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読み聞かせの記事 (7)

whisp 2020/06/02 21:31

まいてつ:稀咲読み聞かせ『きつねのみそしる』+キャンペーン&クーポン活用情報!(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!!!

あやかし郷愁譚の購入特典で
https://www.dlsite.com/maniax/promo/ayakashinostalgia

『まいてつ読み聞かせボイスドラマ』 全7話

が、18作品コンプリート特典としてついてくることになりました!!!

内訳は以下の通りです!

・日々姫 「長靴をはいたネコ」
・ポーレット 「犬が言葉をなくしたおはなし」
・れいな 「炭鉱の白犬」
・ふかみ 「うさぎのもちつき」
・凪 「清柾公(せいしょこ)さんの虎退治」
・真闇 「ネコ岳の猫」
・稀咲 「きつねのみそしる」



でもって本日!


『あやかし郷愁譚 ~いんがめ ほゆる~』がリリースされ!

ほゆるちゃんには! 『whisp作品80%オフまとめがいクーポン』が付随してくるため!!

いかの恐るべきコンボで、上記「18作品コンプリート特典」が、驚くべき安価でゲットできることとなりましたのです!


その手順です!!!


/////////////

【初手】

『あやかし郷愁譚 ~いんがめ ほゆる~』
https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ282631.html

を購入する。

なにか値引きクーポンとかもってたら、それを適用すると更にお得



【2手目】
80%オフクーポンが配給されてるのを確認してから

『10本まとめ買い4400円セール』の中から、

A:あやかし郷愁譚作品を17本以上
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と、
キャンペーン全対象作品
https://www.dlsite.com/maniax/campaign/matome202005?group1[0]=music

からその他お好きなのを、『「A」とあわせて20本』になるようにカートにいれる


【3手目】
購入時に80%オフクーポンを適用する。
すると、(4400円+4400円)* (1-0.8)=『1760円』 で、上記18特典をすべてゲットできてしまう


/////////////


のでございます!!!!

「まいてつ」も! 「ものべの」も!!! サントラも大増量ディスクもボイスドラマ群も画集も! です!!!!

おそらくここまで空前絶後な規模のキャンペーン+割引コンボはなかなかないのではないかと思いますので!

「これからあやかし郷愁譚聞き始めるよ!」という方だけでなく
「『まいてつ』『ものべの』やってみたい! という方におかれましても、ぜひぜひご活用ご検討いただけましたら幸いです!!


と、いうことで台本紹介!

本日は「まいてつ」けもみみランジェリー安眠読み聞かせボイスドラマシリーズ全7作品の大トリ!

稀咲先輩の 『きつねのみそしる』でございます!!!

稀咲先輩の読み聞かせの話であると同時に、稀咲先輩生涯(いまのとこ)たったいちどだけの「読み聞かせしてもらったときの思い出話」でもございます!

ぜひ!



///////////////
;稀咲、きつねランジェリー特典ボイスドラマ
;『稀咲読み聞かせ「きつねのみそしる」』
;進行豹 v100_2016/12/21_v110_161222


;以下、セリフは全て稀咲
;タイトルコール

「宝生稀咲、きつねランジェリー抱きまくら特典ボイスドラマ
『稀咲の読み聞かせ『きつねのみそしる』」


;本編


「……ふぅ。疲れた。
キミも、一日お疲れ様だね」

「約束のもの、持ってきたよ?
急に読み聞かせなんてねだられるから、
少し、苦労をさせられた」

「ああ――ボクは、あまり経験がないんだ。
その、『読み聞かせをしてもらう』ということのね」

「だけど、たった一度だけ。
父に読み聞かせてもらったことがあって――」

「あるいは、覚えていないくらい昔に。
それこそ、赤ちゃんだったときとか。
もっとたくさん、読み聞かせてもらってたのかもしれないけれど」

「だけど、ボクが今記憶してるのは、
たった一度の読み聞かせだけ」

「それも、ふふっ――
まぁ、父らしいお話でね。
だから、覚えているのかもしれないけど」

「ボクも一緒に横になる。
そうしながら、キミに、読み聞かせてあげたい」

「だって、さ……甘えたいんだよね?
読み聞かせなんて、急にねだってくるってことは」

「いいよ、甘えて。ボクにだけは。
ボクだけが知ってるっていうのもね、
フフっ、なかなかに優越感なんだ」

「キミがほんとは、
こんなに甘えっこだってこと」

「だから、優しく読んであげる。
といっても――さっきもいったけれど、
読み聞かせてもらった経験自体、あまりないんだ」

「正直、上手にできるとは思えない。
でも君のため。
愛情をたっぷりこめて、大切に読む」

「君とボクとの赤ちゃんが産まれてきたときの――
ふふっ、予行演習にもちょうどいいしね」

「それじゃあ、読もうか。
目を閉じて? ボクの声に――甘えて、聞いて?」

「『きつねのみそしる』」



;以下読み聞かせ

『ある山奥に、きつねとたぬきが住んでおりました』

『きつねとたぬきは 友達でした。
きつねはこまめでめんどうみが良く、
たぬきはずぼらでめんどうくさがりでした』

『きつねには得意がありました。
けものとでも鳥とでも虫とでも、だれとでもなかよくできるのです』

『たぬきには得意がありました。
山のものでも、川のものでも、地面の下にあるものでも、
おいしいものをたくさん知ってて、もっとおいしくお料理できるのです』

『ある日のことです。
きつねのおうちにたぬきが遊びにやってきました』

『「お誕生日おめでとう」
会うなり、たぬきはいいました。
「お誕生日のお祝いに、ひとつおくり物をしたいのだけど、
なにがいいかな」』

『きつねはよろこんで答えます。
「どうもありがとう たぬきさん、
たぬきさんちのおいしいものを、どうかごちそうしてくださいな」』

『たぬきはしょんぼり、おなかをかきかき答えます
「ごちそうしたいのはやまやまだけど、
いまは食べ物を切らしてる。
干したコンブしか残ってないんだ」』

『キツネはえっちら、いい匂いのするカメを持ってきます。
「それならここに味噌があるから、味噌汁作ってくださいな。
みんながおいわいにきてくれるから、たあんとできたらうれしいな」』

『「味噌汁でいいならよろこんで。
きみんちでいちばん大きななべて、たあんとこしらえてあげるから」
たぬきは急いでいえにかえって、干したこんぶを持ってきます』

『大きなお鍋にいっぱいいっぱいのみずをはり、
干したコンブをその中にいれ、火にかけ、ぐつぐつ煮込みます』

『「おいしいおだしがとれたかな。
味噌をときいれ味噌汁つくろ」』

『「味噌とくまえに たぬきさん。ひとつおしえてくださいな。
この中に、おいしいものをいれるなら、なにがいっとうよろしいかしら」』

『「たったひとつならきのこがいいよ。
しめじを いれるとおいしいね」』

『そこヘトカゲがお祝いをしにやってきました。
きつねは、すぐさまトカゲにお願いしてみます。
「まっくら森のリスのところで、
しめじを たあんと たのめるか、ひとつ訪ねてくださいな」』

『「おまかせください、ごあんしん。
きつねさんのお誕生日のお祝いに、ご用をつとめてまいりましょう」』

『トカゲがしゅるしゅる はっていきます。
もどるときには、リスといっしょ。
リスは しめじでいっぱいの かごをせおってまいります』

『「きつねさん、お誕生日おめでとう。
おいわいなにかと悩んでいたが、しめじがほしけりゃあげましょう」』

『きつねはしめじをうけとって、
たぬきにどうぞと渡します。
たぬきはぽおんと、おなかをひとつならします』

『これは上等、よいしめじ。
さっそくおなべにいれようね』

『干したコンブとしめじがはいって、ぐつぐつ、ぐつぐつ。
おなべがだんだん煮立ってきます』

『「おいしいおだしがとれれたかな。
味噌をときいれ味噌汁つくろ」』

『味噌とくまえにたぬきさん、ひとつおしえてくださいな。
この中に、おいしいものをいれるなら、なにがいっとうよいかしら』

『しめじがあるなら ごぼうがいい。
ごぼうをいれるとおいしいね』


『そこヘミミズがお祝いをしにやってきました。
きつねは、すぐさまミミズにお願いしてみます。
「しめった土のもぐらのところで、
ごぼうを たあんと たのめるか、ひとつ訪ねてくださいな』

『「おやすいごよう、ひともぐり。
きつねさんのお誕生日のお祝いに、おつかいをしてまいりましょう」』

『みみずがにょろにょろもぐっていきます。
もどるときには、もぐらといっしょ。
もぐらはごぼうでいっぱいの かごをせおってまいります』

『きつねさん、お誕生日おめでとう。
おいわいなにかと悩んでいたが、ごぼうがほしけりゃあげましょう』

『きつねはごぼうをうけとって、
たぬきにどうぞと渡します。
たぬきはぽんぽこ、おなかをふたつならします』

『これは上等、よいごぼう。
さっそくおなべにいれようね』

『干したコンブとしめじとごぼうが、ぐつぐつ、ぐつぐつ。
おなべがだんだん煮立ってきます』

『「おいしいおだしがとれたかな。
味噌をときいれ味噌汁つくろ」』

『「味噌とくまえにたぬきさん、ひとつおしえてくださいな。
この中に、おいしいものをいれるなら、なにがいっとうよいかしら」』

『「ごぼうとにんじん なかよしこよし。
にんじんをいれるとおいしいね」』

『そこヘちょうちょがお祝いをしにやってきました。
きつねは、すぐさまちょうちょにお願いしてみます。
「かわいた野原のウサギのところで、
にんじん たあんと たのめるか、ひとつ訪ねてくださいな」』

『「いい風ですし、よろこんで。
きつねさんのお誕生日のお祝いに、ご用事たしかに引き受けましたわ」』

『ちょうちょがひらひらて風にのります。
もどるときには、ウサギといっしょ。
ウサギはニンジンでいっぱいの かごをせおってまいります』

『「きつねさん、お誕生日おめでとう。
おいわいなにかと悩んでいたが、ニンジンほしけりゃあげましょう」』

『きつねはニンジンうけとって、
たぬきにどうぞと渡します。
たぬきはのおなかは、ぽんぽこぽん。
[三度'さんど]、たからかにひびきます』

『これは上等、よいニンジン。
さっそくおなべにいれようね』

『干したコンブとしめじとごぼうとニンジンが、ぐつぐつ、ぐつぐつ。
おなべがだんだん煮立ってきます』

『「おいしいおだしがとれたかな。
味噌をときいれ味噌汁つくろ』

『味噌とくまえにたぬきさん、ひとつおしえてくださいな。
この中に、おいしいものをいれるなら、なにがいっとうよいかしら』

『ニンジンときたら さといもがほしい。
さといもあれば ごちそうだ』

『そこヘスズメがお祝いをしにやってきました。
きつねは、すぐさまズズメにお願いしてみます。
「しずかなお山のイノシシのところで、
さといもたあんと たのめるか、ひとつたずねてくださいな」』

『「おやすいごよう、ひとっとび。
きつねさんのお誕生日のお祝いに、わたしがお願いしてきます」』

『ズスメはちゅんちゅく飛んでいきます。
もどるときには、イノシシといっしょ。
イノシシはさといもでいっぱいの かごをせおってまいります』

『「きつねさん、お誕生日おめでとう。
おいわいなにかと悩んでいたが、さといもほしけりゃあげましょう」』

『きつねはさといもうけとって、
たぬきにどうぞと渡します。
たぬきはのおなかはぽんぽこぽこぽん!
空の上までなりひびきます』

『「これは大きく素敵なさといも。
さっそくおなべにいれようね」』

『干したコンブとしめじとごぼうとニンジンとさといもが、ぐつぐつ、ぐつぐつ。
おなべがだんだん煮立ってきます』

『「おいしいおだしがとれれたかな。
味噌をときいれ味噌汁つくろ」』

『たぬきは火からお鍋をおろし、
お味噌をちろちろ ときいれます』

『そうしても一度お鍋を火にかけ――
あまぁいあまぁいお味噌のにおいが、
きつねさんのおうち いっぱいにひろがります』

『「さぁできた。
きつねさんのお誕生日のお味噌汁!」』

『たぬきの声に、みんなわあっと、
お鍋にかけよりかこみます。
けれどもすぐに、あれれと首をかしげます』

『イノシシが えんりょをせずにいいました。
「おいたぬきどん。これは味噌汁じゃないだろう。
どこをどうみても芋の味噌煮だ」』

『鍋をどれどれと覗き込み、たぬきもびっくりぎょうてんです。
「なんとびっくり、味噌汁つくったら芋煮にバケた!
さすがきつねの味噌汁だ」』

『みんなそうかと感心します。
なるほどきつねの味噌汁ならば、どんな料理にもバケそうです』

『「さぁさぁみなさん、冷めないうちにいただきましょう」
きつねの声に、めいめい、ごはんの準備です』』

『きつねとたぬきとトカゲとリスと、
みみずともぐらとちょうちょとウサギ、
スズメとイノシシ、みんなそろって
「いただきます」
お鍋をわいわい、つつきます』

『そのおいしいこと、たのしいこと。
みんなにこにこ、おなかいっぱいになりました』

『「きつねさん、お誕生日のおいしいうたげに、
おまねきくださりありがとう」
「こちらこそ、おいしいお祝いをありがとう」』

『トカゲとリスが、かえるみちみち話します。
「しめじをもってきただけで、こんなごちそうたべられて、
おおいにもうけた、とくをした」』

『みみずともぐらが、かえるみちみち話します。
「ごぼうをもってきただけで、こんなごちそうたべられて、
おおいにもうけた、とくをした」』

『ちょうちょとウサギが、かえるみちみち話します。
「ニンジンもってきただけで、こんなごちそうたべられて、
おおいにもうけた、とくをした」』

『スズメとイノシシ、かえるみちみち話します。
「さといももってきただけで、こんなごちそうたべられて、
おおいにもうけた、とくをした」』

『みんながそれぞれ帰っていくと、
きつねもたぬきにお礼をいいます』

『「本当にありがとうたぬきさん。
お祝いにきてくれたのに、
はたらかせちゃってすまなかったね」』

『「みそしるつくるくらいなら、はたらいたうちにはいらない。
干したコンブをひとかけで、こんなごちそうたべられて、
おおいにもうけた、とくをした」』

『たぬきもおうちにかえっていきます。
あとかたずけをきちんとすませ、きつねもにっこりわらいます』

『「みんながあんなによろこんだ。おおいにもうけた、とくをした!」』

『「とっぴんぱらりのぷう」』


;読み聞かせここまで


「ふふっ――おしまい、だよ」

「このお話を探し出すのが大変だった。
なにせ、ほら。ビジネス雑誌のバックナンバーだ」

「父に聞いても、すぐには思い出してくれなくてね。
『きつねがタヌキと一緒に、
いろんな動物から食材をもらって、芋の味噌煮を作るお話』
っていってもさ、全然ダメで」

「ダメどころか、
『ウチの娘は頭を強く打ちでもしたのか』って顔で見るんだ。
だからボクも、意地でも思い出させたくなってね」

「一生懸命頭をひねって、
思い出したことをかたっぱしから伝えてみて」

「それで――
『大いにもうけた、得をした』っていったらさ、
とたんに父が! 『ああ、そんな話もあったなぁ』って」

「ははっ、あの人らしいよね。
それで、本人も読みたくなって、
秘書に探させたらしいんだ」

「けどね、秘書さんも忙しい。
なかなか見つけてくれなくて」

「待ちきれなくてさ。
……キミを待たせ続けたくもなかったし。
それで日々姫に、古本の探し方を教わったんだ」

「古本って、買ったことがなかったんだよ。
最新の、業務に関係してくる出版物をチェックするだけでも、
ボクの乏しい読書時間は、すぐにいっぱいになっちゃうから」

「で。日々姫から話がつたわって、他のみんなもそれぞれ、
あれこれ教えてくれて」

「最終的にはポーレットだった。
彼女は、やはり――
こういってはなんだけれども、マニア、なんだね」

「[蛇'じゃ]の道は[蛇’へび]とはあのことだ。
マニア特有のつながり、っていうのかな?
古本屋さんから古本屋さんに話がとおって――」

「最終的には、なんと福嶋の古本屋さんからのお取り寄せだ。
廃刊になった、しかもビジネス雑誌の古本なんて、
まったく需要がなくなるんだなと、つくづく思った」

「そりゃそうだよね、
廃刊になってるビジネス書。
そこに書かれたビジネス成功のコツだとか?
なんの説得力ももたないもの」

「けれど、ボクにはこの一冊は有益だった。
たぶん――どんな成功者の記したビジネス書より」

「だってさ、みんなが探してくれたんだ。
ボクのために――それこそ、『キツネのみそしる』みたいに」

「そう考えたら……
あの人――父が、たった一回の読み聞かせをしてくれた理由も、
なんとなくわかるような気さえしてきた」

「教条的、だよね? このお話は。
たぶん、なにかの童話だか民話だかを下敷きにして、
『大人のためのビジネス童話』に仕立て直しをしたのかな?」

「いろんな教訓、詰め込んであるんだと思うんだ。
例えば、――例えば。
『優秀なリーダーの存在は、
個々の仕事を和ではなく積とすることができる』とか?」

「でなければ、
『うまく働かせるコツは、
仕事の総量を負荷を感じない単位まで切り分けることにある』とか」

「上司が部下に読ませて、したり顔で聞いたりもできそうだよね。
『さて、このお話でもっとも“儲けて得をした”のは誰だと思うかね?』とかさ」

「答えを聞いたら、またどドヤ顔で、
『ほう、そう考えた理由は?』って聞くんだ。
直接の上司にいたら……ちょっと対応が面倒かもしれないけど」

「でもさ、銀行では――どこの会社でもそうなのかな?
結構いるんだ、そういう、例え話で仕事のお説教をしたがるタイプ」

「自分たちを、戦国武将に見てたりとかも多くない?
『部長はノブナガタイプだな』とか」

「それで仕事が楽しくなるならなによりだ。
けど、危ないとも思う。
一度でも型にハメてしまえば、どうしてもその眼鏡で見てしまう」

「ノブナガタイプにふさわしい言動の印象だけが強化されて記憶され、
そうでないものは無視されるようになる――とかね」

「その結果、『本人』をきちんと見なくなる。
タイプだけで判断し、パターンで処理しようとしてしまうようになる」

「危ない、よね。
効率的といえば効率的ではあるのかもしれないけれど――」

「だけど、人はそんなに単純じゃないから。
装いもするし、嘘もつくし――
思いもかけぬ美しさを見せてくれることだって、ある」

「タイプだけをみて、そういうところが見えなくなったら……
っと、と。いけない。
ボクもどうやら例外にもれず、この手の話が大好きみたいだ」

「父もあのころは若かったから――
ひょっとしたなら、ボクを相手にそういう話の……
いわば、実験? したかったのかもしれないね」

「ボクももちろんこどもだったけど……
まぁ、たぶん相当にマセてたし――
父はさ、ボクの頭の良さを、ずいぶんと過大評価してるから。昔から」

「だけど、結局はこどもだし。
夜でねむいし、うとうとしてるところに、あの話だろ?」

「もう、思うのはきつねの味噌汁のことばっかりさ。
『しめじおいしそう、ごぼうおいしそう、にんじんおいしそう、さといもおいそう』って」

「で、ドロンとばけての芋煮だろう?
それは食べたい、こどもだったら、誰だってたべたくなるよ」

「それが、顔に出てたのかな?
父は、なんにも聞かなかった。感想ももとめなかった。
ただ……ああ、そうだ。撫でたんだ」

「とてもめずらしいことだから、
『おっきなおてて』ってびっくりした。
大きな手で、ボクの頭をやさしくなでて、『おやすみ』っていって」

「ふふふっ、そうだ。思い出したよ。
次の日の晩御飯は、里芋の味噌煮――ううん、きつねのみそしるで!
ボクはね、生まれてはじめて、『食べ過ぎておなかが苦しい』っていうのを経験したよ」

「あー、いいね。読み聞かせはいい。
いろんなことを思い出して……少し、こどもに帰れるみたいだ」」

「……ふふっ、今日のキミはあまえっこのあかちゃんだからね。
食べたくなっても、むしろ、当然のことだと思うよ?」

「というか、ボクも。食べたくなるってわかってた。
だから、材料は買ってある。明日は少し早く帰って、一緒に、“きつねのみそしる”を作ろう。
作ってたべよう。おなかいっぱい」

「……しあわせ、だよね。そういうのって」

「たくさんの幸せをを感じさせてくれることを、
“いいおはなし”の基準だと、仮に定めるならさ。
『きつねのみそしる』は、いいお話だ。ボクにとっては、間違いなく」

「キミにとっても、そうだとうれしい。
いつか産まれる――きっと授かる、ボクと、キミの、赤ちゃんにとっても」

「……ふぁ――あ――ちょっと、しゃべりすぎたかな。
それに、読み聞かせにも集中しすぎちゃってたみたいだ」

「目、しょぼしょぼしてまぶたが重いや。
このまま、眠るよ、キミのとなりで」

「おやすみなさい、大好きなひと。
一緒に明日を迎えることを、ボクは誇りに、うれしく思う」

;チュ=リップ音
「ん…………(ちゅっ!))」

「キミのとなりだ。
寝てしまうのがもったいないけど――
こうして一緒に眠れることも、しあわせだから」

「さん、にぃ、いちで、一緒にまぶたを閉じるとしよう。
それじゃあ、いくよ? 『さん、にぃ、いち、それっ!』」

「……ふふ、まっくらだ。
だから、感じる。キミの心音。キミの体温。キミの体臭、息遣い」

「ボクのも、キミに伝わってるよね。
少しでも、キミの眠りをつつめるのなら――うれしいな」

「それじゃあ、今度こそ――言葉も、とじるよ」

「おやすみなさい。大好きなひと」



;終

///////////////



というわけで、読み聞かせ7本! すべて台本ご紹介いたしました!

上記キャンペーン+クーポンコンボをご活用で、できたらぜひぜひ! お耳からも物語! 読み聞かせ! ご堪能いただけましたらうれしいです!!!

次回はTG様の日々姫ASMRの台本紹介して。

そしたらそのつぎはレイルロオド・マニアックス書こうかな? とか思ってます!

ひとつひとつ順番に、ですね!

がんばります! ご期待ください!

それでは!!!

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whisp 2020/05/31 22:02

【収録台本】まいてつ:真闇読み聞かせ『ネコ岳のネコ』(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!!!

あやかし郷愁譚の購入特典で
https://www.dlsite.com/maniax/promo/ayakashinostalgia

『まいてつ読み聞かせボイスドラマ』 全7話

が、18作品コンプリート特典としてついてくることになりました!!!

内訳は以下の通りです!

・日々姫 「長靴をはいたネコ」
・ポーレット 「犬が言葉をなくしたおはなし」
・れいな 「炭鉱の白犬」
・ふかみ 「うさぎのもちつき」
・凪 「清柾公(せいしょこ)さんの虎退治」
・真闇 「ネコ岳の猫」
・稀咲 「きつねのみそしる」



というわけで、本日も台本をご紹介させていただきます!

前回は凪さま! 『清柾公(せいしょこ)さんの虎退治』でございました!
本日はうってかわって大人の魅力! 真闇姉の『ネコ岳のネコ』をご紹介申し上げます!

こちらは実際 熊本県は阿蘇の「根子岳」につたわる民話をアレンジしたものでございます!

読み聞かせ中の真闇姉の思い出話とか、ひーちゃんへの思いとか聞き所結構たくさんかと思うので、ぜひぜひぜひぜひできればお耳で!

それが無理ならこの台本で! お楽しみいただけましたらうれしいです!!!


///////////////

;真闇、黒猫ランジェリー特典ボイスドラマ
;『真闇の読み聞かせ「ネコ岳の猫』
;進行豹 v100_2016/12/23


;以下、セリフは全て真闇
;タイトルコール

「右田真闇、黒猫ランジェリー抱きまくら特典ボイスドラマ
『真闇の読み聞かせ「ネコ[岳'だけ]の猫」』」


;本編

「ごめんねぇ、遅ぉなってしもうたねぇ」

「まだ起きとってくれて、よかったあ。
もう寝とったら、おこさんよーにって、
気ぃ付けてお布団入らねばいけんでしょお?」

「そいば、ちょこーっとさみしかけんね。
起きとってくれて、うれしかと」

「本も、ちゃあんともってきたとよ?
読み聞かせば、してあげるための本」

「ほんとはね? もー一冊、
読み聞かせてあげたい本もあったんよ」

「ばってん、その本ば、ひーちゃんにも大事な本やけん。
ひーちゃんが、読み聞かせばすることあったら、
きっとその本、選ぶだろうなって思うたけん」

「やけん、ウチは、
ウチひとりだけの思い出の本――選んできたと」

「この本はねぇ、ウチがこどもだったころ、
父さんからも母さんからも、じーさまにも読み聞かせてもらいよった本」

「そん中でもね? じーさまに読んでもらうんが、
ウチは、一番好きだったとよ」

「じーさまみたいには絶対には読めんけど。
でも、楽しさば、きっと伝わるって思うけん」

「そうしたかったら、目ば閉じて。
想像しながら、聞いてみて?」

「ほんなら、読むとね」

「『ネコ岳の猫』」



;以下の『』で始まる部分は、読み聞かせ
;「」ではじまる部分は、その間の会話です

『むかしむかし、クマ川のほとりの小屋に、
新三郎という若い漁師が、年老いた母と、クロという名の黒猫と、
つましく暮らしておりました。』

『母が病に倒れてしまい、薬がいるようになりました。
新三郎のつましい暮らしは、みるみる苦しくなりました』

『クロはネズミを毎晩のようにとってきますが、自分で食べるはのお魚ばかり。
もちろん新三郎の方でも、ネズミをごはんにはできません』

『おかずを減らして、漁に出る日を増やして、それでも。
もとから乏しい蓄えは、ついに無くなってしまいました』

『その晩、新三郎は決心しました。
「クロやクロ。お前をこれ以上飼っておけない。
船頭さんがもらってくださるとのことだから、
舟のネズミを退治して、そこで幸せになってくれ」』

『あくる朝、
耳の後ろの毛をていねいになでつけてやり、
新三郎は船頭さんに、クロを渡してしまいました』

『夜が更け、ひどくさみしい思いでおりますと、
「にゃあん」と甘えた声がします。
まさかと思って戸を開けたなら、クロがちょこんと座っております』

『クロやクロ、帰ってきてはいけないよ。
船頭さんのところで、新鮮なお魚をいただきなさい』

『けれどもクロはそのまま眠ってしまいます。
仕方がないので、一晩泊めて、
船頭さんのところに送りとどけますと、
船頭さんはかんかんに怒っていいました』

『「この猫ときたらネズミの一匹もとりゃしない。
無駄飯ぐらいをおいとく余裕はウチにもない」』

『「クロやクロ。
お前は家に帰ってきたくて、わざとネズミをとらなかったのか」』

『聞いてものんきに毛づくろい。
新三郎はクロをかわいく思いましたが、
やはり養ってはおけません』

『あくる朝、新三郎はクロをつかまえ、言いました。
「クロやクロ。焼酎蔵の杜氏さんが、お前のことをほしがっている。
焼酎蔵なら、猫がいるだけでネズミは逃げる。仕事もせずに、居るだけでいい」』

『今度こそはお別れだと、
耳の後ろの毛をていねいになでつけてやり、
新三郎は焼酎蔵の杜氏さんに、クロを渡してしまいました』

『夜が更け、ひどくさみしい思いでおりますと、
「にゃあん」と甘えた声がします。
まさかと思って戸を開けたなら、クロがちょこんと座っております』

『「クロやクロ、帰ってきてはいけないよ。
杜氏さんのところで、お米のおまんまいただきなさい」』

『けれどもクロはそのまま眠ってしまいます。
仕方がないので、一晩泊めて、
杜氏さんのところに送りとどけますと、
杜氏さんはかんかんに怒っていいました』

『居つかぬ猫ならおらぬも同じ。
おまんま喰わせる義理もなし』

『「クロやクロ。お前は家に帰ってきたくて、
ひとときもじっとしなかったのか?」』

『聞いてもにおいをかぐばかり。
新三郎はクロをけなげに思いましたが、
やはり養ってはおけません』

『あくる朝、新三郎はクロをつかまえ、言いました。
「クロやクロ。いよいよ遠くお別れだ。
山のお寺の住職さまがもらってくれるとおっしゃるから、そこでお世話になってくれ』

『山を越えては帰ってこれまいと、
耳の後ろの毛をていねいになでつけてやり、
新三郎は山のお寺の住職さまに、クロを渡してしまいました』

『その晩も、その次の晩も、さみしい気持ちでおりますと、
「にゃあん」と甘えた声がします。
まさかと思って戸を開けたなら、葉っぱだらけになったクロが、ちょこんと座っております』

『「クロやクロ、帰ってきてはいけないよ。
ご住職さまのところでたんと、ありがたいごはんをいただきなさい』

『けれどもクロはそのまま眠ってしまいます。
仕方がないので、一晩泊めて、
山のお寺に送りとどけますと、ご住職さまはクロにいいました』

『お前さんほど賢い猫ならわかっておろう。
今のままでは新三郎の暮らしは立たぬ。
お前さんは[安蘇'あそ]のネコ岳で修行して、
一人で暮らしを立てられるようになりなさい』

『するとクロは、ご住職様の話がわかったように、
新三郎の手を抜け出して、ちょこりと頭をさげました』

『そのまますたすた、安蘇の方へと歩きますので、
思わず新三郎は追いかけました』

『「クロやクロ。安蘇のネコ岳はずいぶん遠い」
新三郎は、売り物の魚が入ったカゴを開いて、
鮎を三尾、てぬぐいに包んでやりました』

『「この手ぬぐいと、三尾の鮎がはなむけだ。
無事にネコ岳にたどりつき、立派な暮らしをたてるのだぞ」』

『鮎を包んだ手ぬぐい背中にしょわせてもらい、
クロは「にゃあん」と一声ないて、すたすた、すたすた。
すぐに見えなくなりました』


「あー……」

;すん=鼻すする
「ちょっと……ちょこぉっと、ごめんねぇ。
(すんっ――)」

「あ~……おねーちゃん、ここんとこ――
こぎゃん話ば――思い出しちゃって、弱かとよ」

「猫ね? 右田の蔵にじゃなくて。
右田の家にもおったんよ。
ひーちゃんが、まだ学園に入園もしとらんような、そぎゃんころ」

「ウチがものごころついたときには、
もーずいぶんなおじいちゃんネコで。
けど、ウチにとっては、おにいちゃんみたいな存在で」

「遊んでもろうて、添い寝してもろうて、
怖か犬、追い払ってくれたこともあって」

「木登りも、トムさん待っとってくれるんよ。
先に登って、こっち見て、
『まだ来ないのか?』って感じの顔で」

「あ、トムさんって、猫の名前。
ハイカラでしょ。じーさまがつけよったって」

「オールド・トム・オブ・ミギタが、フルネーム。
[詠国'えいこく]かなにかの、お話にでてくる猫の名前って、
オールド・トムば」

「それこそ、絵本とかもね? ぜーったいに邪魔したりせんの。
いっしょうけんめい読んどるとなりで、寒か季節には、
ぴったりくっついてくれたりもして」

「あったかかったなぁ、トムさん。
おとなになっても、いつかお嫁さんになるときだって、
すうっと一緒って思うとった」

「ばってん――ずうっと一緒には、いれんよね。
だんだん、トムさん遊んでくれんよーになって」

「猫が遊ばんよーになるって、相当よね。
けど、こどもだったけん。
そぎゃんこつの意味もまだわからんで――
いつもみたいに、その日もふつーに学園ば、いって」

「かえってきたら……トムさん、亡くなっとったんよ。
毛布にすっぽりくるまれて、寝てるのかなぁって思ったら。
冷たくなっとって」

「その日はじいさま、おらなくて。
父さんと母さん、ふたりして泣いとって。
びっくりしてびっくりして――悲しいよりもびっくりしちゃって」

「話ね? 聞かんでも、聞かせてくれるんよ。
母さんも、父さんも。トムさんのこと、ぽつり、ぽつりて」

「だんだん弱って、最近寝たきりだったとか。
痛いとこあって、にゃーにゃー悲鳴あげとったとか」

「その悲鳴も、最近は細ぉなってきとったとか。
……ウチはそれでも、ビックリしすぎとったから、
ふーんて、なんとなーく聞いとって」

「それでね? 次の日も学園、ネコで[忌引'きび]きはできんもんね。
ふつーにあるけん、ふつーに行って」

「算数の授業で、『わかる人』って先生おっしゃって、
『はい』って手ばあげて、黒板の前いって、チョークもって」

「式ば、書きよるときにね? ふうって、
ほんとにふうって思ったんよ。
“あれれ? おかしいな”って」

「トムさん、寝たきりだったって――
ばってん、ウチが学園ばいくときには、
ふつーに見送ってくれとったんよ」

「玄関のとこまでのこのこ来て、
振り返ってもいてくれて」

「そん光景ば思い出してね?
思い出したら――ぶわーーーーって。
悲しいの、一気にきちゃって」

「トムさん、無理してくれてたんだって、思うて。
ウチに心配かけんよう、平気なふりばしてくれてたって」

「ウチが一緒にいるときは、どぎゃんと痛い思いしてても、我慢して。
ウチが不安になるような鳴き声、
ただの一度だって、聞かせんでいてくれたって」

「わかっちゃったら、もうダメで。
泣いて泣いて、人生であれほど泣いたことって無いくらい泣いて」

「そうしたら先生、『わからないなら無理しなくてもいいですよ』とかいうんよ。
それがまた、悔しいみたいで悲しいみたいで――って、あ」

「いけんねぇ、うち。なぁんの話ばしとるんかねぇ」

「読み聞かせばしてほしい、だなんて……
疲れてるってことでしょお?
やけん、クスっできるお話、選んだつもりだったとに」

「いけんいけん! 仕切りなおし、ね?
おねーちゃん、今度はちゃんと、
ちゃんと、最後まで読み切るけん」

;息吸う
「(すうっ)――うんっ!」


『三年が過ぎ。新三郎の母の病気が癒えました。
暮らしもだいぶん上向きになり、たくわえもいくらかできました』

『「安蘇のネコ岳にいってくる。
クロがいたなら、連れ戻してくる」
そう言って、新三郎は安蘇への旅に出かけます』

『ネコ岳に登りしばらくすると、霧がたれこめてまいります。
霧はみるみる濃くなって、新三郎は道に迷ってしまいます』

『「これは困った。どうしよう」
あてなくトボトボ歩いていると、遠くに灯りが見えました。
灯りを頼りに進んでいくと、古いお屋敷が見えました』

『ごめんください。ごめんください。
道に迷ってしまいました。霧が晴れるまで、休ませてはくれませんか』

『すると奥から、女の人が出てきました。
「ネコ岳の霧はあたたかくなるまで晴れません。
今夜は泊まっておいきなさい」』

『「それはありがたいお話ですが、猫の修行[場'ば]を探しています。
いっこくも早く着きたいのです」』

『「猫の修行場なら近くです。霧が晴れたら案内しましょう。
この霧では地元のものとて、ガケから落ちてしまいます」
そこまで言われてしまっては、出かけることはできません』

『「そういうことなら、一晩泊めていただきたい」
「こまったときはお互い様です。お風呂も食事もご遠慮なさらず」』

『長い長い廊下を通り、奥の座敷に通されます。
まずは風呂でも、と、長い長い廊下を歩くと、
すれ違った女中さんが、ひどく驚いた顔をします』

『「あらお懐かしや、新三郎さん」
「はて、どこかでお会いしましたか」
「鮎を三尾、この手ぬぐいに包んでいただきましたものです」』

『「なんと、クロか!
人間の姿になるとは、修行がうまくいったのか」
そう尋ねると、クロはきょろきょろ、あたりを伺い、囁きます』

『「修行がうまくいきまして、今はすっかりネコマタです。
名前も姿も変わってしまいました。もう人の世には戻れません。
新三郎さんはお逃げください」』

『「逃げるとは?」
「このお屋敷のものを食べたり湯につかったりした人間は、[窯猫'カマネコ]にされてしまいます。
窯猫にされてしまったら死ぬまで働かされるのです」』

『クロは新三郎を裏口から出し、手ぬぐいを一本渡します』

『「この手ぬぐいをお返しします。ネコマタのまじないをしておきました。
この手ぬぐいで口をふさげば、ネコ岳の霧には迷いません」』

『「もう人の世に戻れぬのなら、さよならか」
「さようならです、新三郎さん。
最後に一度、『クロや』と呼んでくださいな」』

『「クロやクロ。ネコマタの決まりが変わったら、
いつでも帰ってくるのだぞ」』

『耳の後ろなでてやり、新三郎はクロと別れて、
てぬぐいで口をしっかりおおい、ネコ岳をひたすら降りておきました』

『「お待ちなさい」
「おとまりなさい」
追いかけてくる声が近づきます』

『もちろん、待ちも止まりもしません。
新三郎は必死になって駆け続けます』

『「逃げ切られます、猫旦那様」
「えい仕方がない湯をかけろ!」』

『湯につかったら、窯猫にされて働かされる。
クロの言葉を思い出し、
新三郎は、てぬぐいかざして傘にします』


『ざばあっ!』


『しぶきがいくらかかかりましたが、
ネコマタのまじないのおかげでしょうか、ほとんど濡れずに済みました』

『新三郎は、そのままふもとの村におり、
ひとごこちつき、やれやれと顔をぬぐいます』

『「あ」。
手ぬぐいはまだネコマタの湯で濡れたままです』

『ぬぐってしまった口元からは、
猫の毛が、ぼうぼう生えてきましたとさ』

『そいばっかり!』



「はい、おしまい。
『そいばっかり』は、『それで全部』っていう意味やけん」

「ばってん、じいさまが朗読ばしてくれるときには、
『そいばっかり』がね?
もーちょっとだけ、先だったんよ」

「じいさまはねぇ、読み聞かせばしてくれるおき。
ほんとに手ぬぐいば用意して、
口のまわりば、つかれたーって感じにぬぐって」

「そいで『あ!』って、おおきな声で言いなさるんよ」

「『ぬぐってしまった口元からが、
猫の毛が、ぼう生えてきましたとさ』って。
そこまで読んで、手ぬぐいば口からはずして」

「『こおんな風にな!』って、あのおひげ!
ぼうぼうなおヒゲを見せるもんやけん、
ウチもう、おかしくて楽しくて!」

「それからしばらくは。
男の人のおひげみるたび、
『ネコ岳いってきたとかなぁ?』って、思うとったと」

「実際あるんよ? 安蘇に、ネコ岳。
寝る子供の山岳、って書いて、ねこ岳」

「じいさまにお願いして、
ウチもいっかいだけいったことあると」

「そんときも霧がでたばってん、
ネコの修行場――みつからなくて」

「見つかったら……ね?
トムさんに会えるかなぁ、とか。
こどもやったけん、ちこょーっと、本気で思とったかも」

「……いつか、いこうね? ネコ岳にも、ほかのとこにも。
ふたりで一緒に」

「思い出の場所、ぜぇめぐって、新しか思い出の場所ばつくって」

「ふふっ、ウチは杜氏やけん。
そぎゃんと旅ができるころには――
杜氏ば、引退しよるころには、もうおばあちゃんになっとろーけど」

「ああ……ゆーやらなーんか、もうおねーちゃん年なのかなぁ?
読み聞かせしとったときにへ?
昔のことば、どんどん思い出してきちゃって」

「思い出とかは、傘やけんねぇ。
冷たか雨ば、しのぐ分には便利のよかけど――」

「ばってん、さしすぎてたら、
おひさんば照りだしてきたことにも気づきそこなうけん」

「やけん。思い出話ばもうおしまい!
夜もずいぶん、更けてきとるし」

「ん……んーーーー、んっ!
そぎゃん思うたら、急に眠たくなってきたとよ」

「だっこ、おふとんの中でしてあげよおね。
だっこして、いいこいいこして」

「遠慮せんで、おいで?
毎日毎日がんばっとるんも、
疲れとるんも、わかっとるけん」

「うふふ、かわゆか。
いいこいいこ。いいこいいこ」

「たーっぷりゆっくり甘えてよかとよー。
あ、そうだ。ね、まぶた、ちょこーっと触るねぇ」

「ん……よいしょ」」

「ど? おねーちゃんの手、あったたかとでしょ?
こいで、まぶたば軽ぅく押して――」

「気持ちよかよねー? 
おねーちゃんも知っとるんよ? そん気持ちよさ。
してもらうけんね、ひーちゃんに。
あの子も手、ぽかぽかやけん」

「他のところも、ぽかぽかの手でさわってあげる。
つかれてるとこ、たくさんたくさん、なでなでしてあげる」

「いいこいいこ、なでなで、なでなで。
がんばっとるねー。なでなで、なでなで」

「あたまもなでなで、おかおもなでなで、
おてても、おなかも、あんよもなでなで」

「ん……ふ。んふふ。
すっごく、しあわせ、
なでとるおねーちゃんの方が、癒されちゃってる」

「良かね、恋って。
好きな人といっしょにいるって、すごかこととね」

「しあわせ、ぽかぽか。
このしあわせにくるまれたまま――眠りたかと」

「ん……」

「ぎゅうってすると、あったかとねー、眠たかとねー、
ふたりでおるんは、しあわせとねー」

;あくび
「ふぁ……あ……あー」

「あー、しあわせすぎて、おねーちゃん、結構本気でねむたかと。
やけん、いっしょに――このまま寝ようねぇ」

「手。つなご? つないだまま寝て……
うふふっ、起きたときにもつながっとったら、すごかとねぇ」

「それじゃあ、眠るね? 
手ばつないだまま。このまま、このまま――」

「おやすみなさい」

;終


///////////////


ご堪能いただけましたでしょうか!

これを! 真闇姉が読み聞かせしてくれる!!!

破壊力抜群すぎるかと思います!!!


というわけで、いよいよ次回は7本中の7本目! 大トリ! 稀咲先輩でございます!

ご期待ください!!!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

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whisp 2020/05/29 23:02

【収録台本】まいてつ:凪読み聞かせ『清柾公(せいしょこ)さんの虎退治』(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!!!

あやかし郷愁譚の購入特典で
https://www.dlsite.com/maniax/promo/ayakashinostalgia

『まいてつ読み聞かせボイスドラマ』 全7話

が、18作品コンプリート特典としてついてくることになりました!!!

内訳は以下の通りです!

・日々姫 「長靴をはいたネコ」
・ポーレット 「犬が言葉をなくしたおはなし」
・れいな 「炭鉱の白犬」
・ふかみ 「うさぎのもちつき」
・凪 「清柾公(せいしょこ)さんの虎退治」
・真闇 「ネコ岳の猫」
・稀咲 「きつねのみそしる」



というわけで、本日も台本をご紹介させていただきます!

前回はふかみちゃんによる 『うさぎのもちつき』をご紹介いたしましたので、
今回はもちろん凪様! 『清柾公(せいしょこ)さんの虎退治』をご紹介申し上げます!

このだきまくらカバーの凪さまのおしっぽ。ラフのときには虎縞あったんですよね~!
製品版でなくなった理由はめっちゃわかる(警戒色なんで目が引っ張られちゃって邪魔)のですけれど、そこも含めて凪さまっぽいのになぁ、と、わたくしは惜しく思っておりました!

ということ(?)で、台本です!

ぜひぜひ!!!

///////////////////////////////////

;以下、セリフは全て凪
;タイトルコール

「蓑笠凪、とらランジェリー抱きまくら特典ボイスドラマ
『凪の読み聞かせ「[清柾公'せいしょこ]さんの虎退治』」

;*きよまさこう、とルビあるところ以外は、すべて「せいしょこさん」でお願いします


;本編


「にーさん、もちょっとつめるばい。
凪さまこれじゃあ はみ出しちゃうけん」

「ん――しょ、よいしょ!
ん。こいならばっちり、心地よかとよ」

「にーさんの体、ぽかぽかやけんね。
どぎゃんとお布団よりも、ぬくかばい!」

「ふあーあ、あんまり気持ちよかけん。
このまま、寝ちゃいたい気になってきたばい!」

「えへへへー! 、ウソばい! 冗談ばい!
まだまだ凪さま寝たりせんとよ?
約束の読み聞かせ、ちゃあんと用意してきたけんね!」

「じゃじゃん! こいばい!!
『清柾公さんの[虎退治'とらたいじ]!』」

「年季ば入っておるでしょー!
とーちゃんも読んでもらっとった、ってご本やけん。
古かとよねー。ボロボロばい」

「ばってん、凪さまもこのご本大好きやけん、
じーちゃんに習って、自分でボロかとこ直したとばい!」

「ここんとこ、ね? 補強してあるのわかるとよ?
こいば、凪さま自分でなおしたとこばい」

「そんくらい、何度も何度も読んでる本ばい。
最近も、ときどき――ひと月に一回くらいは読んどるばい!」

「いまはおおきくなったけん、自分で読むばってん……
ちいちゃかころは、
それこそ、読み聞かせしてもらっとったばい」

「とーちゃんもじーちゃん、こんご本読み聞かせてくれよったと。
かーちゃんやばーちゃんは、いろんなお話読み聞かせてくれたばい」

「とーちゃんとじーちゃん、ぜーぜん読み方違って、
そしたら、おはなしのおもしろいとこも変わって聞こえて、
ふしぎで、おもしろかったばい」

「ふっふーん。今日は凪さま、凪さま流で読むけんね!
にーさんがどこば面白がるか、とってもとっても興味あるばい」

「それじゃあ、読むとよー!
『清柾公さんの虎退治!』ばい!!」



;以下の『』で始まる部分は、読み聞かせ
;「」ではじまる部分は、その間の会話です

『[清柾公'せいしょこ]さんは、隈元のお城を建てた殿様です』

『本当の名前は[清柾公'きよまさこう]。
でも、男の人も女の人も、みんなが殿様を、
「せいしょこさん」と呼んで親しんでおりました』

『それがなぜかといいますと、清柾公さんは、
シラかわとツボイがわの流れを良くして、
隈元の洪水をとても少なくしてくれたからです』

『川の流れを変えるのは、大変な難工事でした。
男の人も女の人も、お仕事がないときにはかりだされ、
来る日も来る日も来る日も工事を手伝いました』

『だけれど、工事のお手伝いをいやがる人はいませんでした。
おいしいごはんと、よい手間賃が出たからです』

『そのうえときどき、本当にときどきですけれど、
清柾公さんがみまわりをして、声をかけてくれることまであったのです』

『シラ川とツボイ川の流れがよくなって、
隈元のお城がたって、みんな、安心して、
ゆたかな暮らしができるようになりました』



「にーさん、知っとる?
シラ川とツボイ川って、今の隈元城があるあたりで、
もともとは合流ばしとったんだって」

「けど、清柾公さんが川の流れをかえて、
シラ川を、もっと上流の方からまっすぐな流れにしよったって」

「そしたらシラ川、お城の守りになるでしょお。
川の流れば変えて、洪水ば減らしよるのと一緒に、
お堀ば掘るかわりにもしよったとよ!」

「そんついでに、田んぼの水路もぜぇんぶ整え直したって。
いまでも隈元の田んぼの水路、清柾公さんがつくったの、
もとのまーんまで、たくさんつかわれとるって話ばい!」

「清柾公さん、すごかとよねー! あったま良かとよねー!
やけん、清柾公さんは、隈元だけじゃなく、
[日ノ本'ひのもと]のいろーんなとこで、『土木の神様』っても
呼ばれとるってって、じーちゃん教えてくれたばい!」

「いまもきっと、隈元のあちこち、清柾公さんが見守ってくれとるばい!
凪さまときどき、そういうふうにかんじるばい!」

「でもでも、清柾公さんが神様なんは、
土木の話だけじゃなかとばい!」

「そこんところば、これから読むけん。
寝たらいけんよ? 耳の穴ほじって、よぉ聞くばい!」



『そんな優しい清柾公さんも、戦になるとガラリと話が変わります。
お仕えしていた[太閤'たいこう]様の大いくさに、いくつもいくつもくわわって、
大きな手柄をあげました』

『[題目旗'だいもくばた]は鮮やかな「南無妙法蓮華経」の白抜き文字。
またがる馬は[帝釈栗毛'たいしゃくくりげ]、かぶるは[長烏帽子形'ながえぼしなり]兜』

『手には[十文字'じゅうもんじ]三日月槍をさげ、
まとうは[金小札色々威片肌脱胴具足'きんこざねいろいろおどしかたはだぬぎどうぐそく]』

『金小札色々威片肌脱胴具足は、その名のとおり、
片肌がべろりと脱げている具足――よろいです』

『片肌がべろりと脱げているために、
骨や肉が、まるで丸見えのように作られています』

『大男の清柾公さんが、骨や肉が見えるような具足をまとう姿は恐ろしく、
足軽たちはもちろんのこと、名だたる武将も震え上がってしまったほどです』

『日ノ本にはもう、清柾公さんの敵はいません。
太閤様は清柾公さんに命令をして、よその国へと攻め込ませました』

『よその国では、虎が暴れて人々を困らせておりました。
清柾公さんは、ならば虎退治をしてやろうと考えました』

『清柾公さんが十文字三日月槍を引っ提げて、虎退治に出かけようとすると、
鉄砲名人の[太郎左衛門'たろうざえもん]が止めました』

『「[清柾'きよまさ]公 [御自'おんみずか]らがお出になることはありませぬ。
それがしのこの鉄砲で、虎めを退治してご覧にいれましょう』

『そこで清柾公さんは、太郎左衛門に虎退治するよう命令しました。
山に入って、[一晩、二晩'ひとばんふたばん]。
虎はなかなか出てきません』

『太郎左衛門はかんかんに怒って、
「虎め虎め、この太郎左衛門に臆したか」と、ののしりますが出てきません』

『清柾公さんは、火薬のにおいを虎がいやがっているのかもしれぬと気が付きました。
そこでかおりの強いはっぱで、しけらないよう気を付けて、火薬を全部包ませました』

『するとノッソリ、大きな虎があらわれました。
[十尺'じゅっしゃく]もある大きな虎です。目方も[百貫'ひゃっかん]ありそうです』

『太郎左衛門は[臆'おく]しません。
「おまかせあれ」と一声発し、火薬を詰めてほくちを切って、鉄砲を慎重に構えます』

『じりじり、虎が近づきます。
太郎左衛門はじっと待ちます。
一撃ちで眉間を撃ち抜かねば、こちらの命がありません』

『あと[一間'ひとま]。太郎左衛門は引き金に指をかけます。
そのとき、「ごおおおおおおおお」
虎が大声で吠えました』

『(ぱあん!)
思わず太郎左衛門は、引き金を引いてしまいます。
鉄砲の弾がかすりましたが、虎はものともせずにごうごう走り寄ってきます』

『「南無阿弥陀仏」。太郎左衛門は転んでしまってもう動けません。
虎はぱっくり口を開けます。』

『「虎めが、この[清柾'きよまさ]の槍を恐れぬか!」
清柾公さんが一喝すると、虎はびくりと退きました。
太郎左衛門もびくりとし、体が動くようになりました』

『その機をのがさず、
太郎左衛門は鉄砲を捨て、命からがら逃げ出しました』

『「面目次第もございません」
頭を下げる太郎左衛門を、清柾公さんはほめました』

『「おかげで虎めの戦い方を見て取った。
知らずにもしも戦っていたら、ワシとて危うかったやもしれぬ」』

『太郎左衛門は感激[至極'しごく]。
お尻をうった傷の薬もいただいて、屋敷に帰っていきました』


『太郎左衛門の[敵'かたき]も討たねばなりません。
清柾公さんが、虎退治に出かけようとすると、
刀の達人、[次郎左衛門'じろうざえもん]が止めました』

『「[清柾'きよまさ]公 御自らがお出になることはありませぬ。
それがしのこの名刀で、虎めを退治してご覧にいれましょう」』

『そこで清柾公さんは、
「虎は大声で脅してくるゆえ、気をつけよ」
と伝えたうえで、次郎左衛門に虎を退治するよう、命令しました』

『山に入れば、今度は一晩も探さずぬうちに、虎の方から出てきます。
「虎めが、人を甘く見たか」
次郎左衛門は刀を構え、じりじり虎に近づきます』

『あと一間。
「ごおおおおおおおお」
虎が大声で吠えました』

『けれども次郎座衛門は、清柾公さんの教えを聞いておりました。
ひるまず進んで、刀を一閃。
虎をしとめたかと思った刀は、けれども空を切っています』

『「なんと虎めは、頭を引くのか」
驚く間もなく、虎は次郎左衛門にガブリかみつき、
ぶん、と体を投げ飛ばします』

『「南無阿弥陀仏」。次郎左衛門はもう動けません。
虎はぱっくり口を開けます』

『虎めが、この[清柾'きよまさ]の槍を恐れぬか!」
清柾公さんが一喝すると、虎はぎくりと止まりました。
次郎左衛門もぎくりとし、体が動くようになりました』

『その機をのがさず、
次郎左衛門は名刀を捨て、命からがら逃げ出しました』

『「面目次第もございません」
頭を下げる次郎左衛門を、清柾公さんはほめました』

『「おかげで虎めの戦い方を見て取った。
知らずにもしも戦っていたら、ワシとて危うかったやもしれぬ」』

『次郎左衛門は感激[至極'しごく]。
虎につけられた傷の薬もいただいて、屋敷に帰っていきました』


『太郎左衛門の敵にくわえ、次郎左衛門の敵も討たねばなりません。
清柾公さんが、虎退治に出かけようとすると、
「虎めに勝つるは[清正公'きよまさこう]のみと、
家臣たちは揃って清柾公さんについていき、応援をすることに決めました』

『山に入ろうすればそこには、虎がいます。
「虎めが、人を舐めきったか」』

『清柾公さんは、十文字三日月槍を構えます。
じりじりと、虎をにらんで間合いを詰めます』

『「ごおおおおおおおお」
虎が大声で吠えました』

『けれども清柾公さんは、太郎左衛門の失敗を覚えておりました。
ひるまず前に突き進み、十文字三日月槍をひと薙ぎします』

『薙いだかと思った槍は、けれども空を切っています。
「虎めが頭をひくことも、次郎左衛門に習い知ったぞ!」
清柾公さんは慌てず槍を小回しし、引いた頭にえいやと突きます!!』

『「虎めが、この[清柾'きよまさ]の槍に恐れいったか!」
虎はもう、吠えることも逃げることもできません。
口をぐっさり、十文字三日月槍に貫かれています』

『けれども虎も、さすがは十尺百貫です。
どうせ死ぬならせめて一噛み咬み返そうと、
十文字三日月槍に噛みついて、片刃をバキリと咬み折ります』

『「もがき苦しませるも哀れよ」と、
清柾公さんは腰から刀をずらりと抜いて、虎の[素首'そくび]を掻っ切って、
見事に退治を果たしました』

『息絶えた虎の口から十文字三日月槍を引き抜けば、
咬み折られた片刃は虎に呑まれてしまっています。
十文字から片刃が消えて、[片鎌槍'かたかまやり]となりました』

『清柾公さんは、「この片鎌こそ[武門'ぶもん]の[誉'ほまれ]」と喜んで、
虎の毛皮と一緒に大事に、[日ノ本'ひのもと]の国に持ち帰りました』


『片鎌槍と虎の毛皮を太閤様は大いに喜び、
褒美をたぁんとくれましたとさ』

「『めでたしめでたし』――ばい!」

「にーさん、わかったと? 
清柾公さんは、槍を使こぉて虎退治ばしよったけん、
土木の神様だけじゃなく、槍の神様でもあるとばい!」

「清柾公さんのつかっとった槍ば、
帝都の帝立博物館に飾られてるって話ばい。
とーちゃんば、『見たことある』って、自慢しよるばい!」

「虎の歯のあとかもしれん、
おっきなおっきなえぐられきずが、
片鎌になったとこん根元に、今も残ってるって話ばい」

「やけん、凪さま、帝都にいったら、
絶対に帝立博物館、ふかみちゃんさそっていくって
むかしから決めとるばい!」

「もちろん。にーさんも一緒ばい!
にーさんと凪さま……だって……だって、その……
恋人同士、……やけん。ねぇ?」

「うひゃー!
てれるばい! てれまくるばい! てれくさかとばーい!」

「……こんお話ば、何度も何度も聞かせてもらって、
ちっちゃかころの凪さまは、おっきくなったら、
絶対絶対、槍ば習うって思うとったばい」

「けど、槍ん道場、御一夜にはなかったとばい。
クマの方にもなかったとばい」

「隈元の方も、鹿兒島の方も、
とーちゃんが探してくれたばってんも、
結局は見つからんかったばい」

「やけん、ちっちゃかころの凪さまは、
清柾公さんが十尺百貫の虎ににとどめばさした、
刀の方でだきょーすることに決めたばい!」

「ばってん、清柾公さんがどぎゃん剣術場ならっとったか、
とーちゃんにきーても、じーちゃんに聞いてもわからんかったけん、
そこは、凪さまいっしょうけんめい考えたいばい」

「清柾公さんは、隈元の殿様やけん。
隈元で一番さかんな剣術が、きっと、清柾公さまの剣術ばい!」

「そいで凪さま、バイシャ流剣術習うことにしたとよ。
道場ば、ご近所にあったのも都合よかったけん」

「道場のお師匠さんば、そんときはよぼよぼのおばあちゃんだったばい。
けど、めっちゃくっちゃ強くて、凪さま、一本もとれんかったばい」

「そんばーちゃんが亡くなって、いまのお師匠さんになったばってん、
いまのお師匠さんからも、凪さま、まだ一本もとれとらんばい」

「お師匠さんにも、清柾公さんにも、
なかなかなかなか近づけんとねー」

「近づくどころか、まだまだ凪さま、
ウサギのいっぴきも捕まえられんとよ」

「ウサギ、学園の校庭に紛れ込んできたことがあると。
ふかみちゃんと、体育の授業ば受けとったとき」

「先生すっごくはりきって、『兎をつかまえたら、体育の成績を5にしてやるぞ』
ってゆうたけん、みいんな、めちゃくちゃ走って追っかけまわしよったばい」

「ばってん凪さま、体育だけはずーっと5ばもらっとるけんね。
最初はだまってみとったと」

「ばってん――ふかみちゃんの目がキラキラ凪様のこと見よるけん……
捕まえてあげよーって思ったとばい」

「それに、『もがき苦しませるのも哀れよ』って、
清柾公さんもゆーとったけんねー」

「凪さまが、さくってウサギば捕まえて、
それでお山に離してやって、騒動さっさっとおわらさえたげよーって、
思ったとばい」

「ばってん――ウサギもやっぱり、野の獣なんねぇ。
凪さま、本気でおっかけたけど、しっぽにも触れんかったばい」

「あと一歩、ってところで急に方向かえよるばい!
耳とか、もうちょっとでさわれそうなのに、
ぜったいぜったいさわれんとばい!」

「それが残念でくやしくてまた修行して――
えへへ――
修行のおかげで、にーさんとあえて、こおんなに仲良くなれたけん」

「清柾公さんにも。お師匠さんにも、ウサギにも、
凪さま、大感謝せんといけんとねー」

「……にーさんと会えて毎日が、、とっても、とっても楽しかばい!
楽しかばってん、ときどき、ちょっと苦しくなるばい」

「剣術の試合のときの、胸ばキューっとするのより、
にーさんといるとときどき、ずっと、もっと胸ばキューってして」

「そいば、すっごく苦しかばってん、
甘かとちょこっと混じっとるばい。
甘かとを、凪さま、強ぉにしたかけん――」

「やけん、凪さま――――えいっ!」

「こぎゃんして、にーさんに抱きついて、
顔ば、すりすりってしたりして。
胸、そうしたら、キューって苦しいが弱くなって
ふわふわ甘いのが強ぉなって来よるばい」

「それしたら今度は、甘いのばもっとほしくて、
ものたりないって思っちゃうけん。
やけん――凪さま――凪さま――っ!!!」

:リップ音
(ちゅっ!))

「うひゃああ! なんでも、なんでもなかばい!
凪さまなーんもしとらんばい!
お布団、ばふーってかぶっちゃうばい!!」

「……………………あ」

「お布団のなか、にーさんのにおいでいっぱいばい。
にーさんのからだで、ぽかぽかばい」

「……凪さまちょっと、はりきって、
しゃべりすぎたかもしれんばい。
すこぉし、眠たくなってきたばい」

「思い出したと……
ちっちゃかころにも、こおんな風にねむくなったばい」

「じーちゃんが読んでくれたときにも。
とーちゃんが読んでくれたときにも。
ぽかぽかあったか、しあわせに眠くなったばい」

「……凪さまにもいつか、にーさんとの赤ちゃんばできたら。
凪さまがいつか、にーさんとの赤ちゃんのおかーさんになったら」

「赤ちゃんのこと、こおんなふうにしあわせな、
ぽかぽかあったかねむたい気持ちに――
ちゃあんとしてあげられるように、なりたかと」

「そいも、きっと修行ばいね。
剣術の修行とおんなじくらい――
もしかしたらもっとむつかしい、おんなのこの修行ばい」

「そしたら、ふかみちゃんをお師匠さんに――
あ! だめばい! そいば、よしとくばい!!」

「だって、ふかみちゃんにおしえてもらったら。
そいば……そいば、ふかみちゃんの、おんなのこの気持ちでしょお」

「凪さまだって、おんなのこばい。
ちゃあんと自分のおんなのこの気持ち、もっとるけんね」

「ばってん、そいば……
まだまだ凪さま、どぎゃんかたちかよぅわからんけん。
ようわからんけん、あつかいようも、しれんけん」

「やけん――
にーさんに、にーさんだけに、見てもらえたら、うれしかと」

「凪さまのおんなのこの気持ちば、
どぎゃん形か、どぎゃんと色か、
にーさんが見て、教えてくれたら」

「そしたら凪さま、いまよりきっと。
――もう少しだけ、おんなのこらしくなれるけん」

「凪さまの恋のお師匠さんは……
やけん、たったひとりでよかとよ」

「じーちゃんもとーちゃんも、
最初のお師匠さんも今のお師匠さんも、
ふかみちゃんだって、こればっかりはごめんばい」

「恋の修行ばつけてもらうの、にーさんの他はいやばってん。
凪さまの恋の修行の相手なら、
にーさんの他には、おらんけん」

「やけん、ずっと、ずっと、ずうっと。
にーさんと一緒に修行して、くたくたになって一緒にねむって。
そぎゃんして、いまより大人に、なっていきたいって――思うばい」

「ふぁ――あ――ああああ。
わわわ、おーっきかあくびがでちゃったばい」

「しゃべりすぎで、はしゃぎすぎばい。
凪さま、ちょこーっとつかれてしまって……眠たかと」

「……やけん――ねるけん――
ねるまえに、もう一本だけ――
おんなのこの修行、がんばるばい」

「あんね?  にーさん。凪さま……ウチ、ね?」

「にーさんのこと。
前よりずっと、昨日よりもっと、好いとーよ?」

「やけん、明日は、ねむっておきたら、
今日よりもっと絶対に、にーさんのこと、好きになるけん!」

「うわわ、こいば、照れくさかとねー!
照れくさいのが、しあわせばい!」

「しあわせいっぱいで眠るばい!
えへへ、おふとん、さっきよりももーっとあったかばい!」

「……あんね? にーさん」

「にーさんが、眠って起きて、むかえた明日に。
にーさんも、今日よりもっと、隣でねてる凪さまのこと――
あの、えっと……す、好き……好いて……ふわわ!」

「なんでもなかばい! ねごとばい!
これ以上おきとったらなにゆっちゃうかわからんけん。
ほんとに、ほんとに、ほんとにねるばい!」

「それじゃあにーさん、凪さま、ねるけん。
にーさんのとなりで、眠るけん」

「やけん……ね?」

「明日のあさも、そのつぎのあさも、
きっと、いっしょにおはよう――しよーと?」


「おしまい。
やけん!
『それじゃあまたねで、おやすみばーい!!』」



;終


///////////////////////////////////

「それじゃあまたねでばいばいばーい!」という凪さまのお別れの挨拶、わたくし大好きでございますのですが、
ここではお休みばーい、ですね! 安眠誘導!!!


と、いうわけで次回は真闇姉をご紹介できればと思います!

ご期待ください!!!

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whisp 2020/05/26 23:29

【収録台本】まいてつ:ふかみ読み聞かせ『うさぎのもちつき』(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!!!

あやかし郷愁譚の購入特典で
https://www.dlsite.com/maniax/promo/ayakashinostalgia

『まいてつ読み聞かせボイスドラマ』 全7話

が、18作品コンプリート特典としてついてくることになりました!!!

内訳は以下の通りです!

・日々姫 「長靴をはいたネコ」
・ポーレット 「犬が言葉をなくしたおはなし」
・れいな 「炭鉱の白犬」
・ふかみ 「うさぎのもちつき」
・凪 「清柾公(せいしょこ)さんの虎退治」
・真闇 「ネコ岳の猫」
・稀咲 「きつねのみそしる」



というわけで、本日も台本紹介まいりましょう!!!

前回は大天使れいなちゃんによる『炭鉱の白犬』をご紹介いたしました!!
本日のご紹介はふかみちゃん! 『うさぎのもちつき』になります!

うさぎは好色、そのうえふかみちゃんもむっつりではございますが、大変健全な童話の読み聞かせ台本となります!
もしよろしければぜひぜひ! ご一読いただけますと幸いです!!!


///////////////////////////////////
;ふかみ、うさぎランジェリー特典ボイスドラマ
;『ふかみの読み聞かせ「うさぎのもちつき」』
;進行豹 v100_2016/12/19_v210_161220


;以下、セリフは全てふかみ
;タイトルコール

「早瀬ふかみうさぎランジェリー抱きまくら特典ボイスドラマ
『ふかみの読み聞かせ「うさぎのもちつき』」

;本編


「あったかい。です。
すごく安心――いいにおい」

「おひさまに干したおふとんと、
おにいさんの、体のにおい。
しあわせだな、って、思います。です」

「ええと、それじゃあ、おはなし、ですね」

「ちっちゃいときからずっと読んでた――
ううん、読み聞かせてもらってた、むかしばなしです」

「おかあさんとか、おじいちゃんとか――
ほんとにときどきは、おとうさんとかに」

「『うさぎのもちつき』っていうお話です。
それじゃあ、わたし、読みます。です」

「読み聞かせってはじめてだから……
つっかかったり、ヘンだったりしたら、ごめんなさい、です」

「もしも途中で眠くなったら、
そのまま眠っちゃってください。です」

「わたし、おにーさんの寝顔。みたい、です。から」

「はわわ、何言ってるんだろう。わたし。
それじゃあ、読みます。
『うさぎのもちつき』」



;以下の『』で始まる部分は、読み聞かせ
;「」ではじまる部分は、その間の会話です



『むかしむかし、クマの山奥にきこりのおじいさんがおりました』

『ある冬のこと。おばあさんがおじいさんに言いました。
「今年はおじいさんが としおとこ。神社におさめるおもちも[入用'いりよう]になりますね」』

『おじいさんはおばあさんに言いました。
「それならたぁんと木を切ろう。
今日はおにぎり、みっつこしらえてもたせておくれ」』

『おにぎりみっつを腰にさげ。
えっちらおっちら、お山にのぼり、おじいさんは木を切りたおします」

『「こんこんこらしょ、よいこらしょ」
 「もひとつこらしょ、よいこらしょ」
おじいさんはがんばりすぎて、おなかがぺこぺこになりました』

『「遅くなったがお昼にしよう」
おむすびの包みをほどき、おじいさんは切り株に腰をかけました』

『塩のおむすび ごろりんと。ひとぉつ、ふたぁつ、みっつです。
おじいさんは、いちばん大きいのにかじりつきます』

『するとガサガサ、草がなります。
 草の向こうに、ひょっこり赤いおめめです』

『ふたつならんだ赤いおめめがのとなりもガサガサ。
ならんだおめめがよっつになります」』

『おにぎりむしゃむしゃ見ていると、
おめめがふたつ、すこぉしこちらに近づいてきます』

『おにぎりむしゃむしゃ見ていると、
おいてけぼりのおめめもふたつ、すこぉしこちらに近づいてきます』

『しろのうさぎと、こがねのうさぎ。
おはなをくんくんさせています』



「……このお話、初めてきいたとき、
わたし、うそだぁって思っちゃった。です。
ウサギさんなんて、草むらから出てきたりしないって」

「でも、ですね? 本当にでてきたんです。ついこないだ、学園で。
野生のか、ペットのが逃げ出したのかわからないけど、ウサギさん」

「そしたら、体育の先生がおもしろがって、
『ウサギをつかまえたら5をあげる』っていって――
凪ちゃん、おおはりきりで」

「うふふ、凪ちゃん、ウサギさんのこと捕まえなくても
いっつも体育は5なのに」

「だけど、さすがの凪ちゃんでも、
ウサギさんのことは捕まえられなくて」

「凪ちゃん、すっごく悔しがって。
だからわたし、『一緒に巣穴を探そう?』っていってみたんです」

「ふたりで日暮れまで探しても、巣穴は見つからなかったんですけど――
でも、もし見つけててたら、このお話みたいに――あ!」

「ごめんなさい。おはなしの途中でした。です。
ええと――つづき――読みますね? ――ん。」」



『しろのうさぎと、こがねのうさぎ。
おはなをくんくんさせています』

『「おンや、ウサギもおにぎり喰うか」
おじいさんは、おにぎりひとつ、笑って投げてやりました』

『するとおむすびはころころと、ころげて穴に落っこちます。
しろのウサギとこがねのウサギもぴょんぴょんおにぎり追いかけて、
ぴょこぴょこ穴に飛びこみます』

;♪がついてる部分は、歌うように読んでいただけましたら幸いです

『とたんに、にぎやかな歌い声。
♪“おむすびころころ ころりん すっとんとん!”』

『おじいさんはおどろいたやら、おもしろいやら。
“それ、もうひとつ投げてみよう”』

『すると、ふたつのめのおにぎりも、
ころころ転げて、ウサギの穴に落っこちます』

『♪“おむすびころころ もひとつ すっとんとん!”』
またにぎやなな歌い声。おじいさんも、ますます楽しい気持ちになります』

『♪“おむすびころころ もひとつ すっとんとん!”
自分でもにぎやかに歌い出し、おじいさんは手拍子、足拍子』

『手拍子足拍子とんとことん おまけにお腹もぐうぐうぐう。
おじいさんは、はらぺこを思い出しました』

『「うさぎの歌をおかずにすれば さぞやおにぎりおいしかろ」
おじいさん、あんぐりおおきく おにぎりがぶり!』

『ところが、歌がとまります。
がぶりとしたままじいっとまっても、歌はすんとも聞こえません』

『「おンや おむすび もっと欲しいか」
はらぺこはがまんできますし、
家にかえれば、おばあさんがまた作ってくれます』

『「そンならやろう。ほぉれ、おにぎりたんと食え」
最後のおにぎりころころと、ウサギの穴におっこちます』

『♪“おむすびころころ みっつも すっとんとん!”
すぐに聞こえてきた歌に、おじいさんはまた嬉しくなって、
やれ手拍子の足拍子』

『♪“やれほれころころ ころりん すっとんとん!”
おじいさんも歌いだします』

『しばらくすると、しぃんと、しずまり返ります。
ウサギの歌がきこえません。
だけれど、残念。もうおにぎりはありません』



「……ここでわたし、クイズ出されたんです。
おかあさんも、おじいちゃんたちも、はじめてのとき、
みぃんな、聞いてきたんです、わたしに」

「うふふっ。だけど――ほんとのはじめては一回だけ。
おかあさんが読んでくれたとき。
そのときは、わたし、一生懸命考えました、です」

「一生懸命だったから、すっごくはっきり覚えてて――
だからわたし、おじいちゃんたちが、
『ふかみだったら どうするね?』って聞いてくれたとき、こまっちゃって」

「『答えしってる!』っていったら、おじいちゃんたち、
きっとがっかりさせちゃうし」

「だけど、しらないふりしてこたえるのも、
なんか、ズルしてるみたいで――いやだった。です」

「だから、わたし『わかんない』って、
それだけいって、お話のつづき、じいって、待って」

「そうしたら、おじいちゃんたち――
うふふ、わたしが知ってるの、わかってくれたんだと思います」

「ぽんぽんぽんって頭を撫でて――
おはなしの続き……やさしく、聞かせてくれたんです」



『しばらくすると、しぃんと、しずまり返ります。
ウサギの歌がきこえません。
だけれど、残念。もうおにぎりはありません』

『「こめつぶあつめて ちいさなおにぎり ひとつつくるか」
おじいさんは重箱をひっくり返して――つるり、手をすべらせてしまいます』

『重箱もころころころげて、ウサギの穴へ。
♪“重箱ころころ ころげて すっとんとん!”
こんどの歌は、びっくりしたのか早口です』

『「やれ面白い。重箱 ころげて すっとんとん!」
おじいさんも真似して早口。
早口な分、ウサギの歌はすぐに終わってしまいました』

『「これはこまった、もう投げられるものがない」
おじいさんは、あたりをあちこち見回します』

『けれどもなんにもありません。ウサギの歌も もう聞こえません。
おじいさんは、なんだかさみしくなりました』

『「ウサギよウサギ。どうしたらもっと歌ってくれるか」
おじいさんはそうたずねながら、ウサギの穴へ近寄ります』

『「あっ!」 足元がつるりすべります。
どってんごろごろ おじいさん、ウサギの穴へおっこちます」』

『♪“おじいさん ころころ ころりん すっとんとん!”
穴の中では、ウサギたちがおおよろこびです』

『「こりゃあたまげた」おじいさんの口がぽかあんと空きます。
ウサギの穴のひろいこと。まるで ごてんの 大広間です』

『♪”ぺったんぺったん おもちを ぺってんとん”
ウサギたちは、にぎやかにおもちをついています』

『ぴょんぴょこと、にひきのウサギがちかづいてきます。
しろいうさぎと、こがねのウサギ。そろって、ぴょっこり お耳を下げます』

『「おじいさん きょうはおにぎり たくさんたくさん ありがとう」
 「おかげで きょうのおもちつき おなかも すかずに すみました」』

『「おれいに おもちをつきましょう おじいさんちの しょうがつの」
 「ぺったんぺったん うさぎのおもち おじいさんちの おもちつき」』

『白とこがねのウサギにあわせ、ぴょんぴょこ たくさんのウサギたち。
 やれキネをもち、やれウスをだき ぺったんぺったん、はじめます』

『♪”おむすび ころころ ころりん すってんとん”
 ♪”じゅうばこ ころころ ころりん すってんとん”
 ♪”おじいさん ころころ ころりん すってんとん”』

『ぺったんぺったん。
 ウサギのおもちがつきあがるたび うたもころころ変わります』

『”♪おじいさんのおもち ぺったんとん
  ♪ウサギがもちつき ぺってんとん
  ♪まあるいおもちを ぺったんとん
  ♪ウサギのもちつき ぺってんとん!”』

『“♪くさのおもちは あんころころりん
  ♪しろいおもちは きなこをころりん
  ♪おさとうたっぷり ころころりん
  ♪さぁさぁおあじみ ぺってんとん!”』



;ツバを飲む音
「(ごくっ)」

「あ、ごめんなさい。
やだ、わたし――はずかしい」

「ここ、読み聞かせてもらってたときも、
いっつもだったんです。
『食べたいなぁ』って、すごく、すっごく思っちゃう、です」

「♪くさのおもちは あんころころりん。
 ♪しろいおもちは きなこをころりん。
もう、おいしそうでおいしそうで」

「……おもちつき、うちはするんです。
キネとウスで、[船'ふな]びらきのとき」

「むかしは、船頭さんたちがたくさんで。
一番客さんたちにもおふるまいして、にぎやかで、ほんと、お祭りみたいで」

「そのおもちも、もちろん最高においしいんですけど。
お正月までなんて――だって、まちきれない! です」

「だから、四角いおもちを買ってもらって、
オーブントースターで焼いて食べて……
それももちろんおいしくて、でも、やっぱり物足りなくって」

「だから、お正月。何倍も何倍もうれしくなる、です。
『これがウサギのおもちなんだなー』って」

「つきたてのあっつあっつのやわらかなの、
あんこで、きなこでいっぱいにして」

「今度のお正月は、おにいさんもいっしょですね。
いっしょに、おもちつきして。
あんこのおもちも、きなこのおもちも、たくさん食べて」

「うふふふ、お正月の楽しみ、
もっと増えちゃいました、です」

「……続き。あとちょっとになっちゃいました。
読み終わるのが、さみしいな。
少しだけ、ゆっくり読みます。です」


『“♪くさのおもちは あんころころりん
  ♪しろいおもちは きなこをころりん
  ♪おさとうたっぷり ころころりん
  ♪さぁさぁおあじみ ぺってんとん!”』

『うさぎのおもちで おなかぱんぱん ほっぺぽんぽん。 
 おじいさんも、ごきげんになって また歌います
♪“ほっぺが ぽろりん ころりん すってんとん!” 』

『しろいうさぎと こがねのうさぎが、重箱もたせてくれました。
「おもちをぎゅうぎゅう つめてあります」
「おうちにかえって あけてください とちゅうであけたらこまります」』

『穴の外までおくってもらって、山からおりて。
おうちに帰ったおじいさん どおれと重箱ひらきます』

『なかにはみっちり うさぎのおもち。
ひとつつまめば もひとつおもち むにゅんむにゅんと出てきます』

『おみやげどっさり ウサギのおもち。
 横で見ていたおばあさん びっくりぎょうてんしてしまいます。
「おじょうがつのおもちに、餅まきのおもちに、もっとたくさんありますねぇ」』

『おじいさんは にこにこ顔で おもちのウサギの話をします。
 おばあさんも にこにこ顔で ウサギのおもちの話をききます』

『「それなら、お礼をしましょうねえ」
 「お礼はなにが いいだろか」
 「お庭のダイダイ、どうでしょう」』


『いい考えだとおじいさん、 黄色くこぶりなダイダイもいで、
 えっちらおっちら、もいちどお山を登ります』


『「ウサギのおもちのお鏡に どうぞお礼に飾っておくれ」
 ♪“ダイダイ ころころ ころりん すってんとん!”』

『そりばっかり!』



「『そりばっかり』……うふふ、本当に、
『そりばっかり』なお話ですね」」

「『それで全部』。『お話はもうおしまい』。
すごく、すとーんって終わるお話」

「……そっか、わたし。
だから、このお話、大好きなのかも、です」

「……おはなしって、たいてい、
退治したりとか、よかったりわるかったりがありますよね」

「わたし、あれ、ちょっとだけ、苦手かも、です。
いなばのシロウサギさんは、皮、むかれちゃうですし」

「確かに、だましたり、悪いことしたりでおしおきされるの――
教育上? とか、そういうの、あるんだってわかるです。けど」

「でもやっぱり、せっかくお話しなんだから――、
あんまりそういうの、ききたくないっていうか……なんです」

「だからかな、って。思うです。
わたしが、このお話が大好きな理由」

「おじいさんがおにぎりあげて、
歌がきこえてたのしくて」

「ウサギさんもおにぎりで満腹になって、
おもちつきをがんばれて、それがうれしくてお礼して」

「おじいさんも、やっぱりうれしくて、
ウサギさんのあなにダイダイころがして、お礼して」

「だぁれもひとつもイヤなおもいなんてしないで。
出会ったみんなが、出会う前より、
もっと幸せなお正月をむかえられる、です」

「うふふふふふ、お正月にぴったりのお話ですよね。
ほんとにこれが『ハッピーニューイヤー!』」

「ウサギさんだし、二重にぴったり、かもです。
おみみのイヤーも、ぴょこぴょこハッピーニューイヤー」

「なぁんて、うふふ。ダジャレ、いっちゃいました。です。
わたし、やっぱりおじいちゃんたちの孫なんだなぁ――って――」

「あ――あともうひとつ。
このお話が好きな理由、ありました」


『♪“おむすびころころ ころりん すっとんとん!”』


「……おかあさんがこういう風に、
うたうみたいに読んでくれたんです」

「おかあさんだけじゃなくて、おじいちゃんたちもみんな。
だからわたし――思う、です」

「きっと、おじいちゃんのおかあさん――
わたしのひいおばあちゃんが、
うたってくれた、しらべが、ずっと」

「わたしまでずっと、伝わってきて――
それで、だから……ええ、と」

「わたしと、おにいさん――結婚して、
赤ちゃんできたら、そのこにも、おんなじふうに」

「――あは、わたし、夢見ちゃってますね。
まだ、起きてるのに」

「それとも……ふぁ――あ。
ほんとはもう、寝ちゃってるのかな?」

「ぬくぬくで、いいにおいがして。
おにいさんのとなり、しあわせで」

「あったかい――きもち……いい……ふぁ――――あ……」

「起きたら、夢だったら、さみしすぎ。です。
起きてもやっぱり、おにいさんのとなりにいられますように」

「おいのりをして、おやすみなさい。
ふかみうさぎは、眠りのあなに、おっこちちゃいます」

「おしまい――じゃなくて。うふふっ。
『そいばっかり!』」


;終

///////////////////////////////////


読書家のふかみちゃん、やはり読むときは読みに集中! なのですね!!


と、いうわけで次回は凪さま!
ご紹介できればと思います!

ご期待ください!!!

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whisp 2020/05/25 22:40

【収録台本】まいてつ:れいな読み聞かせ『炭鉱の白犬』(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!!!

あやかし郷愁譚の購入特典で
https://www.dlsite.com/maniax/promo/ayakashinostalgia

『まいてつ読み聞かせボイスドラマ』 全7話

が、18作品コンプリート特典としてついてくることになりました!!!

内訳は以下の通りです!

・日々姫 「長靴をはいたネコ」
・ポーレット 「犬が言葉をなくしたおはなし」
・れいな 「炭鉱の白犬」
・ふかみ 「うさぎのもちつき」
・凪 「清柾公(せいしょこ)さんの虎退治」
・真闇 「ネコ岳の猫」
・稀咲 「きつねのみそしる」



というわけで、本日も台本紹介まいりましょう!!!

前回はポーレット! 『犬が言葉をなくしたおはなし』をご紹介いたしましたので、
本日はれいな! 『炭鉱の白犬』をご紹介いたします!

これは、実在の炭鉱をイメージモデルとした、創作童話になりますね!

もしよろしければぜひぜひ! ご一読いただけますと幸いです!!!


///////////////////////////////////

;れいな、こいぬランジェリー抱き枕特典ボイスドラマ
;『れいなの読み聞かせ「炭鉱の白犬」』
;進行豹 v100_2016/12/26_v110_161227


;以下、セリフは全てれいな
;タイトルコール

「れいな、こいぬランジェリー抱きまくら特典ボイスドラマ
『れいなの読み聞かせ「炭鉱の[白犬'しろいぬ」』」


;本編


「見てくださぁい。お月さままんまるですよぉ」

「これなら、読み聞かせ。
月のあかりだけでできちゃいますねぇ」

「えっへへー、れいな、レイルロオドですから、
近眼になったりしないんですよぉ」

「だから、今日は月明かりで読みきかせ、
しちゃいますねぇ」

「よいしょ、よいしょ。
おふとん、おとなりはいりますねぇ」

「うふふぅ、とーってもあったかいですぅ。
それに、安心ないいにおい」

「すりすりすり~。
えっへへー、れいなのにおいも混ぜちゃいましたぁ」

「あのですねぇ、れいな。
読み聞かせしてほしいっていわれたとき、
とーってもうれしかったんですよぉ」

「れいな、およめさんになるまえは、
いっつもポーレットに読み聞かせしてもらってて、
ポーレットにも、ときどき読み聞かせしてあげてたんですよぉ」

「でもでも、れいなが一番よんであげたいおはなし、
ポーレットには、一回も読み聞かせしれあげられなかったんですぅ」

「だってポーレット、前までは、れいなが鉱山鉄道のころのおはなしすると、
ちょっぴり、かなしそうな顔になっちゃってたから」

「だけど、れいなが――あ!
うっふふ~ もう『あなた』って呼ばなくちゃだめですよねぇ。
だって、れいな、およめさんになったんですからぁ」

「ええと――うふふぅ、
れいながぁ、あ・な・た の、およめさんになってからは、
ポーレット、むかしのはなしをしても平気になったみたいですけど」

「だけど、もう、夜はあなたと一緒のおふとんだから、
ポーレットに読み聞かせしてあげることなくなったから――」

「だから、このおはなしは、誰にもつたえないままで、
きっと、忘れられていっちゃうんだって、さみしく思ってたんですよぉ」

「忘れられちゃうっていうのは――
あ! わすれたわすれた、取ってきますねぇ」

;SE 足音遠ざかる

;遠い声
「ええとぉ、よむ練習したときに持っていって――あ、ありましたぁ」

;SE 足音戻ってくる。

「よいしょ、もぞもぞ――
えへへ~ またあったかくなりましたぁ」

「忘れてたのは、これですぅ。この雑誌。
『炭鉱ぐらし』っていう、いまはもう無くなっちゃた雑誌なんですよぉ」

「一年に四回でて、れいな、買ってなかったんですけど、
なかに、いろんな炭鉱の情報とか、読み物とかが入ってて」

「それで、この号には『炭鉱の白犬』ってお話がのってて、
れいな、ちっちゃいこたちと一緒にいるとき、
おかみさんに読み聞かせしてもらって――」

「それでれいな、何回も何回もききたくなって、
何回も何回もおかみさんに読み聞かせしてもらったら、
『そんなに気に入ったなら』って、雑誌ごと、お話もらっちゃったんですぅ」

「でも、そのあと――
どこでも、誰の口からも、このおはなしのこと聞いたことなくて――
だから、あなたに聞かせてあげられるの、れいな、とーってもうれしいんですよぉ」

「それじゃあ、読みますねぇ。
れいな、たーくさん練習したから、
きっと上手に読めるって思います。えへへぇ」


「『炭鉱の白犬』」


;以下の『』で始まる部分は、読み聞かせ
;「」ではじまる部分は、その間の会話です

『シガ県に、小さな[炭田'たんでん]がありました。

『小さいといっても炭田です。
四つの炭鉱をかかえ、そこからはたくさんの[木質亜炭'もくしつあたん]が掘り出されました』



「あ、木質亜炭っていうのは……
えっと、石炭って、もともとは木だったって、知ってますかぁ?」

「木が地面にうずもれて、酸素がない状態で、地面の下からの熱とかで燃えて、
長い長い時間がたつと、石炭になるんですよぉ」

「普通の木も、酸素がたりない状態で燃えたら、
灰にならないで、[木炭'もくたん]になるですよねぇ」

「あれが、地面の中で起きて、それで長い時間に圧縮されて固くなったのが
石炭だって、思って下さぁい」

「それでぇ、完全に石炭になるほどの時間がたってなかったり、
なにか他の条件で、石炭化が進まなかった状態の、
なりかけの石炭のことを、亜炭っていうんですよぉ」

「で、木の組織が見えたままに亜炭化されたものが、
木質亜炭って呼ばれます」

「木質亜炭は、[埋れ木細工’うもれぎざいく]っていう工芸品の
材料になるくらい綺麗なのもあって――
もちろん、燃料としてもつかえちゃうんです」

「これだけわかってたら、あとの部分はぜぇんぶわかることって思うですから、
安心してつづき、きいてくださいねぇ――ええっと」



『そこからは、たくさんの木質亜炭が掘り出されました』

『大戦が起き、で海外からの石炭の輸入がとまってしまうと、
木質亜炭の価値も高くなりました』

『小さな小さな炭鉱まちに、100人を超える[鉱夫'こうふ]さんたちが働くようになりました。
北はホッカイドウ、南はオキナワまで、いろんな出身の鉱夫さんたちが集まりました』

『炭鉱には、番頭さんがいました。
いろんな人達が集まるようになりましたため、
番頭さんは用心のため、番犬を飼おうと思いつきました』

『[犬屋'いぬや]さんにいき、わけを話すと、
「番犬にならこの犬がおすすめです」と、
黒くて毛が短い子犬を進められました』

『いかにも賢そうな黒い子犬は、大きく強く育つそうです。
よろこんで買おうとしたとき、
「ヒャン」と甲高い鳴き声がしました』

『鳴き声の方を見てみますと、
まっしろくてふわふわの毛の子犬がいます。
番頭さんは、ひと目でその白い子犬が気に入ってしまいました』

『「この白い犬をくれ」と番頭さんが言いますと、犬屋さんは断りました。
「この犬は大きくならずに力も弱い、とても番犬の役にはたちません」』

『それでも番頭さんの気持ちはかわりませんでした。
「番犬の役にたたないとしても、この犬がいい。この白い犬をくれ」』

『けれど、犬屋さんの気持ちも変わりません。
「この犬は、世話をするのに大変な手間がかかる犬です。
忙しい炭鉱町では、とても暮らしていけますまい」』

『犬屋さんの言葉にも、番頭さんの気持ちはかわりませんでした。
「番頭のワシなら、面倒を見る時間を作れる。
大事にするからこの白い犬をくれ」』

『そう聞かされても、犬屋さんの気持ちもかわりません。
「この犬は体が弱く長生きできそうにありません。
とてもお売りができないのです」』

『どういわれても、番頭さんの気持ちはかわりませんでした。
「決して犬屋さんに文句はいわん。それでもワシは、この白い犬がほしいのだ」』

『そこまで言われては、犬屋さんも断れなくなりました。
「でしたら縁起をかつぐため、[戌'いぬ]の日の夜にこいつを買いに来てください。
そうしてくれれば、一生に一度くらいは、あなたの役にたつことでしょう」』

『番頭さんは、答えました。
「役にたたんでも構わない。
だが、お前さんがそういうのなら、戌の日の夜に買いにくるとしよう」』

『そうして、次の戌の日の夜。
番頭さんは犬屋さんから、まっしろくてふわふわの毛の子犬を買いました。
お値段は、番頭さんのひとつきのお給料よりも高いものでした』

『犬屋さんは、白い子犬を連れ帰る番頭さんに言いました。
「大事に世話してあげてください。
あなたのお役に立つ日を迎えさせてやるためにも」』

『白い犬は、犬屋さんのいったとおりに、番犬の役にたちませんでした。
どんなに怪しい人が来たって、
わんともきゃんとも鳴きもせず、尻尾を振っておでむかえしてしまうのです』

『番頭さんが白い犬に、「知らない人には吠えなさい」と教える様子を見ると、
鉱夫さんたちは笑いました。
「こんなに役立たずの犬は見たことがない。犬屋に返してしまうといいさ」』

『番頭さんは、静かに答えました。
「白い犬のことは放っておいてくれ。
こいつが役にたってくれる日は、まだまだ先のことなのだから」』

『白い犬は、犬屋さんがいったとおりに、大変に手のかかる犬でした。
ほんの一月もしないうち、ふわふわの毛がぐんぐん伸びて、
もこもこの、毛玉の大将のようになってしまうのです』

『番頭さんが、白い犬を犬の床屋につれていく姿をみると、
鉱夫さんたちはまた笑いました。
「こんなに手のかかる犬は見たことがない。犬屋に返してしまうといいさ」』

『番頭さんは、静かに答えました。
「白い犬のことは放っておいてくれ。
こいつが役にたってくれる日は、まだまだ先のことなのだから」』

『白い犬は、犬屋さんがいったとおりに、体の弱い犬でした。
少しでもはしゃぎすぎると、次の日には寝込んでしまうのです』

『番頭さんが、白い犬を犬の病院につれていく姿をみると、
鉱夫さんたちはまた笑いました。
「こんなにあわれな犬は見たことがない。犬屋に返してしまうといいさ」』

『番頭さんは、静かに答えました。
「白い犬のことは放っておいてくれ。
こいつが役にたってくれる日は、まだまだ先のことなのだから」』

『番頭さんは犬屋さんとの約束通りに、白い犬を大切に育てました。
けれども白い犬は、少しも大きくなりませんでした。
立派な大人の犬になっても、子犬のころと変わらぬ見た目のままでした』

『体が大きくならないばかりか、ふるまいも変わりませんでした。
立派な大人の犬になっても、子犬のことろ変わらず甘えて、
番頭さんより遅く起き、番頭さんより早く寝ました』

『そんなある日のこと。
白い犬がふと鼻をあげ、「ヒャンヒャンヒャン!」と狂ったように鳴き出して、
まっしぐらに外へと駆け出しました』

『「白い犬の日が来ちまったのか?」
番頭さんも急いで外へ飛び出しますと、
白い犬は、まっしぐらに[坑道'こうどう]入り口の方へと走っていきます』

『番頭さんの鼻が、ガスの匂いをかぎつけました。
これはいかんと、番頭さんは大声で叫びます。
「鐘を鳴らせ! 退避させろ! 全員退避!!」』

『(ドンっ!)
そのときです。大きな大きな音がして、地面が大きく揺れました』

『すぐに、ガラガラと崩れる音。
[落盤'らくばんです]です。
働いていたたくさんの鉱夫さんたちが、生き埋めになってしまいました』

『「落盤か」「えらいことだ」
[非番'ひばん]の鉱夫さんたちもすぐに飛び出してきて、
番頭さんと一緒に坑道入り口へと駆けつけました』

『坑道入口は完全につぶれていました。
すぐにも掘り出したいところですが、
ガスの匂いがとても強く、二次爆発の危険がありました』

『それに、うかつなところを掘れば、
それがまた落盤を[誘発'ゆうはつ]するかもしれません』

『「とにかく調査するしかない」
番頭さんがいったとき、
「ヒャンヒャンヒャン!」と、遠い鳴き声が聞こえました』

『「白い犬はどこだ!」
番頭さんが大声を出しますと、
また「ヒャンヒャンヒャン!」と、遠い鳴き声が聞こえました』

『「岩の向こうからだ」
「白い犬は中に入ったんだ」
「探せ! どこかに入れるところがある」
真っ青になっていた鉱夫さんたちに顔色がもどり、
いっせいに崩れた坑道入口にとりつきました』

『番頭さんと鉱夫さんたちとで探しますと、
崩れ落ちてきた大きな岩と岩との隙間に、
小さなガレキがまとまっているところがありました』

『白い犬が掘ったのでしょう、
そこには、小さな穴もあいていて、向こうに通じているようでした』

『すぐさま技師が調査して、
「ここになら、人が通れるくらいの穴を開けても大丈夫だ」
と言いました』

『みんなで交代交代に、手掘りで穴を掘りすすみます。
掘れば掘るほど、ガスの匂いは濃くなります。
いっこくの[猶予'ゆうよ]もありません』

『「ひゃん!」
近くから鳴き声が響きましたので手を止めますと、
白い犬が穴の中から飛び出してきました』

『白い犬は、てぬぐいをくくりつけられており、
てぬぐいには血で文字が書かれていました』

『その手紙から、
大勢が避難所に退避できていることと、
一人は足をつぶされてしまい、退避を出来ずにいることがわかりました』

『番頭さんが、沸かさせていたお湯をスキットルにいれました。
「体を暖めさせねば命にかかわる。すまんが、もう一度いってくれ」
白い犬は、スキットルをくくりつけられると、すぐにまた、穴の中へと駆け戻っていきました』

『やがて、なんとか人一人が通れる穴が空きました。
一番小柄な番頭さんが、マスクをつけて穴をくぐっていきました』

『穴をくぐっていきますと、
「ひゃん」とか細い声がします。
その声を頼りにいきますと、足を潰された鉱夫の頬を、白い犬が一生懸命になめていました』

『「もう大丈夫だ」
番頭さんが声をかけると、安心したのか、白い犬はくったりと眠り込みました』

『「ガスから逃してやってくれ。こいつは俺を助けてくれた」
足をつぶされた男は言います。
番頭さんは、白い犬だけ穴の外へと送り出し、またすぐに男のところへ戻り、励ましました』

『手早く処置をできたおかげで、二次爆発も起こることなく、
落盤は小規模で収まりました。
鉱夫の誰ひとり命を落とさず、足をつぶされた一人も骨折ですみました』

『番頭さんは穴から出ると、すぐに白い犬を探しました。
白い犬は、毛布にくるまれ寝かされていました。
番頭さんが病院に連れて行こうと抱き上げると、
うっすらその目をあけました』

『白い犬は口を開けましたが、鳴き声も出せないようでした。
番頭さんは、白い犬の頭をやさしくなでてやりました』

『「あの男は助かった。他にも誰も死なかった。お前のおかげだ」
番頭さんがそういいながら、頭をやっくりなで続けると、
白い犬は安心したように、うっとりと目を閉じました』

『番頭さんが犬の病院についたときにはもう、白い犬は冷たくなっていました。
お医者様の治療も、間に合いませんでした。
白い犬の日が来て、終わったんだと、番頭さんにはわかりました』

『「こんなに役にたってくれた犬はいない」
「こんなに賢い犬はいない」
「こんなに立派な犬はいない」
鉱夫さんたちは、白い犬のなきがらをかこんで泣きました』

『番頭さんと鉱夫さんたちは白い犬を埋めました。
白い犬の話は新聞にのり、
炭鉱の名前は、[白犬'しろいぬ]炭鉱にあらためられることになりました』

『そののちに、記念碑がたてられることになり、
それが、白い犬のお墓になりました』

『大戦が終わり、
亜炭の需要がなくなると、やがて、
丹田にあった他の3つの炭鉱同様、白犬炭鉱も廃坑となりました』

『けれども、今も白犬炭鉱の記念碑は残っています』

『おしまい』



「……ふぅ……れいな、ちゃあんと読めました!」

「このお話、れいな、最初に聞いた時、
白い犬がかわいそうで、ちっちゃいこたちと一緒に、
すごぉく、泣いちゃったんですよぉ」

「読み聞かせのとき、泣いちゃったらだめだから、
れいな、泣かないように、何回も何回も練習して」

「そうしたら、白い犬、かわいそうじゃないのかも――
って、少ぉしだけ、感じてきたんですぅ」

「だって、白い犬は、番頭さんのこと大好きだったって思うですから」

「役立たずっていわれて、なんにもできなくて、
お金も時間もたくさんかけさせちゃって、
体もよわくって、大きくなれなくて」

「それでも、番頭さんは、白い犬を大事にしてくれて。
『白い犬の日なんてこなくていい』って、
きっと、絶対に思ってくれてて」

「だから、白い犬は、白い犬の日を待ってたんだって思うです。
恩返し、絶対に絶対にしたいから」

「もちろん、死んじゃったらダメって、白い犬もわかってたと思うです。
死んじゃったら絶対に、番頭さんだってすごく泣いちゃうってきまってますから」

:後半涙声
「だから、いっしょうけんめいがんばって、
穴の外までちゃんと戻って、番頭さんと一緒――いっしょ――に」

「うぅ……うぅぅぅ~――
やっぱり――やっぱり――かわいそうですよぉっ――」

「れいな、れいな、ないちゃいそうだから。
ぎゅうって、くっついてもいいですかぁ――ううっ」

「うっ――ひっくっ――うっ――うっ――
うぇえ――うっ……ぐすん――ぐすっ」

「あぅ……うっ――っ――んっ――(ずずっ)――
う……ぅぅ……ふ――ふう、ぅ」

「……ん――ぐすっ――ふぇっ、ごめん――
ごめんなさぁい。れいな、泣かないって、思ってたのに」

「泣いちゃったら、いっしょうけんめいがんばって、
自分のお仕事を果たし切った白い犬のこと――
ただ、かわいそうみたいにしちゃって、
それは違うって思ってたのに――」

「だけど……やっぱり――
やっぱり、死んじゃったらダメですよ。
残されたひと、ぜったいぜったい、ずうっとすごく悲しいですよぉ」

「だから、れいなも――
メンテナンス、ちゃんとうけるし、
自分でもすごく気をつけますねぇ」

「だって、いっしょにいたいから。
あなたとずっといっしょがいいから。
あなたを泣かせちゃうなんて、すっごくすっごくいやだから」

「だから、あなたもしんじゃったらダメですよぉ。
れいな、泣いて泣いて、泣いて壊れちゃうにきまってますから」

「ずっと、ずうっと長生きして、
おじいちゃんになっても、もっと長生きして、
ずうっとれいなと、いっしょににこにこくらしてくださいねぇ」

「……大好きって、大変ですねぇ。
あ、ううんと、大好きよりも、もっともっと強い、この気持ち」

「ポーレットのこと、れいな、大好きで、大好きだけど――
ポーレットのことを考えも、こんなふうに、こわくなったり、
かなしくなったりとか、しなくって」

「ポーレットのことかんがえるとぽかぽかしてしあわせで――
あなたのこと考えると、ぎゅうってしたりくるしくなったり
こわくなったりとかもしちゃって」

「だけど、こうしていっしょにいると。
いっしょにいて、いっしょにおふとんのなかにはいって、
頭なでなでとかしてもらえると」

「こころのなかの怖いのとか不安なのとかがぜぇんぶとけて、
とけたのがふわーってして、
ぽかぽかしてしあわせなので、れいな、いっぱいになっちゃうんですぅ」

「恋とか愛とか、そういう気持ちがこれなんでしょうか。
れいな、まだよくわからないですぅ」

「だから、それも、いっしょにわかったらいいなって思うですぅ。
れいな、まだまだ、知らないこともわからないこともたくさんだけど――」

「あなたといっしょに、大事なことは、全部しりたいって思うです。
怖いこととか、苦しいこととか、
そういうことも、あなたといっしょに知るんだったら、大事なことって思うです」

「……なんだか、れいな、あたま、たくさんつかっちゃいましたぁ。
ちょっと、ぽーってする感じですぅ」

「このまま、れいな、ねちゃいたいですぅ。
あなたのとなり、あったかくって安心で、
世界でいちばん、大好きな、ぽかぽかしてる場所だから」

;あくび
「ふぁ……あ――ふぁぁぁぁ」

「ほかにもね? れいな、だいすきで大事なおはなし、
たくさんたくさんあるですよぉ」

「ポーレットが……おしえてくれた……ふらんく、の……いぬ……
おはなし……と、か――…………ふあっ!?」

「あ――あ。れいな、いっしゅんうとうとしちゃってましたぁ」

「ねたいけど、もうちょっとだけがんばったらねますけど。
でも、ねるまえに、大事なこと、ふたつしないと」

「ええと、ひとつめは――
『おやすみなさい』ですよぉ。
えへへ、ごあいさつは大事なのですぅ」

「それでぇ、もうひとつはぁ――」

;リップ音
「(ちゅっ!)」

「うふふぅ、おやすみのキスでしたぁ」

「あんしんしたら、眠たい……ですぅ……
あったかい――し…………いい……にぉ……ぃ……ん……うぅ」

「おやすみ……なさぁい……」

;寝息
「…………………………………………」

;寝息 F.O.

;了
///////////////////////////////////


――いかがでしたでしょうか!?

わたくしは昔、児童文学の作家になりたくて。
とある小さな新人賞の、「准賞」といういいんだか悪いんだかよくわかんないのいただいて。
授賞式にいき、その授賞式の審査員とか他の受賞者さんたちのリア充ぷりと教員率の高さとの圧倒され
「わたくしみたいな生き物は、この世界ではいきていけない」と、すっぱりその道を諦めた過去がございます。

のですが、やはり、創作童話! 書くととっても楽しいですね!!!

いつかまた、そっちの方も書いてみたいなと思います!!!

ということで、次回のご紹介はふかみちゃんです!

ご期待ください!!!

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