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クソクエの記事 (11)

おかず味噌 2021/10/31 19:30

クソクエ 地下闘技場編「盤外戦 ~聖騎士の汚パンツ装備~」(完成版)

 第一試合から、波瀾の幕開けとなった「地下闘技大会」。

 次々と猛者共が現れては敗れ、ついにヒルダの出番が訪れる。


――どんどん、参りましょう!スライ~ム・コ~ナ~!!

 司会の声に促され、若干緊張気味の彼女が登場する。

――今大会初出場。女戦士・ヒル~ダ~!!

 彼が呼ぶのとは異なるイントネーションながらも。高らかに告げられた「仲間の名」に彼自身の緊張も自ずと高まる。

 期待と願いを込めて手に汗握る「勇者」。彼がふと横を窺うと、隣にいる「女僧侶」もまた拳を握り締めているのだった。


 仲間の晴れ舞台を見守るアルテナの心境は、今まさに複雑なものとなっていた。

 あくまで「副賞」のためヒルダに「勝って欲しい」という気持ちと、彼女のみに手柄を独占させるわけにもいかず、あわよくば「負けて欲しい」という気持ちが葛藤していた。

 それでもやはり彼の手前もあって。とりあえずはアルテナとしても「応援」という形を取ることにしたのだった。


――ドラゴ~ン・コ~ナ~!!

 ヒルダに続いて登場したのは、銀の甲冑を身に着けた長身の美青年。

――王国直属兵士・ナル~シ~ス~!!

 眉目秀麗な顔立ちをした彼は。長い前髪を風に揺らして、涼し気な表情で客席に向けて手を振って見せる。

「キャ~!ナルシス様~!!」

 クールな彼に対して、熱い声援がそれに応える。いわゆる彼の「ファン」なのだろう、むさ苦しい観衆の一角だけが可憐に華やいでいた。


 予期せぬ「イケメン」の登場に、彼は妙な胸騒ぎを覚える。再び隣のアルテナを窺い、彼女もまた浮足立っていると思いきや。

――「白馬の王子様」といったところでしょうか?

(彼の立場はむしろ「王に仕える身」であるのだが…)

――「夜の営み」も、平々凡々でつまらないものなのでしょう。

 どこか達観した様子のアルテナに。勇者は安堵しつつも、同時に不安を抱くのだった。


――レディ…。

 早速、司会によって「開戦」が告げられようとしたところで。

「暫し待たれよ!」

 厳かな口調でナルシスは右手を突き出し、その先を制する。これも何かの戦略なのかとヒルダが訝しむ中。

「いかに『戦闘』とはいえ、レディ相手に『先手』を取るわけには参りません」

 この期に及んで、あくまで「紳士」たらんとする彼。

「『レディ』って、もしかしてアタシのことかい…?」

 あからさま「お世辞」に、頬を紅潮させる「女戦士」。慣れぬ扱いに戸惑いながらも、彼の「騎士道」にすっかり当てられてしまっている。

「『レディ・ファースト』です。どうぞ、お先に!」

 回りくどい言い方をしているものの、要は「先に攻撃して来い!」という意味らしい。つまりは、ヒルダを「ナメている」ということだ。


「あのナルシスとやら、もの凄く鼻につきますわね?」

「うん。出来ることなら、今すぐ僕が出て行って『ぶん殴りたい』くらいです…」

「聖職者」らしからぬ物言いのアルテナに対し、彼もまた同調する。


 沈黙の両者。会場の静寂を打ち破るように、客席から「冷やかし」が飛ぶ。

「そんなオーク女は放っておいて、私と『一戦交えて』くださいませ~!!」

 ファンの女性達は、どうやら彼と「一線越える」ことを望んでいるらしい。真剣勝負に水を差す愚言に、だがヒルダが引っ掛かったのは「別の部分」であるらしかった。

「へぇ~。誰が『オーク女』だって…?」

 瞬く間に女戦士の頬から「含羞」の色が消え去り、瞳に鋭い「眼光」が灯る。

「ヒルダさん、完全にキレちゃいましたね…」

「そのようですね。珍しく、彼女と気が合いそうです」

 ここにきて、パーティの「利害」は完全に一致する。
「あのイケ好かない『王子様気取り』に、目に物見せてやれ!」と。


――では、改めまして。レディ~・ファイト!!!

 ようやく宣戦は為されたものの、彼は宣誓通りその場から微動だにしない。それ自体は確かに見上げた志であったが、だがしかし…。

――ドゴッ!!ドッシャ~ン!!!

 即座に間合いを詰めたヒルダは、分厚い甲冑などお構いなしに「一撃」を放つ。彼女の「打撃」をモロに喰らったナルシスは遥か後方まで吹っ飛び、そのまま動かなくなった。

 再び、場内を静寂が満たす。そして…。


――しょ、勝者・ヒルダ~!!!

 やや遅ればせながら司会が結果を宣告する。そのあまりに「あっけない結末」に女達が一時の夢から醒め、冷めた表情を浮かべる中。

――ウォォォ~!!よくやったぞ、オーク姉ちゃん!!

 男共の低く地鳴りするような声が、ヒルダの「勝利」を讃える。

――ざまあみやがれ!!

 吐き捨てるような台詞は一行のみならず、およそ会場全体の「総意」なのであった。


 こうして。ヒルダの「初撃」にて「勝敗」は決したのだった。

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おかず味噌 2021/07/30 16:00

クソクエ 地下闘技場編「前哨戦 ~武道家娘の道着脱糞~」

 煌々としたライトが「六角形」を照らし出す。

――レディ~ス・エン・ジェントルメ~ン!!!

 紳士淑女を表わす言葉はけれど、戦場に集う猛者共には似つかわしくない。

 ここは、ライズィン町の地下闘技場。

 生物の根源的な本能である暴力を糧とし。富と名声、それら人間の醜い本性を浮き彫りにさせる娯楽はやはり「平和の使者」には相応しくない。

 にも関わらず。魔王討伐を旅の目的とする「勇者一行」が、なぜこのような魔窟に迷い込んでしまったのかといえば――。


 時を遡ること、数日前。

「フンッ!!ンウゥ~~!!!」

 ヒルダが雄叫びにも似た気張り声を上げる。獣じみた咆哮に伴って、彼女の肉体に力が込められる。

 上腕筋、大腿筋、腹筋や広背筋に至るまで。まさに全霊をもって目前の試練に挑むが如く、全身の筋肉に指令が送られる。(括約筋にも余すところなく)

「やっぱり、ビクともしないね…」

 珍しく、諦めを口にするヒルダ。何もそれは彼女の個人的な事情によるものではなく。あくまでパーティにおける共通の実情としてであった。

 石扉から手を離し、ヒルダは暫し呼吸を整える。思いがけず膂力を発揮したことと、ただでさえ蒸し暑い気候も相まって、彼女は激しく発汗している。

 湿気で貼り付く衣服に、さらにヒルダの肌から滲み出した汗が混じり合うことで。彼女の下穿きの中は現在どうしようもなく「ムレムレ」になっている。

――早く、風呂に入りてぇ!!

 沐浴を好むわけではなく、普段はむしろ面倒に思うヒルダとしてもさすがに。「穢れた体を清めたい」と願うも、だが町から遠く離れた遺跡においてはその願望もすぐには叶えられそうになかった。

 ヒルダは全力を込めたものの。別にそれは形振り構わず、力を暴走させたのではない。きちんと「閉める」べきところは「引き締めて」いた。

 それでも。わずかに下穿きの中を濡らす感触にヒルダははっとさせられる。やや冷たく生温かいような、汗とは明らかに違う液体。またしても彼女は。

――今ので、ちょっと「チビっちまった」よ…。

 勢い余ることで、意図せず「尿意」を解放してしまったのである。股布に擦れるそこに微かな火照りを覚える。

「紺色の布」の外側からは窺い知れないだろうが。もはや内側に「シミ」が描かれているであろうことは紛れもない。そんな己の失態に対し、彼女は。

――こりゃ、今夜の「成果」がますます楽しみだね~!!

 終日穿き続けた「汚れ物」にまた一つ「汚物の跡」が刻み付けられたことに。だがヒルダは落胆することはなく、楽観的にそれを愉しむのであった。

「ヒルダさんでもダメなら、もう…」

 最後の頼みの綱が断たれたことに、失望を隠せない様子の勇者。重い溜息をつき、項垂れる彼の横顔を見て、ヒルダは。

――すまないね、勇者サマ。アタシが不甲斐ないばっかりに…。

 心中で詫びる。あるいは謝罪の言葉を口に出しても良さそうなものであったが(彼は「ヒルダさんのせいじゃないですよ」と恐縮するに決まっている)、彼女としてはそこに別の意味での「至らなさ」も含まれているのであった。

「ワタクシが代わりましょう」

 後方から発せられた声の主はアルテナだった。「力仕事」とはおよそ無縁である彼女。

「ケッ!アタシで無理なのに、アンタに出来るとは到底思えないけどね!」

 吐き捨てるように言うヒルダ。皮肉の籠った助言を聞き入れることなく。

「ただ闇雲に『攻める』だけでは、開くものも拓きませんよ?」

――こうする、のです!

 アルテナは門扉に手を添える。

――あら、何て「硬く」て「立派」な…。

 なぜかその口調には、妙ないやらしさを覚える。

――まるで「石」みたいに「ガチガチ」ですわ…。

 当たり前だ。まさしく石なのだから。

――ここは、こんな風になっているのですね…。

「くぼみ」を指でなぞる。淫靡な手つきに彼は顔を紅潮させ、下を俯いている。

「オイ!ふざけるのも、いい加減に――」

 ついに耐え兼ねて、ヒルダが口を挟もうとしたところで。

「解りました!」

「了承」ではなく「解決」を意味する言葉を、アルテナは発するのだった。


 その後のパーティの会話は、およそ以下のようなものであった。

「この『穴』に、『玉』のようなものを『嵌める』のです!」

「はい。『棒』ではなく『玉』の方です」

「そうすれば『割れ目』が魔力で満たされ、パックリと『口』を開けるはずです」

 いちいち引っ掛かるような物言いのアルテナに対し、ヒルダは黙り込んだままだった。

「なるほど!でも、その『玉』はどこにあるんですかね?」

 感心したように目を輝かせ、彼は「宝玉」の行方を問う。

「あら。勇者様はすでに『二つ』お持ちじゃありませんか」

 さも分かりきったことを訊ねられたかの如く、首を傾げて見せるアルテナ。

「僕が…?」

 予想もしなかった回答を受けて、彼もまた首を傾げる

「まあまあ。冗談はさておき…」

 掌を合わせ、ひと度アルテナは神妙な面持ちとなる。

「ど、どっちにしろ、一旦引き返すしか無さそうだね!」

 そこでなぜか慌てたように、ヒルダは話を纏めようとするのだった。


「これで、また『フリダシ』かよ…」

 徒労を宣う女戦士に対し、勇者は――。

「そんなことないよ!手掛かりが見つかっただけでも、大きな前進だよ!」

 あくまでも前向きに述べる。そんな彼の勇猛さに当てられることで、ヒルダは再び股間が「別の液体」で湿るのを感じた。

「とりあえず、ここにピッタリの『タマ』を探すところからですね!」

 彼はアルテナに微笑みかける。そこに邪気はなく、どこまでも仲間を信頼しているというように。

「まあ、あくまで可能性の一つという意味なのですが…」

 だがしかし。己の意見が採用されたにも関わらず、女僧侶はどこか浮かない顔だった。


 最寄りの町へと戻った一行は、早速聞き込みを開始する。

 その結果。ライズィン町で近日開催される「地下闘技大会」の優勝の副賞として、「二対の宝玉」が与えられることを突き止めたのであった。

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おかず味噌 2021/05/16 16:00

クソクエ 勇者編「黄昏の証明 ~女僧侶の着衣脱糞観察~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/404020

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380



――ヒルダさんの「お尻」から生み出されたモノ。

 地面にしゃがみ込み、下穿きを脱ぎ、「割れ目」を剥き出しにして、

――ヒルダさんの「お尻」から産み落とされたモノ。

 紛れもないそれは、「うんち」だった。


 これまでの彼の人生において、「悪意」と呼べるものとはおよそ無縁であった。
 いや、そうした感情の標的になったことが全くないといえば、やはり嘘になるだろう。村での日々において、彼はよく同年代達から嘲りや揶揄いの対象にされてきたのだった。
 だがそれも、彼にとっては己の愚鈍さや臆病さにこそ原因があり。あくまで自分が他人より劣っているからこその、いわば当然の「報い」なのだと信じて疑わなかった。
 それ故に、彼はまさか自らが悪意を抱くことなど微塵も考えたことはなく。ましてや、自ら悪意をもって他者を貶めようなどとは夢にも思わなかったのである。

 あるいは悪意とはいかずとも、単にそれは「悪戯心」と呼ぶことだって出来るだろう。だけどやはり、そんな「出来心」さえも彼の中には未だかつて存在せず――。
 そうした彼の純粋さこそがひいては聖剣に選ばれる理由となり、神にさえも認められ、勇者たりえる「しるし」となり得たのかもしれない。

 だがしかし。何処からか訪れた「暗雲」が、瞬く間に「日輪」を隠してしまうように。ここ最近、彼の精神性においてもやや「翳り」が窺えつつあるのだった。
 かつて「黎明」と共に誓ったはずの彼の崇高なる意志は、やがて「逢魔が時」を迎えることとなる。それもやはり、彼女たちの尻から出づる「黄昏」によって――。


「申し訳ありません。私事なのですが…、出立を少々お待ち頂けませんでしょうか?」

 アルテナな控え目な口調で、あくまで慇懃に言う。

「えっ?あ、はい…大丈夫ですけど」

 まさに、いよいよこれから「冒険に出る」という時に。彼女の口からもたらされたその申し出は見事に出鼻をくじくものであったが、それでも彼は了承する。

「すぐに済みますので…」

 そう言い残して、女僧侶は早々にその場から立ち去ろうとする。

「なんだ、『便所』かい?」

 あえて間接的に言ったアルテナの気も知らず、ヒルダが直接的に訊ねる。

「ハァ!?いえ、その…(はい)」

 女戦士の、そのあまりに不躾な物言いに苛立ちを見せつつも。そこは彼の手前もあってかろうじて平静を保ちつつ、ついにアルテナは白状したのだった。

 そして。間もなく「トイレ」へと向かう彼女の後ろ姿を眺めて、彼は。

――「おしっこ」かな?それとも…。

 またしてもつい、あらぬ想像を抱いてしまうのだった。

 とはいえ、その「大小」を確かめる術は彼にはない。野外で行う場合とは異なり、個室で行われる秘事において、その行為を盗み見ることは叶わず。あくまでそれを阻むものは薄い扉と、そこに掛けられた簡易な錠前のみではあるものの。「盗賊のカギ」はおろか「最後のカギ」を用いてもなお、解錠することは出来ず。仮に開錠したとしても、もはやそれを知られてしまったら何の意味もなく、やはり状況の打開とはなり得ないのである。

 ふと、彼は手元に重みを感じた。アルテナが「用便」に向かう際、元はヒルダに預けていった荷物だった。さほどの重量ではなかったものの、パーティの生命を預かるべく重責からだろうか、それは見た目以上に重荷に感じられるのだった。

 アルテナが直接、それを彼に手渡すことはなかった。普段から何かと、事あるごとに彼に頼ろうとすることで。彼と触れ合う機会をなるべく多く持とうと、口実を打算する彼女であったが――。そこはやはり「乙女の矜持」として、さすがに自らの「排泄」のために彼を利用することは憚られたのだろう。

 だが、それにしても。アルテナは「意図」して、彼に対して気を遣っている節がある。
 単にそれは「厚意」によるものか、あるいは彼だけに向けられた「好意」のためか。(とはいえ「意中の人」である彼自身は、あくまで「意識」さえしていなかったものの)果たしてその「真意」は分からずとも、紛れもなく「善意」から生じるであろう感情に。だが彼は決して「得意」になることはなく、自らの「誠意」を示すこともままならずに、ただただ「敬意」をもって返すのみであった。

「アタシも行っとこうかな…」

 ヒルダもまた欲求を口にする。受け取った「道具袋」をそのまま彼にパスすると、彼女はなぜかアルテナとは「別方向」に向かうのだった。

「あれ?一番近い『トイレ』はそっちじゃないのに…」

 彼は女戦士の行動を疑問に思いはしたものの。後になってからよくよく考えてみると、その理由に行き当たる。
 彼にとって二人がかえがえのない仲間であるように、やはり彼女たちにとってもそれは間違いなく。だが同時に両者が互いを「ライバル」だと認識していることは、彼の目から見ても明らかだった。
 だからこそ自らが「踏ん張る」様子を(いかに壁で隔てられているとはいえ)その気配すらも悟られたくはなく、ましてや「排泄音」を聞かれることに抵抗を覚えたのだろう。

 二人に置いてけぼりにされ、一人きりとなった彼は他にやることもなく、皮袋に視線を落とす。紐できつく結ばれた口を開くと、わずかながらも暗闇が窺えた。
 彼は深淵に手を伸ばし――、本来パーティの「共有物」であるはずのそれに、あるいはどちらかの「私物」が紛れ込んでいないかと、漁り始めるのだった。

 目的の「宝具」こそ見つからなかったものの。やがて彼はある「道具」を探り当てる。さらに小袋に入れられたそれを丸ごと取り出し、中身を改める。

「回復薬」にはそれほど詳しくない彼であったが、それでも。その「丸薬」については、入手した経緯を含めて、その「用法」を記憶していた。それは――、

「即効性の下剤」であった。

 服用したならば、たちまち「排泄欲求」を高めるもの。
 紛れもない薬であるはずのそれ。「便通」を促し、体内の毒物もろとも体外に排出することで、解毒するためのもの。
 にも関わらず。今の彼はどうしたって、その「効能」ばかりに目を向けてしまう。

――これを、二人に飲ませれば…。

 勇者は再び妄想してしまう。彼女たちの「その姿」を。
 とはいえ、まさか面と向かって「飲んで!」などと言えるはずもない。何のために?「便秘」であるとか、毒を浴びた状態であるとか。そういった事情が無ければ、これ自体もまた「毒」であることに違いないのである。だけど、もしも――、

――気づかれることなく、二人にこれを飲ませることが出来たなら…。

 勇者は思い浮かべる。彼女たちの「痴態」を。
 予期せぬ「便意」とその解消。果たしてそれは屋内にて行われるのだろうか?あるいはいつかの彼女のように野外でだろうか?きちんと下穿きを脱いだ上でされるのだろうか?それとも、穿いたままでか?

 今一度、周囲を確かめつつ、彼は「丸薬」に手に取る。
 かつて浴室にて、ヒルダの下穿きへと手を伸ばした時と同様に。緊張とも恐怖とも取れない、得体の知れない何かが背筋を這い上がるのを感じた。
 そして。三つある内の一つを掴み取ると、彼はそれを自らのズボンのポケットに仕舞い込んだのだった。

「道具袋」の中にあるものは全て、いわばパーティの「共有財産」である。ということはつまり、彼自身の「所有物」でもあるのだ。あくまで「持ち物」の保管場所を移動させるというだけのその行為に。だが仲間の目を盗んで行われる秘事に。
「勇者」であるはずの彼は、まるで自らが「盗人」にでもなったかのような背徳感を抱くのだった。

 悪意とは何も他者に不利益を被らせようと抱く感情のみを指してそう呼ぶのではない。自己の利益のため他者を蔑ろにする行為もまた、やはり悪意に他ならないのである。

 とはいえ。彼のそれは、ほんの一瞬「魔が差した」だけのもの。そこに計画性はなく、現段階では未遂とさえいえないだけのもの。だがそれでも。
 欲望のみによって発露し、願望を果たすべく為された行動。自己の裏に潜む影の如く「エゴ」はまさしく――、

 これまで「日向」の道を歩いてきた彼が、唐突に出会った「日陰」の感情であり。
 彼が生まれて初めて抱くことになる、紛れもない「悪意」なのだった。

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おかず味噌 2021/03/14 16:00

クソクエ 勇者編「排泄の黎明 ~女戦士の野外脱糞目撃~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/408090

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


 勇者が故郷の「救援」へと駆けつけ、村人からの「歓迎」を受けることとなった翌日。彼はもう一日だけそこに留まり、微力ながらも「村の復興」を手伝うことにした。

 まずは、村中に打ち捨てられた「ゴブリンの死体」を片づけるところから始める――。
 彼自身の手で倒した数体をナナリーの部屋から運び出し「広場」に並べる。最も多くの亡骸が置き去りにされていたのも、そこだった。数十体にも及ぶゴブリン達が、ある者は切り刻まれ、ある者は魔術によって爆散されているのだった。
 恐らく、あの「女魔法戦士」の仕業だろう。これほどの多勢に囲まれながらも、けれど決して怯むことなく。魔物を一網打尽にしたのであろう彼女の「仕事ぶり」は、まさしく「上級職」に相応しいものだった。
 自分もそんな風に強くなれるだろうか?冒険者としての「先輩」に憧れを抱きつつも。やがては自らもそこに至りたいと、確かな「決意」を彼は新たにするのだった。

 集めた屍に火を放ち、それらが葬られる様をしばらく眺めた後。次に彼はゴブリン達によって無残にも破壊された「家屋の修繕」に取り掛かった。
 とはいえ、それは「短日」にして成るものではなく。あくまで膨大な作業量における、ほんの「一助」に過ぎないものではあったが。それでも村人は、相変わらず非力ながらも「村の一員」として復興を手伝う彼に感謝するのだった。
 村の「風景」は未だに変わり果ててはいるものの。そこにはわずかずつだが「日常」が戻りつつあり、村人の表情もいくらか活気づき始めた――、その日の夜。

 決して盛大とはいかず、簡素的ではありながらも「祝宴」が催された。それはもちろん「勇者の帰郷」を祝うものだった。

 村人は今となっては貴重な「食糧」を持ち寄り、彼のためにそのような場を設けてくれた。これまで彼らに見向きもされず、どちらかといえば「隅っこ」の方で膝を抱えるばかりだった彼も――、今宵は主賓席に座り、まさに「人々の中心」に居るのだった。
 誰もがこぞって彼の「英雄譚」を聞きたいとせがみ、未だ「駆け出し」である勇者はそれにやや辟易させられながらも。故郷で過ごす久方ぶりのひと時に、やはり「懐かしさ」と「幸福さ」を噛み締めていた。
 宴会の最中、彼の傍らには終始「ナナリー」の姿があった。村人が彼のことを「勇者」としてもてなす中、けれど彼女だけが今までと変わらぬ態度で接してくれた。
 此度の働きによって、少しはナナリーも自分を「見直してくれたかも」と思っていた彼は、そんな彼女の「変化のなさ」をやや残念に感じつつも。あくまで変わることのない「二人の関係性」に、どこか遠く記憶の彼方に「置き去り」にされたと思われていた日々を取り戻すのだった。

 ナナリーの捲れ上がった「スカート」の内側から、露わにされた「下穿き」から、溢れ出した「液体」。その「光景」は彼の網膜に焼き付き、決して消えることはなかった。
 ナナリーが「粗相」をしてしまったという事実は彼の脳裏に刻み付けられ、やがて胸の奥に微かな「キズ」となって半ば永久的に残り続けることとなった。
 今はあえて気丈に、どこか強気に振舞っている彼女の晒した「醜態」。そのあまりの「ギャップ」に対して、果たしてそれをどのように扱っていいのかも分からず。同時に彼女の見せた「羞恥」に満ちた表情を思い浮かべるだけで――、彼の「股間」に携えられた「聖剣」は何やら熱を帯び、得体の知らない力が込められるのだった。
 今も隣に居る彼女に。自らの内から湧き上がる「変化」を、その「衝動」を悟られることを怖れた彼は――、いつも以上に「いつも通り」に振舞おうとすればするほど、かえってぎこちなくなってしまうのだった。

 宴会は「夜更け」まで続けられ、一人また一人と村人が「帰宅」もしくは「寝落ち」していく中。けれど幾人かの酒好きとナナリーだけはいつまでも勇者を取り囲み、あくまで彼を寝かしてくれるつもりはないようだった。
 町では決して眺めることの叶わない「無数の星々」に夜空が彩られ、昼の光を浴びた「衛星」が沈むのに合わせて、それらはやがて「疎ら」になってゆく。人々の歓声も次第に消えてゆき、ついにはナナリーの瞼も少しずつ重くなり始め、

 そして「夜」が明けた――。

「未明」に、彼は村を発つことにした。
 あるいはこのまま一眠りし、昼過ぎに起きることで、改めて村人からの激励と共に送り出されることは容易であったが。彼はそれを何だか気恥ずかしく思い遠慮したのだった。
 人々がすっかり寝静まる中、皆を起こさないように音をさせずに立ち上がる。彼が最も気を遣わなければならなかったのは、やはり「ナナリー」だった。
 いつの間にか眠りこけていた彼女は彼の肩にもたれ掛かり、その「寝顔」は幸福そうな夢を見ているみたいだった。あくまで慎重に肩に乗った頭を動かすと、彼女は「うわ言」のように「彼の名」を呟いた。

「〇〇、ダメだよ…。そんなことしちゃ…」

 まるで彼の人知れぬ「出奔」を咎めるようなその言葉に。あるいは「悩ましげ」なその声に。彼は一瞬逡巡しそうになりながらも、何とか「迷い」を断ち切るのだった。
「別れの挨拶」とばかりに――、彼はやはり悩み迷いながらもナナリーにそっと「キス」をした。彼女の柔らかい唇の感触。自らの唇に残ったその「余韻」に頬を紅潮させながら、彼は再び「勇者としての日々」に戻っていくのだった。

「もう行くのか?」

 ふと「低い声」に呼び止められる。彼は思わず萎縮しつつも、声のした方を見ると――、そこには村長の「カルロスさん」の姿があった。
 暗闇の中で、彼の「鋭い眼光」だけが輝いている。それを窺い知るや否や、勇者はより一層「狼狽」してしまうのだった。
 彼は村長であると同時に、ナナリーの「父親」でもあるのだ。その「娘」に対して勇者の犯したあらぬ「狼藉」を、あるいは見られてしまったのではあるまいか?
 厳しい「叱責」を浴びせられることを怖れた勇者は身構える。だが彼の予想に反して、その声はあくまで穏やかなままだった。

「君にはこれから『世界を救う』という『使命』がある」

 彼は勇者のことをあえて「君」と呼称した。あくまでも「村の一員」として扱うつもりだというように。

「それは君にしか出来ないことだ」

 勇者は「決意」を込めて頷く。

「だがもしも、世界に『平和』が訪れたのなら――」

 彼は村人はおろか、未だかつて世界の誰もが口にすることのなかった勇者の「その後」について言及する。

「その時はどうか、この村に帰って来て欲しい」

 それはやはり「村長」としての言葉なのだろうか。それとも――。

「そして、娘のことを『幸せ』にしてやってもらえないだろうか?」

 どこか言いづらそうにしながらも、はっきりと「願望」を口にする。

「これは村長としてではなく。私一個人として、『父親』としての『依頼』だ」

 厳格な彼にしては珍しく、冗談めかしてそう言うのだった。

「『アレ』はどうも勝気というか、男勝りというか――、危なっかしいところがある」

 照れたような表情が、声からも伝わってきた。娘のことを「指示語」でそう呼んだことからもそれは窺える。

「だから、どうか君が『守って』やってほしい…」

 あくまで「勇者」としてではなく「幼馴染」として、彼は恐縮しつつも頷いた。
 そうして、彼にはまたしても「無二の肩書」が刻まれることとなった。ギルドの名簿に載ることのないその「称号」は――、「ナナリーの婚約者」と。


 すっかり「陽」が昇りきった頃になって、ようやく「町」へと辿り着いた勇者。
 いかに「依頼」のためであるとはいえ。村一つを、多くの人命を救ったその「働き」は紛うことなきものであり。にも関わらず、そんな彼の「凱旋」はあまりに「ひっそり」としたものだった。
 本来ならば、今回の彼の「功績」は「パーティ」(「即席」ではありつつも…)によってこそもたらせられたものであり。故にその「凱旋」もまた、「仲間たち」と共にあってこそ然るべきなのだったが――。

 村人の「無事」を見届け、「感動の再会」を果たしたその直後。
 勇者はその存在を半ば忘却し、すっかり「置き去り」にしてしまっていた「パーティ」と合流した。

「すまないが…、俺たちは一足先に町に帰らせてもらうことにするよ」

 その「提案」は、まさかの「サンソン」の口から発せられたのだった。
 これまで何かと勇者のことを気に掛けてくれて。今はまだ「名」ばかりの――、彼らのような「熟練者」に比べれば、ほんの「駆け出し」に過ぎない勇者を。決して侮るわけでも蔑ろにするでもなく。あくまで「平等」に「仲間」として扱ってくれていた、他ならぬ彼自身からのその申し出に、

「えっ!?あ、はい…」

 勇者はやや戸惑いながらも、了承するしかなかった。

 サンソンの傍らには「ナディア」の姿があった。遡ること、つい数刻前――。
 散々「悪態」をつきつつも、共に村を目指していた頃と「今の彼女」とでは、もはや「別人」とさえ思えるほどに纏う「雰囲気」が異なっていた。
「女魔法戦士」はサンソンに肩を貸され、その腕に支えられることでかろうじて立ててはいるものの――、今にも倒れそうなほど、ひどく「憔悴」している様子だった。

 激しい戦闘によって、「魔力」を「消耗」したのだろうか?
 周囲には、無数ともいえるほどの「戦果」が転がっている。思えば――、ほんの些細な「諍い」の末、一足先に村へと辿り着いたのは彼女なのだった。
 勇者はてっきり「パーティ」とは形ばかりの「馴れ合い」に我慢がいかず、彼女が逃げたものとばかり思っていた。だが、そんな考えが一瞬でも脳裏を掠めてしまったことすら不敬に感じられるほど、彼女は律儀にも自らの「仕事」を全うしていたのである。

 もし、彼女が居なかったら――。此度の「戦況」は、村民の置かれた「状況」は、あるいは今とは違うものになっていたかもしれない。そして彼が最も恐れ、だが強引にも覚悟を迫られることとなった、「犠牲者」だって出ていたかもしれないのだ。

 そういった意味では、やはり彼は(彼女の仕事に臨む「姿勢」がどうであれ)あくまでその「働き」については感謝すべきであったし。実際、今まさに彼はそれを言葉にしようと、声を発し掛けたところだった。

 だが。彼女のあまりの「変貌ぶり」に、彼は思わず口をつぐんでしまう。
「雰囲気」のみならず、むしろより「視覚的」に。彼女の「身に纏う」もの――、かつて「清廉」に「洗練」されていた「衣服」は、すっかり変わり果ててしまっており。それは今や「ボロ布」のように所々に穴が開き、あるいは「薄汚れて」いるのだった。

「どうして、『この私』がこんな目に…!!」

 彼女はまたしても「悪態」をつく。だがそれは、これまでのような「軽口」では決してなく。より深い場所から届けられる、「呪詛」の如く重たい響きを醸していた。
 その瞳に灯された、いつかの「鋭い眼光」もまた影を潜め――、彼女の「視線」は勇者を捉えることもなく、もはや何にも向けられてはいないようだった。
 どこか翳りのある「表情」。彼はそんな彼女の「横顔」と相対し、とてもじゃないが「礼」を言えるような雰囲気ではなかった。

 ふと。「異臭」が勇者の鼻に漂ってきた。それは紛れもなく「女魔法戦士」の方向からもたらせられる「芳香」。
 ゴブリンの「返り血」を浴びたことによるものなのだろうか。あるいは、何かしらの「魔物の体液」だろうか。それにしてはどこか「懐かしい」感じのする香りに、予期せず彼は「村での日々」を思い出す。

「農村」においては、ごく頻繁に嗅ぐこととなる「臭い」。
 やはり「悪臭」であることに違いはないものの――、「家畜」のそれは「肥料」として「作物の成長」にも役立てられる。
 ナディアから放たれる「ニオイ」、それはまるで「肥溜め」のような――。

 彼女から「数歩」離れた場所にいる勇者にさえ届くのである。ましてや、すぐ隣に居るサンソンが気づかぬはずはない。だが、彼はそれについて言及することなく、

「皆とも話し合ったんだが――」

 後方の「仲間たち」を一瞥し、

「今回の『報酬』について、俺たちは辞退させてもらうことにするよ」

 落ち着き払った様子で、きっぱりとそう言った。勇者はそれを聞き、けれど少しも意外に思うことはなかった。むしろ、当然とばかりに納得するのだった。

 今回の「クエスト」における「報酬」について。彼は「依頼書」によってではなく、ナナリーから伝え聞かされたことでその「内容」を知った。
 それを知っているからこそ、彼は「赤面」してしまう。いくら自分のことではないとはいえ――、「同郷」の村人、それもあろうことか「身内」による「醜聞」に。彼は思わず「羞恥」を感じずにはいられなかった。

 そのあまりに児戯じみた「報酬内容」について。彼は「仲間」に詫びようと思った。あるいは「村民」に代わって、自分がその「対価」を支払おうとさえ考えていた。だが彼が意思を告げようとする、その前に――、

「まあ、報酬が『アレ』じゃあねぇ…」

 それまで黙り込んでいた後方の「賢者」があからさまに侮蔑し、見下したように口元を歪めたのだった。

――どうして、そんなにも「馬鹿」にされなければいけないのか…?

 現に彼自身もそう思ったように、「報酬」とは本来「金銭」であって然るべきなのだ。だがそれにしたって、村で獲れた「作物」は町において「商品」として普通に「売買」されるものであるし。であるならば、それは「金品」と呼んだって差し支えないだろう。
 それに。何よりそれは「直接的」に、お腹を満たすことの出来るものなのだ。いかに「高価」であろうとも「硬貨」でお腹は膨れない。つまりは「間接的」な「価値」を有しているに過ぎないのである。

 にも関わらず。その「報酬」は彼らにとって、やはり「無価値」なものなのだろうか。
 もはや議論の余地さえなく(サンソンはそう言ったものの、彼らの間で報酬を受け取るか否かについて、真剣な「話し合い」がなされたとは到底思えなかった)、あっさりと「拒否」してしまえるほど。さらには、そこに何らかの「皮肉」を付け加えなければ気が済まないと思わせるほどに――。

 彼は「頬」のみならず、「全身」に熱が灯るのを感じた。あくまで自分に対するものではなく、「大切な人たち」に向けられたその「嘲り」に。「羞恥」よりもむしろ「怒り」がこみ上げてくるのだった。
 勇者は何か言い返そうと、「反論」を試みようとした。だがそれも、やはりサンソンの「反応」に先を越されてしまう。彼は睨みつけるようにして仲間を「制止」した後、

「確かに。今回の報酬は、あまりに『莫大』なものだ」

「定量的」に述べつつも、そこに「定性的」な「価値」を見出すのだった。

「だからこそ、君が受け取るにこそ相応しい!!」

 彼は言った。あるいはその言葉自体、紛れもない「方便」であり。勇者や依頼者に対する、彼なりの「気遣い」でもあったのだろうが――。
 兎にも角にも。彼は最後の最期まで他者に向けての「配慮」を欠かすことなく、その「姿勢」を崩すことはなかった。

 と、そこまで言い終えたところで。サンソンは「隣の同胞」を気遣いながらも体の向きを反転させ、勇者に「背」を向けて立ち去るのだった。
 その颯爽たる彼の「後ろ姿」に比して――。肩に腕を回され、まるで「引きずられる」ようにして歩くナディア。その「背中」は、やはり幾分か「小さく」感じられた。彼女の「マント」は下半分ほどが無残にも引き千切られており、「白いブラウス」はすっかり「土埃」にまみれていて、そして――。

 辺りはすでに「昏い」ものの、彼女の「スカート」に盛大に浮かび上がった「染み」を勇者は決して見逃さなかった。

 あたかも濡れた地面に「尻もち」をついてしまったかのような、「臀部」を中心にして広がるその「痕跡」。彼女はそこを手で「隠そう」としているものの、だがその全てを「覆う」ことは出来ずに半ば諦め掛けているのだった。
 その「仕草」と、あくまで衣服の「形状」は違えど、同じく描き出された「紋様」に。ふいに勇者は、強い「既視感」を覚えるのであった。

 ナナリーの晒した「醜態」。「恐怖」のため、「理性」を「本能」が上回ってしまったことによる「痴態」。それについては致し方ないだろう。何しろ彼女は「村娘」であり、ついこの間まで「戦い」とは無縁の日々を送っていたのだから――。
 だが、ナディアに関しては違う。彼女にとっては、まさにそれこそが「本業」であり。「戦い」こそが「日常」なのだから――。
 あるいは「死」に対する「恐怖」が全くないかといえば、さすがにそんなことはないだろうが。まさか「彼女に限って」、そのような「失態」を○すとは考えられなかった。

 だからこそ、ふいに浮かんだあり得ぬ「発想」を勇者はすぐさま打ち消した。そして、代わりに勇者はまたしても「想像」する。彼が実際に目にした、ナナリーの「粗相」を。

「さてさて、我々もそろそろ――」

「賢者」が声を発したことで、「回想」は打ち切られる。彼は「半笑い」を浮かべつつ、「目配せ」をした。それは、とても「嫌な感じ」のする「笑み」だった。

「ナディア様の『雄姿』を皆に周知する、という『重大な使命』がありますので!」

 あえて「大仰」に言う賢者。その畏まった「物言い」に、それまで「無反応」だった「モブ達」さえもついに堪えきれず笑い出してしまう。
 周囲を憚ることなく、鳴り響く「嘲笑」。その「罵声」は、あるいはナディアの耳にも届いていたのかもしれないが。それでも、彼女が振り返ることは決してなかった。

 ナディアの「うんちお漏らし」。
 彼女にとって、耐え難き「羞恥」でありながらも。あくまでも「仲間内」のみ、その「下穿きの内」だけで収められるべき「秘密」を「吹聴」して回ったのは――、他ならぬ「彼ら」なのだった。
 あるいは「女魔法戦士」に相手にされなかったことに対する「当てつけ」か、はたまた他者を蹴落とすことで成り上がろうとする彼らの「卑しい性分」か。
 いずれにせよ「ゴブリン如き」に恐れおののき、あろうことか「糞尿」までもまき散らしてしまった彼女に対して。「劣情」を主成分とした彼らの「憧憬」は、もはや見る影もなく失われていたのだった。

 もし仮に、勇者の耳にもそのような「噂」が届いていたとしたら――。それも全ては「自分のせい」だと彼女に対する「申し訳なさ」と、いくらか「同情」を禁じ得なかったであろうが。(それもまた彼にとっては「目覚め」の契機となり得たかもしれないが…)
 その後、すぐに町を後にすることになる彼は知るべくもなかった。

 何はともあれ、サンソンの「号令」をもって「急造パーティ」は「現地解散」となり。またしても「一人きり」となった勇者は町へと帰還し、その足で「ギルド」に向かったのだった――。


「おはようございます、勇者様」

 すでに「昼前」だというのに、未だ人の疎らな「ギルド」において。
 やはり真っ先に声を掛けてきたのは、あの「エルフ」だった。今回のクエストの受注にあたって自ら「便宜」を図ったというのに。パーティ招集のため、あれほど「尽力」したというのにも関わらず。けれど彼女はあくまで、それについては何も言って来なかった。ただ、普段通りの「挨拶」を彼に向けてくるのだった。

 早速、彼は「報告」する。依頼を「達成」したこと、村の皆が「無事」であったこと、数匹のゴブリンを彼の手で「打倒」したこと。それらを出来るだけ「簡潔」にまとめようと心掛けてはいたものの、それなりに「饒舌」になってしまうことは否めなかった。

「お疲れ様でございました」

「全て」を聞き届け、それでも尚彼女は冷静なまま「定型句」を述べるのだった。
 その表情こそ紛れもない「笑顔」ではあるものの、それは「建前」として他の冒険者に向けられるのと「同じもの」であり。あくまでギルドの受付として、彼女に「標準装備」されているものに違いなかった。

「では早速、『報酬受け渡し』の手続きに移らせて頂きます」

「業務的」にそう言い終えると。彼女は手元にあった「帳簿」を、ページを捲ることなく「一発」で開き当て、それを彼に向けて差し出したのだった。

「こちらに『サイン』をお願い致します」

 彼女は指で箇所を示しながら、やはり起伏なく言う。「羽ペン」を受け取りつつ、彼女に言われるまま「署名」を終えながらも――、彼は何だか「拍子抜け」するような、妙に「がっかり」したような気がするのだった。

 別に「褒めて」欲しかったわけではない。「認めて」貰いたかったというのとも違う。彼が今回受けた「依頼」というのは、あくまで「低級」のものであり。「志願者」が現れなかったのも、その「報酬の低さ」こそが理由であり。決して「誰にも成し得なかった」という類のものではなく、むしろ「駆け出し」であっても丁度いいくらいの「低難易度」に過ぎないのだった。
 何しろ相手は「ゴブリン」なのだ。「低級の魔物」、「冒険者」がまず最初に「狩る」に相応しい「敵」であり。あるいはその「経験」を経ることによって、初めて「半人前」だとかろうじて認められるくらいの、いわば「試金石」なのである。
 たとえそれが「軍勢」であろうとも――、いくらか「難易度」の「加算」は認められるものの、やはりそれは「低級の範囲」に充分収まるだけのものなのだった。

「エルフ」は彼のことを「心配」すらしていないようだった。紛れもない「彼の故郷」が「戦火」に見舞われたというのに。いかに「低級」であろうと、まさに「魔物」と戦ってきたというのに。彼女は勇者の「生還」を祝うどころか、体中に受けた「名誉の負傷」を眺めても尚、彼が「無事」であったことに対する言葉はないのだった。
 あるいはそれこそが「信頼」と呼ぶべきものなのかもしれない。彼女は彼が無事に戻ると信じていた。きっと大丈夫だろう、と。余裕をもって、そう構えていた。だからこその「無言」なのかもしれない。(それとも、彼女が集めた「上級職」に対する「信頼」なのだろうか…?)

「ありがとうございます。それでは――」

 彼女は「署名」を確認し、上から「受領印」を押す。そして帳簿を「パタン」と閉じてから仕舞うと、代わりに何やら「薄汚れた小袋」を取り出した。

「お渡しするのが遅れてしまいましたが…、こちらが『依頼』の『前金』です」

 彼はその「小袋」に見覚えがあった。(確かこれは村の大人たちが「買い出し」のため、町に出掛ける際に用いるものだったはず…)

「どうぞ、ご確認下さい」

 確認するまでもなく、すでに「中身」については知っている。村人が彼のために持ち寄った「果実の種」だろう。それもやはり、彼以外にとっては「無価値」に過ぎないもの。
 だがしかし。彼が一応とばかりに袋を開け、改めたその「中身」は――、

 数枚の「銀貨」であった。

 彼の育った村においては「大金」とさえ呼べる額である。 

「そして、こちらが今回の依頼の『達成報酬』です…」

 彼女はどこか言いづらそうに、

「村で獲れた作物、『一生分』でございます…」

「依頼書」に書かれた通りの、そのあまりに途方もない「内容」をそのまま口にする。

「尚、『報酬の多寡』について、当ギルドは一切関知しておりませんので――」
「万が一『支払い』がなされない場合は、ご自身で『回収の依頼』をお願い致します」
「我々ギルドは、『依頼者様』と『冒険者様』との『信頼』で成り立っております」

 それを言うことが、「規則」で決められているのだろう。「スラスラ」とした口調で、澱みなく「条文」を言い終えたところで。

「いりません…」

 彼は「明確な意思」を言葉にする。

「えっ?」

 そこで初めて、彼女は「個人的」な戸惑いを露わにした。

「報酬はいらないです。これも依頼者の――、『おじいちゃん』に返しておいて下さい」

 勇者はやや迷った挙句、あくまで彼にとっての「呼び名」でそう言った。

「かしこまりました。では、責任もって私から依頼者様に『お返し』しておきます」

 無論それは「業務外」であったのだが、エルフは「快諾」した。
 そうすることで、少なからず村の「復興」に役立てられるのなら。それによって、わずかばかりでも彼の「助け」となれるのなら。彼女は「ギルドの受付」としてではなく、「一人の女性」として。今一度、彼のために一肌脱ごうと決意するのだった。

「以上で、全ての『手続き』を終えさせて頂きます。何かご不明な点はございますか?」

 最後にそう問われ、勇者は顔を上げる。「正面」からしっかりとエルフの顔を見据え、そして――。

「色々とありがとうございました!!お陰で、村の皆を助けることが出来ました」

 はっきりと彼は言った。「不器用」ながらも、精一杯の気持ちが込められた彼の言葉。けれど、当のエルフは――、

「一体何のことでしょう?」

 わざとらしく首を傾げ、あくまで「とぼけて」見せるのだった。

「いえ、何でもないです…」

 彼のなけなしの「勇気」もそこまでだった。「気恥ずかしさ」を堪えつつも放った言葉はけれど――、彼女によって見事に躱されたことで、後にはただ「居たたまれなさ」のみが残るのだった。
 再び、彼は下を向いてしまう。もはやその場に留まり続けることすら「羞恥」に感じ。彼は踵を返し、立ち去ろうとしたところで。

「必ず帰ってくるって信じてましたよ!」

 その「声」に振り返り、今一度彼は「エルフ」を見る。
 その「表情」は、やはり「いつも通り」のものでありつつも――、瞳を潤ませながらの「笑顔」は、紛れもなく「彼だけに」向けられたものだった。


 ある者は去り、またある者が訪れる。「町の日常」はあまりにも忙しない。そうした日々の中で、ようやく彼にも「仲間」が出来た。

「アンタ、『勇者』なんだって?」

 最初に声を掛けてきたのは、一人の「女戦士」であった。
「肉体」に縦横無尽に走る「傷」は、まさに「歴戦の猛者」であることの「証」だった。

「アタシと『一戦』交えちゃくれないかい?」

 彼女からもたらせられた提案は「勧誘」ではなく、まさかの「試合の申し出」だった。

――ヒュン!
――ガキィィン!!
――ズバッ!
――ドシャ!!

 幾閃かの「剣戟」を重ねた末、あまりにあっけなく彼は膝をついてしまう。
 彼のこれまで積み上げた「研鑽」は、彼女の「剣技」の前では全く歯が立たず。彼が「勇者」となって以来、一日たりとも欠かすことの無かった「鍛錬」も――、彼女の長年のそれに比べればほんの「付焼刃」に過ぎず。彼は彼女に対して、少しも敵わなかった。
 だが、それでも。「試し合い」の後、蹲る彼に差し出された手。

「アンタの『太刀筋』気に入ったよ!まだまだ、アタシには遠く及ばないけどね!」

 彼のことを認めながらも。けれど自らを決して「卑下」することなく、むしろ盛大に「誇示」しつつも「豪快」に笑う彼女の手を――、彼は掴むのだった。

「アタシの名は『ヒルダ』」

 彼女は「名」を告げた上で、 

「今はまだ『戦士』だけど、これでも『世界一』の『バトルマスター』を目指してる!」

「不遜」ともいえるくらいの「名乗り」を上げる。

「アンタは?」

 そう問われたことで、彼は自らの「氏名」とそれから――。あるいは自らの「使命」と呼ぶに相応しき「職業」を、やはり「自信なさげ」に答える。

「――か。いい『名』だね!」

 ナナリー以外から「名前」で呼ばれるのは、随分と久しぶりな気がした。けれど彼女はあえて「その名」を繰り返すことなく――。

「決めた!これから先、アンタのことは『勇者サマ』って呼ぶことにするよ!」

――自分が「勇者」だって、アンタが堂々と胸を張って言えるようになるまで。

 そうして、またしても彼女は「豪快」に歯を見せるのだった。
 当初は「次の町まで」という約束だったが、いつの間にかそれは「反故」にされ――、彼女はパーティにおける「最古参」として、「最後まで」彼と共にあり続けるのだった。

「新天地」を求めるべく、「彼ら」が町を出ようとした時。
 また一人、声を掛けてくる者の姿があった。

「あの、えっと…。ワタクシも『お仲間』に加えては頂けないでしょうか?」

 あまりに唐突な「出願」に、「二人」は顔を見合わせる。女戦士の方はやや「苦い顔」をしているようにも思われたが、あくまでも「合否」は彼に委ねるつもりのようだった。

「ぜひ、お願いします!!」

 むしろ彼の方から「願い」を口にし、あっさりと「了承」を示すと、

「やった!!めっちゃ嬉しいで――あ、その…、ございます」

「女僧侶」はなんだか妙な「言葉遣い」になりつつも――、だがそれによって、彼女の「真っ直ぐな思い」がより率直に伝わってくるのだった。

「経験的」にも「年齢的」にも、彼にとって「先輩」である「両名」を加えて。ついに、彼は念願の「パーティ」を組むことと相成った。だがしかし――。

 それからの勇者の日々は、これまで以上に「危険」に満ち溢れたものだった。

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おかず味噌 2020/12/30 16:00

クソクエ 勇者編「伝説の黎明 ~安堵失禁と恐怖脱糞~」

(前話はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/404264

(女戦士編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/311247

(女僧侶編はこちらから↓)
https://ci-en.dlsite.com/creator/5196/article/357380


「村」に近づくと、「異臭」が彼の鼻腔を満たした。

「畑」の焼ける香り、「家」の燃える匂い、「肉」の焦げる臭い。
「黒煙」となったそれらが「風」に乗って、彼の元へと運ばれてくる。

 そして、辺りがすっかり「昏く」なり始めた頃。ようやく「目的地」に辿り着いた彼は、「変わり果てた」故郷の姿を目にするのだった――。


 彼は「言葉」を失った。「眼前の光景」に思わず「悲鳴」を上げそうになりながらも、けれど「声」を発することは叶わなかった。口内は「カラカラ」に渇き、喉の奥に何やら「引っ掛かり」を覚える。かろうじてそれを「呑み下す」と、胸いっぱいに「モヤモヤ」とした「黒いモノ」が広がってゆくのを感じた。それはまさしく「絶望の塊」であった。
 何とか「理解」が追いついた彼の目に「涙」が浮かぶ。「臭い」のせいもあるだろう。目に染みるような「煙」が、そこかしこから上がっている。だが無論それだけではない。彼の瞳に滲んだそれは「視界」をぼやかし、あるいは全てが「幻想」であるかのような「希望」をチラつかせるが――。瞳を閉じても尚「瞼の裏」に貼り付くその「残像」は、紛れもなくそれが「現実」であることを示していた。

「さすがに『ショック』か…?だが、こんな『景色』は世界中にありふれている」

 勇者の肩に「ポン」と手を置き、励ますように言うのはサンソンだった。あくまで彼はここが「勇者の故郷」であることを知らない。知らないからこそ、そんなことが言える。「何もここだけのことじゃない」と、彼の故郷は「ここでしかない」というのに――。

 勇者は今すぐにでも駆け出したかった。「村中」を駆け回り、背に抱えた剣を振り回したかった。彼と「出身」を同じくする、この「聖剣」を――。
 だけど彼はその場から動けなかった。果たして「どちら」に向かえばいいのか分からなかったからだ。あるいは「助け」を求める声の「方角」に向かおうと思っていたのだが。そんな「悲鳴」も、「彼を呼ぶ声」も、どこからも届くことはなかった。

「少しばかり『遅かった』かもな…」

「長めの前髪」を弄りながらサンソンは言う。彼としては「見慣れた景色」なのだろう。「取り乱す」ことも「喚き散らす」こともせず、あくまで「冷静」なまま「客観的」な「感想」を漏らす。

――イヤだ…!!その「先」を言わないで…!!

 そんな勇者の「願い」も虚しく――。

「残念だけど、『手遅れ』だな…」

 けれど、サンソンは「続き」を言ってしまう。彼の「最後の望み」すら打ち砕くように(もちろんサンソンに「悪気」はないのだが)、わずかな「希望」さえも消してしまう。

「勇者。これからどうする?」

 サンソンが訊ねる。その「意味」が勇者には分からなかった。「どうする」も何も、「やるべきこと」は決まっている。早く「村の皆」を助けなければ――。

「『この様子』だと、たぶん『依頼者』はもう生きちゃいない。それに恐らく――」

――「村人」も「全滅」だろうな…。
「全滅」?彼はそう言ったのか?何が?誰が?一体どうして、なぜそんなことが言える?まだ分からないじゃないか!!きっと「村の皆」は「避難」しているのだ。「ゴブリン」に見つからないように、じっと息を潜めて「救援」を待っているのだ。「悲鳴」が聞こえて来ないのも、それならば頷ける。「皆無事」で、だからまだ――。

 彼はそれでも尚「期待」を口にしようとする、その前に。先にサンソンが口を開いた。

「ゴブリンってのは、ああ見えてとても『狡猾』な奴らなんだ」

 サンソンは「見てみろ!」とばかりに「辺り」を指し示す。

「見張りがどこにも居ないだろう。『狩り』をする時、奴らは必ず見張り番を置くんだ」

 確かに彼の言うとおり、村の「入口付近」にゴブリンは「一匹たりとも」居なかった。

「もう引き上げた後なんだろう。奴ら『強奪』と『凌○』の限りを尽くして、それで…」

――全く、「反吐」が出るぜ…!!
 サンソンの言葉に「怒り」が込められるのを感じた。さすがの彼も「冷静」ではいられないのだろう。露わにされた「感情」に、凄まじいばかりの「鬼迫」に。「味方」であるはずの勇者さえも「圧倒」されたのだった。

「いくらか『残党』は残っているだろうが――」

――どうする?
 再び、サンソンは問う。ようやく彼にもその「意図」が分かった。
 つまりは「クエスト失敗」となっても尚、「ゴブリン狩り」を続ける意思があるのかを彼は訊いているのだ。

「皆さんは、先に帰っていて下さい…」

 勇者は言う。本来であれば「形」はどうであれ、ここまで付いてきてくれた「仲間」に「礼」の一つでもあって然るべきなのだが。普段の彼ならば、間違いなくそうしていたのだろうが。もはや今の彼には、そうした「礼節」を重んじるだけの「余裕」はなかった。

「あとは、『一人』でやりますから…!!」

「意志」を込めて彼は言う。「呼応」したかのように「聖剣」に「鈍い光」が灯る。だが「鞘越し」のそれに気づく者はいなかった。ただ一人、サンソンが何かしらの「気配」を感じたのみだった。

 勇者は駆け出す――。「目的地」を定めることなく、ただ「村の奥」へ向かって走る。

「ちょっと待て!!」

 その「背中」にサンソンが声を掛けるも、けれど彼の耳には届かず。「失われた故郷」へと分け入っていく――。

「はぁ…」
 勇者の姿がすっかり見えなくなったところで、サンソンは似合わない「溜息」をつく。彼の中に残った「一抹の不安」それは――。

――大丈夫だろうか…?きっと勇者は今以上に「凄惨な光景」を目にすることになる。

「村人の屍」「残酷に切り刻まれた肢体」「凌○され尽くした死体」。ゴブリンを相手にすると、いつもそうだ。彼も「初めて」それらを目にした日の夜は「悪夢」にうなされ、幾度となく「嗚咽」を感じて眠れなかった。
 どうしてこんな「惨いこと」が出来るのか!!「奴ら」は「人」をまるで「物」としてしか見ていない。今でも彼は、何度だって「怒り」を覚える。
 だが「彼ら」からしてみれば、「人間」もまた「同じ」なのだろう。「報酬」のため、「経験値」のためと宣い、彼が積み上げてきた「魔物」の「亡骸」の数は「百や二百」ではきかないだろう。
 あるいはその「事実」を知り――、自身も「魔物」と成り果てた者がいると聞く。そうでなくとも自らの「仕事」に嫌気が差し、人知れず「ギルド」を去った者だっている。

――彼は大丈夫だろうか…?

 いや、きっと大丈夫なはずだ。彼ならば「深淵」を覗きながらも、やがていつかはその「暗闇」を抜けることが出来るだろう。何しろ、彼は「勇者」なのだから――。

「きゃぁ~!!!」

 ふいに「悲鳴」が鳴り響く――。これまで決して聞こえることのなかった「人の声」。「助け」を求めるその「呼び声」は、紛れもなく「生存者」がいることの証。
 なぜか「その声」に「聞き馴染み」を覚えつつも。まさか「その彼女」がそのような「状況」に陥ることなどとは考えにくい。
 だが、何はともあれ「救援要請」を受けたサンソンは――、「広場」とは「反対方向」に向かったのだった。


「仲間」を置き去りにして、「一人」駆け出しては来たものの――。勇者は迷っていた。何も「道に迷った」というわけではない。何しろここは彼の「生まれ育った村」であり、凄惨に「変わり果てて」はいるものの、見慣れた景色の「面影」はそこかしこに見当たるのだった。けれど――。
「広場」まで「一目散」に駆けてきた彼は、果たしてここから「どっち」に行くべきかを迷っていた。

 まずは「自宅」に向かうべきだろうか。此度の「凶報」を知る「きっかけ」となった「依頼者」はそこにいるのだろう。年老いた「祖父」のことだ、逃げ遅れてしまった可能性だって十分ある。いやそもそも「無事」逃げることの出来た「村人」が、一体どれほどいるというのだろう。
 彼はまだ「村人」の「変わり果てた姿」を一度も目にしていない。だから、あくまで「希望」が潰えたわけではない。それでも、今や燃え尽き「黒焦げ」となった「家々」を見るに――、それがとても「儚い」ものであることは確かだった。

 それとも「ナナリーの家」にこそ向かうべきなのだろうか。「村長の家」でもあるそこには、「有事」に備えて多少の「蓄え」があるのだと聞いたことがある。(もちろん、彼がまだこの村に「居た頃」には幸い、その必要に迫られるような「事態」は一度たりともなかったのだが…)
 あるいは「村の皆」が「避難」していることも考えられる。そこに「彼の祖父」もいるかもしれない。「ナナリー」も――、今となっては「懐かしさ」さえ覚える「同年代達」も――、皆そこに身を寄せ合っているのかもしれなかった。
 ようやく彼は「目的地」を定め、少し「高台」にある「屋敷」を目指すのだった。

 それにしても。彼はこれまで「ゴブリン」に一度も「遭遇」していなかった。サンソンの言った通り、すでに「引き上げた」後なのだろうか。「クエスト」にあった「軍勢」はおろか、その「残党」にすら出くわすことはなかった。
 なんだか「不気味」だった。「ゴブリン達」は一体どこに「消えた」というのだろう。いや、あくまで彼らは「隠れている」だけなのかもしれない。建物の陰から――、あの角を曲がった先で――、息を殺して「こちら」を窺っているのかもしれない。
 それを考えただけで、彼の中に再び「臆病心」が芽生えるのだった。いかに「聖剣」に選ばれようとも、「勇者」となった今でも。自らの「性質」というのは、そう容易く変えられるものではなく――。ついこの間までは田畑を耕すことのみに従事し、「命の危険」などとは程遠かった彼にとって。すぐ近くに迫り来る「生死」というのは耐え難く、やはり目を背けていたいものだった。

 だけど、もはやそんなことも言っていられなかった。ついに「屋敷」に至る「坂道」の下まで辿り着いた彼は、そこでより一層「焦燥」を感じた。「あるもの」が見えたからである。急いで坂を上った彼は「村長の家」の「正面扉」の前に立つ。その「扉」は、

「開いて」いた――。

 あるいはそれこそ、すでに村人たちが隙を見て逃げ出したことの「痕跡」なのかもしれない。だがさらに「扉」に近づいたことで、彼は知る――。扉の「カギ」は、

「破壊」されていた――。

「村人」によるものでは決してないだろう。「鈍器」で無理やり「こじ開けた」ような「傷跡」は、「ゴブリン達」の「仕業」に違いなかった。

 すかさず彼も「半開き」となった扉をくぐる。「他人の家」に「無断」で上がることに多少の「抵抗」と、場違いな「緊張」を覚えつつ――。

――そういえば、ナナリーの家を訪ねるのは「初めて」だな…。

 と。いかに「非常時」であり仕方ないとはいえ、ならばいっそナナリーに「誘われる」ことでそれを果たしたかった、と彼は思うのだった。
 だがそう出来なかったのには幾つもの「理由」がある。いつだって彼は、ナナリーとはあくまで「人目を避けて」会うようにしていた。彼女がそう望んだわけではない。むしろ彼女は彼が「いじめられている」ことを知るたびに。「外聞」など決して構わず、すぐにその場に駆けつけてきて、怒鳴り散らしてくれたのだった。
 思わず縋りつくように、ナナリーの「後ろ」に隠れる彼を見て。「いじめっ子達」は彼のことを――、

「や~い、弱虫!!また『女』に助けてもらいやがって!!」

 と、さらに罵るのであった。それに対しても、やはり彼は何も言い返すことは出来ず。その「代わり」にナナリーが――、

「うるさいわね。いいの!○○は『優しい子』なんだから」

 そう「反論」してくれるのだった。
「優しい子」――。果たしてそれはどういう意味なのだろう。確かに彼は「家畜」を始めとする「動物」や、「虫」やさらには「草木」に至るまで。それらを決して「下等生物」だと決めつけることはなく、あくまで「対等」に接するのだった。
 だがそれは、彼に「友人」が少なかったためでもあり。それを「優しさ」と形容するのは、何だか違うような気がした。
「優しい子」――。それは「臆病者」の間違いではないだろうか。彼の「性質」に彼女なりに最大限配慮し、言葉を選んだ末のその「表現」なのではないだろうか。

 彼はひと時の「回顧」に耽る。だがもちろん、そんな場合ではない。あくまで彼女の「本心」ではなかったとしても――、たとえ彼女が自分のことをどう思っていようとも。
 彼の今「やるべきこと」は変わらないである。
「優しい」というならば、それはナナリーにこそ当て嵌まるべきもので。その彼女は今「ゴブリンの襲撃」に怯え、「救援」を求めているのだ。
 あるいは「救援者」が誰であろうと、それについては構わないのかもしれない。だが「依頼者」である彼の「祖父」が、ギルドで確かにそう言っていたのだと聞いたように。
 やはりナナリーもまた「勇者」を――、かつては単なる「愚者」に過ぎなかったその存在を――。紛れもない「彼」による「助け」を、待ちわびているのかもしれなかった。

 目の前の「階段」を駆け上る。相変わらず「気配」はなく、「物音」さえ全くしなかったが――。そこで「聞き慣れた声」による「悲鳴」を、彼は確かに耳にしたのだった。

「イヤァ~~~!!!」

「甲高い」その声に――、彼は一瞬それが彼女のものであることを疑いたくなったが。「鼓膜」にこびり付いた「残響」を何度も「反芻」する内に、それが紛れもなくナナリーの声であることを知った。
 それを「聴いた」ことで、まず最初に彼の中に浮かんだ感情は――、「安堵」だった。「良かった、生きてたんだ…」と、そう思ったのだった。だけどすぐにそれは「不安」へと変わる。「悲鳴がした」ということは、今まさにナナリーの身に何かしらの「危機」が迫っているという、紛れもない「事実」を表わしているのだ。

「二階」へと上ってきた彼の眼前には、いくつもの「扉」があった。「村の長」たる人物の「家」というのは、「屋敷」と呼ぶに相応しい「広さ」と「豪華さ」であった。
 数多くあるその「部屋」の内、果たしてどれが「正解」なのだろう。こうなればいっそ「虱潰し」に当たろうかと思い掛けた彼であったが――、ここに来てもやはり「痕跡」はあった。
 およそ半数以上の扉は「開け放たれて」いたのである。「悲鳴が聞こえた」ことから察するに――。ということはつまり、その中の「どれか」ということだろう。
 だがそれだって。開かれた扉の数もそれなりにある。もはや「時間」は限られている。早くしないと、ナナリーは。

 彼が「最初の部屋」に向かおうとした、まさにその時だった――。

「誰か、助けて…」

「微かな声」を、けれど彼は聞き逃さなかった。今度ばかりは疑いようもない。それは間違いなく「ナナリーの声」であり、彼女の「助け」を求める声であった。
 かつては彼の方からナナリーに「救い」を求め、決して声には出さずとも「悲鳴」を上げていたのだが。今度は彼が彼女を「救う番」なのだった。

 勇者は、すでに開いた扉から部屋の中へと躍り出る。あえて鳴らした「足音」によって、それを聞いた「ゴブリン達」が振り返る。
 室内には全部で「六匹」のゴブリンがいた。その「全員」が彼の方を見て、「村人」とは違うその「装い」に目を丸くしていた。
 ゴブリン達が振り向いたことで――、その「目線」の先を追って、ようやくナナリーも「何者か」の「来訪」に気づく。だがその「表情」には相変わらず「恐怖」が張り付いたままで。そこに居たのが「彼」であると分かっても尚、あくまで彼女はそれを「幻」だと思い込んでしまう。

「ナナリー!!」

 勇者は彼女の「名」を呼ぶ。そうしたことで、彼の姿が紛れもない「現実」であることを彼女は知ったのだった。

「○○…?」

 それでもナナリーは未だ「半信半疑」で。なぜ彼がここに居るのか、数月前に「町」に向かったはずの彼が、どうして「この村」に居るのか分からないという様子だった。
 あるいはここまで来る「道中」、ずっと心に決めていた「台詞」を彼は言う。

「『助け』に来たよ!!」

 あまりに「呑気」というか、馬鹿げたようなその言葉。まるでちょっと「お手伝い」に来た、とでもいうような。少しも「緊迫感」のない、あくまで「のほほん」としたようなその「口調」。
 けれど、だからこそナナリーは知った。それがまさしく、彼女にとっての「勇者」であることを――。

 勇者はゴブリン達に目を戻す。未だ「驚き」を浮かべたまま、盛大に「動揺」している彼らは――、やはりどこか「人間臭く」もあった。
「彼ら」は、勇者の手に握られた「聖剣」をぼんやりと眺めていた。それが意味することを、これから与えられるであろう「痛み」と「恐怖」を。彼らは知らぬまま――、けれど彼らの「理解」が追いつくのを待つつもりはなかった。

「うわぁ~~~!!!」

「咆哮」を上げて、彼はゴブリンに飛び掛かる。そこに「戦略」と呼べるようなものはなく、「間合い」さえも「デタラメ」で。けれど、この「数月間」に彼が培った「経験」がまさに「武器」となる。

――ブンッ!!ゴトン…。

 まずは「一匹」。彼の足元にゴブリンの「頭部」が転がる。そして、すかさず――。

――ズバンッ!!バタン…。

「二匹目」は「体部」を狙って切り倒す。だがそこで、ようやくゴブリン達も何事かを知る。すでに「屍」となった「身内」を見届け、眼前のそれが紛れもない「脅威」であることに気づく。

「キシャァァ!!!」

 醜い「奇声」を上げて、彼らは「戦闘態勢」を整える。「血気盛んな一匹」が勇者に飛びつき、彼の「視界」を遮ろうとする。だがあえなく勇者はそれを討ち取り、すぐに構え直すのだった。
「じりじり」と互いに「間合い」を保ちながら、「攻撃の瞬間」を待ちわびる。堪らない「緊張感」。けれど勇者はもう何度も、そうした「死線」を潜り抜けてきたのだった。
 最初に仕掛けたのは「三匹」だった。相変わらず「奇声」を上げつつ、同時に飛び込んでくる。「知性」のない彼らに「連携」などというものはない。ただ「闇雲」にそれぞれが飛び掛かってくる――。
 だが、それだけでも勇者は「苦戦」を強いられてしまう。かろうじて「初撃」だけは受け止めたものの、「二撃目」をギリギリで躱し、「三発目」をその身に受けてしまう。

 肩に鈍い「痛み」を感じる。焼け付くような「傷口」は「熱」を帯びて、彼の「心」さえも焼き尽くしてしまいそうだった。
 思わず勇者は膝をつく。何とか「片膝」だけに留めたものの、再び「立ち上がる」のはもはや「困難」であるかのように思えた。それでも――。
 勇者は立ち上がる。「鮮血」と共に飛び散った「決意」を体中からかき集め、心を蝕む「痛み」と「恐怖」を精一杯に振り払い、何とか膝を立てたのだった。
 勇者はその目でゴブリン達を見据える。その瞳に宿るものは「憎しみ」などでは決してない。「敵」は眼前の「三匹」などではなく、あるいは「自分自身」。それに打ち克とうとする「想い」。もはやそれこそ紛れもない「勇気」であった。

 再び、勇者はゴブリンに立ち向かう。この「痛み」が――、たったこれだけの「傷」が一体何だというのだ、と自らを「鼓舞」するように。「引き下がる」つもりなど毛頭ないのだった。そこで、ナナリーが何かに気づく。

「う、後ろ…!!あぶない!!」

 勇者がナナリーの声に反応する前に、またしても「攻撃」を浴びてしまう。「後方」からもたらせられた「一撃」。彼が後ろを振り向くと――、そこにはすでに「倒した」と思い込んでいたゴブリンが、その手に持った「斧」に彼の血を滴らせていた。
 背中に受けた「傷」は、さきほどのものとは比べ物にならないほど深かった。にも関わらず、彼はもう膝をつかなかった。「激痛」に顔を歪めつつ、「意識」を「朦朧」とさせながらも。けれどあくまで彼は「正面」を見続けていた。
「三匹のゴブリン」、その後ろには「ナナリー」がいる。彼にとってまさしく「恩人」でもあり――、「姉代わり」の存在でもある――、彼の「大切な人」が。

 勇者のその傷が「深手」であることは、もはやゴブリンの目から見ても間違いなく。だからこそ彼らはすでに「勝利」を「確信」したかのように浮かれている。

――相手が「弱者」だと知るなり、ゴブリンは「敵」を侮る。

 果たしてそれは「油断」なのだろうか、あるいは「余裕」というものなのだろうか。だがどちらにせよ、そこに「侮蔑」と「嘲笑」が混じっていることは明らかだった。
 それは(無論、決して比べるものではないのだが)「同年代達」による「いじめ」にも似ていた。彼が「弱者」であることを知り、だからこそ「強者」である自分らは「安泰」だろうと。決して「反撃」されることはなく。彼に唯一出来ることといえば、頭を垂れて「許しを請う」ことのみであると――。
 自らが「臆病者」であることを知っているから。「勇者」になどなれぬことを分かっているから。生まれ持った「性質」はもはや「残酷」なほどに彼の「運命」を縛り付け、その「身」も「心」も逃れられない「牢獄」へと捕えてしまうのである。それでも――。

「僕は、もう『臆病者』なんかじゃない…!!」

 彼は叫ぶ。自らの「意志」を表明するように。そうありたい、と「願い」を口にするように。彼は、今まさに「勇者」となったのだった――。

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