有坂総一郎 2022/03/25 18:30

君主論考察<1>

君主論

改めてマキャベリの君主論を読んでみると、そこに記されている君主像や君主の取るべき方策というものを現実/虚構問わずに実践を試みる者は数あれど、その多くは君主論に記された通りの末路を辿っていることが多いと気付かされる。

「現国」ではそもそも君主論を軸としてそれに沿った形での国政や外交を行い周辺国との攻防を進めているのだが、国家や君主を物語の主軸にしている作品は数あれどやはり、君主論に従いきれていない作中の君主や指導者が多い。無論、その世界にマキャベリに相当する人物がおらず君主論に相当する論理が存在しないことが理由になるだろう。無論、転生/転移者の場合は君主論に接していないことでその論理を活用していないということも大きな理由になるだろう。

さて、そこで君主論を活用した形で物語上において君主という存在、指導者という存在に設定を行うことがやはりその国家やその勢力の背景を構成出来るのではないかと思う。

例えば、「現国」において君主論で明確に活用されている部分を如何に書き出してみよう。作中での出来事とは関係なくに書き出していることを留意願いたい。これの出典は「リーダーの掟 超訳君主論」による。

1,悪人になる覚悟を持つ
2,慎重に振る舞い悪評を避ける
3,愛されるより恐れられる方が良い
4,獣と人間をうまく使い分ける
5,必要とあれば悪の道を行く
6,誠実で親切に見えるようにする
7,力強く振る舞う
8,謀反を防ぐ
9,国民を味方にする
10,自分で直接手を下さない
11,身近に仕える者を酷く傷つけない
12,力のある者を味方につける
13,国民を武装させる
14,国民への信頼を示す
15,かつての敵ほど人並み以上に忠義を尽くす
16,最強の砦は国民に憎まれないこと
17,自分が敵か味方か明言する
18,中立の道を選ぶと大抵失敗する
19,有能な人物を引き立てる
20,努力する者に報いる
21,有能で忠実な側近を選ぶ
22,君主のことを自分より優先する側近を選ぶ
23,必要な助言を聞く
24,人間の力で半分は変えられる
25,運だけに頼らない、時代に応じてやり方を変える
26,優秀で統一され軍を育てる
27,新たな領地に住む
28,新たな領地に睨みを効かせる
29,叩くときに徹底して叩く
30,滅ばないために敢えて戦う道を選ぶ
31,改革は強引に実行する
32,労せずして君主になった者は大いに努力する必要がある
33,悪逆の限りを尽くせば栄誉は得られない
34,残酷さは上手く使う
35,残酷な行為は繰り返さない
36,貴族の反抗を警戒する
37,野心のある者を警戒する
38,他国に頼らない
39,優れた法と優れた軍隊を持つ
40,お金目当ての兵には気をつける
41,援軍を当てにしない
42,自国軍で戦う
43,災いは芽の内に見つける
44,戦術を考え抜く
45,優れた先人に学ぶ

重複する部分は統合する形であるが上記が作中で明確になっている部分だろう。無論、読み返すと「リーダーの掟」に記されている150項目殆どを実行していることに気付くだろう。

さて、「天才王子」でも、ここに記された項目のいくつかを実践していることに気付くかも知れない。だが、「現国」のソーマと違い、「天才王子」のウェインの場合、君主論に真っ向から反する鼓動をとることが多い。それが物語を進めるそれでもあるから、ある意味では意図的にしているのではないかと考察している。

他のモノも考察出来ると良いのだが、生憎時間の都合と予算の都合でそんな余裕はないので、基本的にはこの二つを基礎としての考察を行い、同時に現実世界でのそれも比較してみる。

さて、「現国」作中でソーマは「国王システム」になりきることで自身の精神を保とうとして限界に達したわけだが、生まれつき君主の系譜でもなければ、当然の反応だと言って良いだろう。「国王システム」とはまさに君主論による君主像と言い換えても良い。

32,労せずして君主になった者は大いに努力する必要がある

「国王システム」によって精神的に限界を迎えたのは、まさにこの項目を実践してきた結果と言える。無論、大いに努力する必要があるという点については、他の項目にも挙げられているように、清濁併せのむことを求められ、残虐行為を行うこと、その結果を受け入れることを示している。

何も彼の指示で戦場で兵が死ぬことだけが、「国王システム」による努力というわけではない。

その点「天才王子」のウェインは生まれつき君主の系譜だ。当然、帝王学によって経験ではなく知識としてそれを知っている。そして、その責任を摂政として受け止め、国政に励んでいるわけだから、君主像としてはある意味理想的であると言えるだろう。

ただし、二人とも共通しているのは、労せずして君主になった者という点だ。経緯は違っても、ある日突然そうなった。しかし、彼らには武器があった。全くの徒手空拳ではなく、ソーマには君主論、ウェインには帝王学という。

だが、それでも不利な条件である。

何れも譜代の家臣がいない。

19,有能な人物を引き立てる
20,努力する者に報いる
21,有能で忠実な側近を選ぶ
22,君主のことを自分より優先する側近を選ぶ

彼らの急務はそこにあった。

ソーマは唯才令によって人材確保と譜代の家臣を得ようと考える。ウェインは自身の補佐官と軍部の若手将校と外国から流れてきた老将軍をまずは譜代とした。

しかし、ソーマとウェインの違いはそこにもあった。

ソーマは唯才令によって人材確保すると同時に国民に努力を促した。そしてそれを取り立てることで国家全体の活性化を目指したのである。

6,誠実で親切に見えるようにする
14,国民への信頼を示す

この項目を実行したと言えるだろう。

だが、ウェインの場合は少し違う。

6,誠実で親切に見えるようにする
16,最強の砦は国民に憎まれないこと

このイメージ戦略は一定程度行っていたのだが、

14,国民への信頼を示す

これをしていない。それは作中にも明確な表現として期待していない旨を語っている。よって、彼はイメージ戦略として国民への慰撫は行いつつも、国民とは一線を引いている。

だが、彼らは共通して以下のことを行っている。

1,悪人になる覚悟を持つ
2,慎重に振る舞い悪評を避ける
3,愛されるより恐れられる方が良い
4,獣と人間をうまく使い分ける
5,必要とあれば悪の道を行く
23,必要な助言を聞く
24,人間の力で半分は変えられる
25,運だけに頼らない、時代に応じてやり方を変える
29,叩くときに徹底して叩く
30,滅ばないために敢えて戦う道を選ぶ
36,貴族の反抗を警戒する
37,野心のある者を警戒する
38,他国に頼らない
39,優れた法と優れた軍隊を持つ
40,お金目当ての兵には気をつける
42,自国軍で戦う
43,災いは芽の内に見つける
44,戦術を考え抜く
45,優れた先人に学ぶ

周囲が敵だらけだと認識していれば当然の帰結であるから語るべきことは少ないだろう。

特にウェインは以下の項目が突出していると思える。

4,獣と人間をうまく使い分ける
5,必要とあれば悪の道を行く
23,必要な助言を聞く
25,運だけに頼らない、時代に応じてやり方を変える
43,災いは芽の内に見つける
44,戦術を考え抜く

交渉において相手を出し抜けるタイミングや出方を窺いつつ最大限に利用出来るモノを利用しようというそれだ。そのためには平気で嘘もつくし、煽りもする。無論、相手が悪いと裏の糸を読み取られた上で手玉に取られると言うこともあるが。そこが「天才王子」の見所であると思う。

相対してソーマはどうかと言えば、君主論に忠実にあろうとし、手を汚すにしてもそのタイミングを計り、行動を起こしている。その意図するところは表には出てこないが、着実に望んだ方向へ向けていき、また、自分の意図していることを他者が行っている場合、自分が表に出ずに直接手を下さない形で改革を推進させるという手法もとる。

また、両者において領国経営でも違いが見られる。

27,新たな領地に住む
28,新たな領地に睨みを効かせる

ソーマは占領地であるアミドニアに出張って一時的に政府機能を移転させてまで占領統治を行い、またアミドニア併合時も同様に政府機能を移転させた上での統治を安定するまで行っているが、ウェインは軍と一緒に行動していての結果的な占領統治であり、マーデン併合時に同じ行動をせず、あくまでマーデン侯爵領として扱いマーデン侯爵に統治行為を任せている。

8,謀反を防ぐ

これに対して有効な手段とはならず、作中でも謀反若しくは自立の可能性を疑う描写が出て来ている。

一連の流れからこういった考察をしてみているが、どちらがより優れているとか、そう言う話ではなく、あくまでも君主論を通して二つの君主の取っている方策の違いを考察しているに過ぎない。

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