち明けよう」としているみたいにも思えた。
 だけど結局、その「真実(?)」がお姉ちゃんの口から告げられることはなく、お姉ちゃんの口元がそう「形を取る」ことはなく。あくまで「真相」は分からないまま、やがて「憑き物」が落ちたみたいに。やがてお姉ちゃんの顔からは、その「気配」がすっかり「消え失せて」いた――。

「早起きは三文の得」というのは、どうやら本当らしい。(別に「早起き」でもなかったし、そもそも「得」ではなく「徳」なのだと知ったのはかなり後になってからだった)
 お姉ちゃんは僕に「お小遣い」をくれた。「夕食代」とのことらしい。「帰り」が遅くなった時のために、すでにママからも「500円」を貰っていたから「断ろう」と思ったが、今時「小銭」だけではやや「頼りなく」。お姉ちゃんが何度も「いいから!」と言うので、貰っておくことにした。
 それに。お姉ちゃんから「お小遣いを貰う」のは、何だかとても「懐かしい」ような気がして――、僕はしばらくその「千円札」を大事に「取っておこう」と思った。

「ありがとう…」

 僕が「お礼」を言うと、お姉ちゃんは「満足」したらしく。

「じゃあ、お姉ちゃんは『準備』があるから――」

 と、自分の部屋に帰って行った。

 僕も一旦、自分の部屋に戻ることにした。未だ「ズボン」と「下着」は「濡れたまま」で、すっかり「冷えた感触」は落ち着かなく、とても気持ち悪かったが。それを「処理」するためには、お姉ちゃんが「家を出て行く」まで待たなければならなかった。
「射精」からまだあまり時間が経っていないにも関わらず、下着の中で「おちんちん」が「膨らんで」きているのが分かった。ついさっき見た「光景」によって、再び「燃料」を与えられ、「そこ」が確かに「熱」を帯びていくのが分かった。

「おちんちん」を「ズボン越し」に「弄ぶ」こと「数十分」。ようやくお姉ちゃんが家を出て行った。「玄関」から「物音」が聞こえ、僕は部屋のドアを「こっそり」と開けて、お姉ちゃんの「後ろ姿」を眺めていた。(何だか、お姉ちゃんがとても「遠い場所」に行ってしまうような気がした――)

 僕はすぐさま部屋を出て「洗面所」に向かう。「濡れた下着を洗う」前に、けれどまず「洗濯機の中」を漁り始める。「イケない」と思いつつも、僕はどうしてもその「誘惑」に打ち克つことが出来なかった。
 すっかり「慣れた手順」で、一番上にある「タオル」をめくり、その下にある「それ」を容易く探り当てる。

――本日のそれは「黒」だった。

 まだ少し「温かい」、紛れもないお姉ちゃんの「体温」の残った「それ」を「広げ」、「内側」を「確認」する。

――お姉ちゃん、ごめんなさい…。

「懺悔」しつつも、あくまで「これで最期」と誓う。
お姉ちゃんの「パンツの中身」、その「お尻」の部分には――、

「ばっちり」と「ウンスジ」が付いていた。

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